紺乃未色(こんのみいろ)

小説・エッセイnote。いろいろ書きます。

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私にヨガの先生はできません!【第一話】無理です!

【あらすじ】 【第一話:無理です!】  前屈をする。 わかっていたけどやっぱり痛い! 太ももの後ろの薄い皮はピンと引っ張られてぴりぴりするし、ふくらはぎの裏側もちぎれてしまいそう。  毛穴からじわりと滲む汗は涙なんじゃないかって思う。体のどこかから、すすり泣く声が聞こえたような気がした。 「うう」  十月の土曜日。まだ温かさの残る閉店後のホットヨガスタジオで、私は呻く。  両足を揃えて立ち、上半身を前に倒した状態。指先はかろうじてスタジオの床についている。痛みのせいで呼吸

    • 私にヨガの先生はできません!【第二十二話】突然の電話

      【第二十二話:突然の電話】  翌日は午後からカレンの家を訪れていた。アクセサリーの梱包作業を手伝うためだ。そのまま夕食を一緒に食べようという話になっている。 「あ、これ新しいやつ? 可愛い!」 「そやろ? 入荷してみてん。でもなあ、もうライバル店はすでに販売してるから、一歩出遅れた感じやわ」  カレンがため息交じりに言った。 「そっかあ」  どうやら、先月と状況は大きく変わっていないようだ。  ふいに、部屋の隅に視線をやると、そこには、ソーイングセットと作りかけの小さなぬい

      • 私にヨガの先生はできません!【第二十一話】物販って大変だ!

        【第二十一話:物販って大変だ!】  七月五日。  ホットヨガスタジオ・Vegaの店内は、ささやかながら七夕イベントモード。  今月末までの期間限定でフロント前には、笹を飾っている。手続きをするテーブルの端に、短冊やカラフルなマジックを置いてあるから、誰でも願い事を書いて、笹の葉に吊るすことができる。 『料理が上手くなりますように』 『お金持ちになりたい』 『国家試験に受かりますように』 『年内に結婚する!!!』  青々とした笹の葉に吊るされた色とりどりの短冊には、さまざまな

        • 私にヨガの先生はできません!【第二十話】自信がないのなら

           やるしかない、とあらためて思ったのは本社の最寄り駅のプラットホームで電車を待っているときだった。  雨はついさっき止んだものの、空は雲に覆われ、いまいちすっきりとしない。 「うう……」  会議では目立たないように大人しくしているつもりだった。それがどうしてもできなかった。  自身のレッスンの集客もままならないのに、仕事を増やしてどうするのだ。時折、聞こえる新幹線のブレーキ音が、そう責めてくるように聞こえる。  そうだ、そうだと、賛同するもう一人の自分を頭の片隅に追いやるよう

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        私にヨガの先生はできません!【第一話】無理です!

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        • 【小説】私にヨガの先生はできません!【全三十話】
          22本
        • 読書感想文
          1本
        • エッセイ
          1本
        • 創作活動の記録
          6本

        記事

          私にヨガの先生はできません!【第十九話】ルイボスティーは売れない?

          「はじめまして! 片井虎太郎と申します」  スーツを着た長身の男性はハキハキとした口調で名乗った。高身長。艶のある黒髪、そしてなにより良く通る声と名前が数ヶ月前に会った彼だと証明していた。  二十人近くがいる中ですみっこにいるからか、はたまたスーツによって雰囲気が変わっているからか、片井さんはこちらには気づいていないようだった。  もはや、私のことを忘れてしまっているのかもしれない。それならそれで、べつに気にすることじゃない。  私たちはあのとき、お互い課題があって、たまたま

          私にヨガの先生はできません!【第十九話】ルイボスティーは売れない?

          「ナースの卯月に視えるもの」を読んで【読書感想文】

          私はお仕事小説が好きです。 でも、大きな病気や怪我の物語はちょっと苦手。 とくに人が亡くなるシーンがあると、しばらく気持ちを引きずってしまうから。 今回、拝読した秋谷りんこさんの「ナースの卯月に視えるもの」は、好きと苦手がどちらも詰まった作品……だと思っていた。 おそるおそる手にとってみて、拝読後に感じたのはじんわりとした温かさ。 切なさや悲しさを感じるシーンもあるけれど、優しい気持ちに包まれます。 以下、念のため、ネタバレ注意です。 この作品の魅力は、謎がらみの先

          「ナースの卯月に視えるもの」を読んで【読書感想文】

          マシンピラティスに10回通ったら、カラダは変わるのか?【実録】

          2024年に新しくはじめたことの一つがマシンピラティス。 30代になってから、あちらこちらに身体の不調が……。 健康のための運動はヨガや筋トレなどいろいろありますが、今回はずっと気になっていたピラティスに挑戦することにしました。 ホットヨガのLAVAの姉妹店「リントスル」に通っています。 そして、10回が経った今思うこと、、、 ピラティスって凄い!カラダの違い、感じる! ピラティスについて調べているとこんな言葉に辿り着きます。 以前は「本当かな~?」と思っていま

          マシンピラティスに10回通ったら、カラダは変わるのか?【実録】

          私にヨガの先生はできません!【第十八話】本社会議

          【第十八話:本社会議】 「ねっむ」  あれから、結局一睡もできないまま朝を迎えてしまった。  六月下旬の今日は、本社会議に出席する日だから、体力を万全にしておきたかったのに。  天候はあいにくの雨。  私は新幹線から雨粒のついた窓の向こうを眺めながら、憂鬱さを感じていた。本社会議は基本的に店長が出席する。プラス、毎月、一人か二人か社員が勉強を兼ねて参加することになっている。あろうことか、今月は私の番だった。 「知られてるよね……?」  誰に問いかけるわけでもなく呟く。  四

          私にヨガの先生はできません!【第十八話】本社会議

          私にヨガの先生はできません!【第十七話】最悪なこと

          【第十七話:最悪なこと】  ホットヨガスタジオはいつも通りの温かさだった。照明の加減も、床のクッション性も、音の響き方も、すべてがおんなじ。  でも、なんだか視界にモヤがかかっているような感じがする。ピントが合わないカメラを覗き込んでいるような、彩度の低い古びた映像を見ているときのような、そんな感覚だ。  いや、今は気にしてなんかいられない。 だって、レッスンの参加人数が三十人。憧れていた満席だ。  私は俄然やる気になった。人気インストラクターとしての一歩を踏み出したのだ!

          私にヨガの先生はできません!【第十七話】最悪なこと

          私にヨガの先生はできません!【第十六話】えりかさんの反省

          【第十六話:えりかさんの反省】  カレンの住んでいるマンションから帰る途中、私はホットヨガスタジオ・Vegaに寄ることにした。  ペンタスビルディングの玄関は、夕陽に照らされてオレンジ色に染まっている。冬に比べると遅いけれど、七時前になるとさすがに日は沈んでいくみたいだ。 「おや、こんばんは。これからですか?」  玄関の辺りを箒でゆっくりと掃きながら、光坂さんが言った。七十代くらいの彼は、ビルのオーナーだ。こうやって清掃しながら、テナントのスタッフとコミュニケーションをとっ

          私にヨガの先生はできません!【第十六話】えりかさんの反省

          私にヨガの先生はできません!【第十五話】ハンドメイドはやめたんだ

          【第十五話:ハンドメイドはやめたんだ】  次の日曜日、六月九日は曇りだった。  ネックレス、ピアス、ブレスレット。きらきら輝くアクセサリーがテーブルいっぱいに広がっている。 「これを袋につめていく感じね」 「うん。ほんま助かるわ。仕入れサイトから届いた状態のままやと、さすがに売り物として出せんくてな。慌てて台紙と透明の袋買いたしてん」  友人の詩丘カレンは近くにある小さなダンボール箱を漁り、小さな袋を取り出して見せてくれた。 「あー、なるほど」  少しくすんだ透明の袋にアク

          私にヨガの先生はできません!【第十五話】ハンドメイドはやめたんだ

          私にヨガの先生はできません!【第十四話】集客に苦戦して

           【第十四話:集客に苦戦して】  六月がやってきた。  じめじめとした生ぬるい空気が、体力も気力も削っていく。そして、私を悩ますのは、蒸し暑さだけじゃなかった。 「十六人か……」  私はレッスン後のスタジオでぽつりと呟いた。  三十人収容のスタジオで、十六人しか参加者がいない。 これが初心者向けのビギナーヨガであれば珍しいことではない。ステップアップしたくて、他のレッスンを受けるのは自然なことだから。  でも、今のクラスはハタヨガ。曜日や時間帯の集客のしにくさを考慮しても、

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          私にヨガの先生はできません!【第十三話】新しい扉の向こう側

          【第十三話:新しい扉の向こう側】  なにかに夢中になっていると、月日はあっという間に流れる。午後の風が暖かくなり、公園の桜が青空に映える四月二日。火曜日。  天気は快晴、体調も万全。 「よし」  ペンタスガーデンのエレベーターの中、私は鏡の方を向いて、大丈夫だと言い聞かせるようにうなずく。  すぐにエレベーターは三階に止まった。リン、という耳に馴染みのある音が、いつもより凛々しく感じられる。  今日のシフトは遅番だ。私は十四時に出勤して、十四時半からのビギナーヨガでインスト

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          私にヨガの先生はできません!【第十二話】過去と今のココア

          【第十二話:過去と今のココア】  翌日、私は仕事終わりにカフェ・くじら座へと向かった。  扉を開けると、カウンター席のところにカレンの背中があった。その向こう側にいる一ノ瀬さんがこちらを見て、笑顔でアイコンタクトをしてくる。 「ごめん、待った?」  三日ぶりに会うカレンの隣に腰掛ける。 「いや、ぜんぜん、さっき来たところや」  カレンの声には、いつものような力強さが宿っていなかった。それが、自分とのやりとりのせいだと思うと、申し訳ない気持ちになる。 「あ、それ、ココアだよね

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          私にヨガの先生はできません!【第十一話】ぬぐえない不安

          【第十一話:ぬぐえない不安】  翌日、小さな更衣室で私服から制服に着替えてスタッフルームの扉を開けると、フロントからのSOSのコールが鳴った。 「あ、私行きますね」  私はえりかさんに声を掛けて、すぐにフロントに出た。 「笹永さん、コース変更希望の方がいらっしゃったんです。私、手続き入りますね」  アルバイトの天野さんが言った。   私は彼女に代わってフロントに立ち、会員様がチェックイン・アウトされる様子を見守る。システム上、受付業務は自動でできるけれど、たまにイレギュラー

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          私にヨガの先生はできません!【第十話】トラブルと信頼

          【第十話:トラブルと信頼】  次の日は、天気予報の通り朝から雨が降っていた。  私は部屋の遮光カーテンを開ける。  晴れの日なら一気に光が入ってくるけれど、どんよりとした曇り空のせいで、室内はちっとも明るくならない。 「最近、雨ばかり」  そう呟いたときだった。スマホの着信音が鳴った。画面に表示されているのは、「Vega」の文字。 私は応答ボタンを押しながら、カレンダーに視線をやる。 「はい。笹永です」  今日は、遅番シフトで間違いないはずだ。  めったにない店舗からの電話

          私にヨガの先生はできません!【第十話】トラブルと信頼