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読書備忘録

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小さな書評集と称して、推薦図書を紹介しております。当記事が素敵な本と出会うきっかけになりましたら幸いです。
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#ラテンアメリカ文学

【読書備忘録】自転車泥棒から仮想の騎士まで

 日本翻訳大賞の推薦が完了したから次はTwitter文学賞の投票だと息巻きながら本文を書いています。一月二月は読者参加型の賞が連続するため、一年間の出版を振り返る時期になります。この一年間もたくさんの良書に出会えました。けれどもそれ以上に未読の書籍が多く、まだまだ読みたりないというのが正直な気持ちです。未知なる頁を求め、一頁の面白さを噛み締め、最近のおすすめ本を紹介させていただきます。 * * * * * 自転車泥棒 *文藝春秋(2018) *呉明益(著) *天野健太郎(

【読書備忘録】ヴィクトリア朝怪異譚からガルヴェイアスの犬まで

 一二月頭の夏日は何だったのでしょう。数日後には一転して寒風が吹き、師走らしい寒気に見舞われています。もう奇怪な気象に馴染み始めているのであまり驚きませんが、お世辞にも健康的とはいいがたい現象だけに勘弁していただきたいものです。さて。今回の【読書備忘録】は二〇一八年刊行物が多いですね。復刊も含まれています。これから名著になる素敵な書籍が並んでいるので、少しでも読書のお手伝いができれば幸いです。 * * * * * ヴィクトリア朝怪異譚 *作品社(2018) *ウィルキー・

【読書備忘録】狂人の船からネット狂詩曲まで

 この序文を書き始める前コミックマーケット95の当落発表がありまして、Twitter/Mastodonは大変な盛りあがりを見せていました。そのため公開を若干遅らせた次第です。それにしても11月ですよ。そろそろ冬の足音が聞こえてくる季節なので、風邪など召さないよう体調にはお気を付けてください。ときには読書でもして静かな時間をすごしましょう。というわけで今回もおすすめの本を10冊紹介します。 * * * * * 狂人の船 *松籟社(2018) *クリスティーナ・ペリ=

【読書備忘録】奪われた家/天国の扉から流され雛の朝まで

 日本といえば自然災害と認識されそうですし、実際その見方は正鵠を射ていると痛感するこの頃。近畿地方を中心とする台風被害、北海道で発生した大地震。それらの続報を見聞しながらこの文章を書いています。複雑な気持ちですけれどもバタバタしたところで事態は好転しませんし、せめて暗闇に灯る一点の光になれることを願い、平常運転で日々をすごす所存です。東日本大震災では筆者の地元も少なからず影響を受けました。余震や飲食問題が心配される中、精神状態を保つのに本は大きな力になりました。それを思い起こ

【読書備忘録】日本人の恋びとから文豪たちの友情まで

 記録的という生易しいものではなく、新記録を樹立した二〇一八の酷暑。肉体を動かすのも億劫で必然的に読書量が増えております。もう本でも読まないとやっていられません。今回は若干文庫本多めでお送りします。また、全三巻を分割するという初の試みもしており、そちらも注目していただけると嬉しいです。素敵な本がたくさんありますよ。 * * * * * 日本人の恋びと *河出書房新社(2018) *イサベル・アジェンデ(著) *木村裕美(訳)  名作『精霊たちの家』で世界的に名を馳せたの

【読書備忘録】蕃東国年代記からボルヘス怪奇譚集まで

 この文章を書いているのは五月三十日。間もなく梅雨入りです。暑気にはそれなりに対応できる方ではありますが、湿気には弱くて梅雨は乗り越えるぞという覚悟を決めなければいけません。あと湿度が高くなると文庫本や新書がペコンと歪むことがあるので、保護に全身全霊をささげるつもりです。それでは今回もお気に入りの本を紹介します。 *  *  *  *  * 蕃東国年代記 *創元推理文庫(2018) *西崎憲(著)  唐と倭国の中間にある小国蕃東。ときは臨光帝がおさめる時代、宮廷に仕える貴

【読書備忘録】ドニャ・バルバラから落下症候群まで

 先日スマートフォンを購入して日常をアップデートしました。それに関しては以前雑記で書きましたね。とはいえ電子書籍はデスクトップか電子書籍端末を利用しているので、今のところ読書環境自体は従来通りです。それでもこの未来機器が新たな世界を見せてくれるのではないか、と期待しています。というわけで(?)今回もお気に入り本を紹介しますね。 *  *  *  *  * ドニャ・バルバラ *現代企画室(2017) *ロムロ・ガジェゴス(著) *寺尾隆吉(訳)  ロムロ・ガジェゴス賞で

【読書備忘録】エロマンガ表現史からマイタの物語まで

 春らしからぬ寒風が吹いているこの頃、春眠どころか冬眠しそうです。皆さまも体調にお気を付けてください。さて、前回からやや間隔はあきましたが、この間にもたくさんの良書に出会えました。その中から特に気に入った書籍を紹介します。 エロマンガ表現史 *太田出版(2017) *稀見理都(著)  面白かった。エロスの代表格である「おっぱい」の表現方法、乳頭に躍動感を与える「乳首残像」、古くは葛飾北斎もとり入れた「触手」、グロテスクでありながら濃厚な交接を展開させられる「断面図」、絶頂