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「趣味の充実が仕事に活きる」という言説に違和感を抱きつつ負い目は感じたくない同人女が考える、同人活動が高めてくれる3つの力

「同人活動をしていると仕事ができるようになる」

 出典が定かではありませんが、以前Twitterでこんな言葉を見かけました。誰のどんなツイートだったか、前後の文脈も忘れてしまったのですが、確かに見かけました。見かけて、「そう……なのか……!?」と思ったから印象に残っていたんです。(勤務中以外すべての時間を同人活動に全振りしたい同人者)

 そもそも私はビジネス書等に出てくる「ビジネスパーソンこそ小説を読み想像力を養おう!」などに代表されるような「プライベートの充実や娯楽体験は、仕事にも還元できる」といった言説が苦手です。もちろん、どういった理由で娯楽を楽しむかは自由ですし、そこから結果として学ぶことがあることも事実。しないよりしたほうがいいとも思います。ただ頭ではそう理解している一方、「仕事のためにって……好きだから読むものでは……?」という感覚が拭えません。

 そうした価値観なので、「同人活動をしていると仕事ができるようになる」についても近い違和感を抱いていました。
 しかし、まさしく弊社が掲げるのは「趣味やプライベートの充実」。そのなかで「休みの日何してた?」と言われて答えられない状況……! 周囲は、イベント企画、セミナーへの参加、家庭菜園、写真、英会話、資格の勉強……と、非常にそれっぽいのに!
 同人活動だって、ソッチの価値軸で見てもいいことってあるのでは? ということで考えてみました。結論から言うと、あらためて噛み砕いて整理してみると、一理あるかもしれません。同人活動、いいんじゃない!? 絶対公言はしないけどね。

 この記事は同人活動を通じた自己啓発ではありません。あくまで所感の備忘録ではありますが、「周りは生活と仕事を一体として考えているのに、自分のプライベートは同人ばかり……」と若干の負い目がある私のような方が、私たちの同人活動を前向きに捉えられるきっかけになれば幸いです。


■仕事ができるようになるって?

 前提として「仕事ができるようになる」が何を指すのかある程度の定義を決めましょう。
 まず、特定の専門職の方向けの「絵(文筆)の技術が高まる」は枝葉であると考えます。「PC操作に慣れる」「梱包が上手くなる」も同様(慣れますよね……) ここで言いたいのは「仕事」全般において汎用性の高い能力向上です。
 基準となる考え方が必要なのでここは仮に、好業績を上げている企業であり、能率向上の施策が有名なトヨタを例に出したいと思います。トヨタではWhat/Why/Howの3項目で企画書を作成すると聞くので、この基準を分解して考えてみました。
「What=なにを行うか、Why=背景や目的、How=その実現方法」とすれば、つまり仕事ができるとは「目的に対して適切な案を設定しその具体方法を実行できる」状態であると仮定してみましょう。
 この仮定がどう「同人活動」に結びつくのかについては、「同人活動」=「オフ活動」だと考えると、少しわかりやすくなってきます。オフ活動では「What:X月のイベントで〇〇な本を出す Why:〇〇してる推しキャラが見たい How:作品をつくる」に加えて、それを広く人に届けるためのHowとして「印刷所に見積もりを取る、需要を読み部数や価格を決める、SNSで宣伝する、自分でレイアウトしたスペースで頒布する」といったマーケティング・ブランディングも行います。
 この共通項があることを考えると確かに、同人活動で一連のフローを楽しみながら取り組むことで、仕事を円滑に動かす感覚も自然と身に付く――と言えなくもなさそうです。

■あるかもしれない3つの好影響

 さて、具体的にはどんな良い影響があると考えられるでしょうか。
 個人的な経験として、身についているのかもしれないと思う3つの能力について解説していきます。

①目標から遡った計画力・実行力の向上
 目標なんて大それたものはないし本能の赴くままだよ! と思われるかもしれませんが、私たちが本を出すうえでは、意識せずともこれは設定しているはずです。それは「X月のオンリーで新刊を1冊出す」といった当たり前かつシンプルなもの。
 ですが、この当たり前ともいうべき目標を達成するために、私たちは趣味の活動にも関わらず「達成のための進行管理」を自ずと行っているのです。印刷所で締切を確認し、そのために一日の作業量目安を漠然と掴み、ツイッターの名前を「原稿@25%」に変え、途中で最終頁数が増えそうなら作業量を見直し、なんとか締切に間に合わせる……これを個人で(漠然とでも)計画・実行しているのですから、仕事のうえでも当たり前のように発生するこうした状況への対応も慣れていく部分があるような気がします。

②生み出し、伝え、届ける力の向上
 もう1つは創作それ自体で育まれる力。「〇〇な推しカプ」を一番自分がアガる形で……できれば多くの人にこの妄想の良さが最大限伝わるよう、話の構成、作風や空気感、表紙デザイン、装丁などなど――総合的な要素のある「本」という形にするために私たちは多くのことを考えます。
 更には、それを広く届けるために「Twitter上の告知のための画像・投稿文言の作成」「pixivへのサンプルアップ」といった作業を行います。この時も、どういった見せ方をすれば興味が引けるか、投稿の時期や時間、通販告知のタイミングなど、工夫のしどころは様々。
「生み出して、伝え、届ける」――これはあらゆる仕事全般に通ずる部分です。

③自己効力感の獲得
 ここまでくればお分かりのとおり、同人活動、やることが結構多いんです。仕事にも匹敵するくらい。これを私たちはやり遂げているんですよ。たった一人で。生活を送りながら余暇の時間を使って。
 これって相当すごくないですか?
 自己効力感とは「自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること」です。本を出した瞬間のやり遂げた気持ち、自分はやれるんだぞという自信。
 自分の可能性を信じることは、仕事に関わらずあらゆる場面で良い方向に転じるきっかけになりそうです。


 以上の要素は最初に定義した「目的に対して適切な案を設定しその具体方法を実行できる」状態を叶えることに貢献しそう、ですよね……? このことから、「同人活動をしていると仕事ができるようになる」はあながち間違いではなさそうです。

 また、たとえ目に見えるような成果がでなくても、「自分、仕事できないわ」と思っていても、最後の「自己効力感」は自分の可能性を信じることができる最強の武器です。
 同人活動をしているとは言えず、周りから「あの人は休みの日いつも家でゴロゴロしているらしい」と思われていても、誰にも理解されず気づかれなくても、胸を張ってください。私たちはやり遂げられる!


■確実にある(かもしれない)悪影響

 プラスの面だけ語るのもフェアではないので、マイナスの面も見ていきましょう。

・生活がメチャクチャになる

「書けない、時間がない、仕事している場合じゃない」と睡眠時間を削りながらTLに悲鳴を投下するようなことにはなりたくなかった……(計画力とは……

 どうやって修羅場を乗り切るか、生活を送りながら原稿をしていくためのノウハウは多くの方が記事にしているので割愛。「仕事に悪影響がでないようほどほどにしましょう」なんてことは絶対言わない信条ですが、「健康への影響」だけは気をつけて、体を第一に今日も頑張っていきましょうね。
 11月20日締切原稿:進捗33%の文字書きより。

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