生と死を分ける数学:人生の(ほぼ)すべてに数学が関係するわけ を読みました.

数学読み物で英語と日本語の両方が入手できるものを定期的に探しています(大学院の講義資料として).今回読んだのはこちらの本.「生と死を分ける数学:人生の(ほぼ)すべてに数学が関係するわけ」

取り扱われている数学的なトピックは(私には)なじみの深いものばかり.指数関数的増加,ベイズの定理(感度と特異度),事象の独立性,統計と平均への回帰,表記法,アルゴリズムと最適化,SIRモデル,などなど.応用数学として選ぶのであればまぁ納得の選び方で,ここには斬新さはありません.

数理系学科の大学2~3年生でカバーできそうな数理的な内容ですが,この本が目新しかったのは著者が「数理生物学」を専攻しているという点.実例がいずれも生物学から社会・政治・法律まで広がって採取されており,日本語題名の「人生の(ほぼ)すべてに数学が関係するわけ」にも納得です.それでいて数式は本文中に全然と言っていいほど出てこないのがすごい.数式を読める場合は書いてくれた方がかえってすんなりいくものなのですが,この本は読者に対して数学そのものを理解してもらうことではなく,読者に「数学が世界を理解するために使われていること」を理解させることを目的としているので,これも納得の構成です.

弊学の学生に対する英語読み物教材とするには第6章「飽くなき最適化」が良さそうなのですが,なんといっても第7章「感受性保持者,感染者,隔離者 - 感染拡大を阻止できるか否かは私たちの行動次第」が出色です.感染症拡大に対するいわゆるSIRモデルを解説する内容で,これまでの人類史での感染症の拡大・およびその封じ込めに成功した具体的な事例をこれでもかというほど提示してくれます.原著が出版されたのが2019年というのも素晴らしいですね.

まだ文庫化されていないようですが,近いうちに文庫化されて広く読まれることを期待する1冊でした.

(初稿:2022年9月)


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