[読書ログ]日産 童話と絵本のグランプリ入賞作品4冊
毎年日産が開催している童話と絵本のグランプリ、今回初めてだけど挑戦してみようと思い、過去の入賞作品を読んだのでログをつけておく。
4冊読んでみての感想は、アイデアの面白さが光っている作品が受賞していること。ある程度の傾向があるわけではなく、様々な方向、切り口の作品がまんべんなく入賞していること。
たった4冊しか読んでいないけれど、その懐の深さというか、児童文学を見つめる視点がとてもいい童話賞だなと思った。
「春のかんむり」
作:門林真由美 絵:岡本万里子
あらすじ
美容院「かみふうせん」に一本の電話がかかってくる。
電話の主の青年が店にやってくると、女の人の頭を飾るのが得意な美容院なら、自分が恋人と結婚するために必要な素敵なかんむりの作り方を教えてくれと言う。
詳しく話を聞くと、青年は人間に化けたキツネだった。
美容院の主人があれこれ考えて、キツネに素敵なかんむりの作り方を教えるというおはなし。
感想
第9回の大賞作品。童話らしい童話。
アイデアのすばらしさが光る作品。
最初にかんむりを作らなければならないという問題があり、美容院の山田さんが問題に向き合ってあれこれ考え、最後にキツネがとっておきのかんむりを披露する、という三段階の構成。
ところどころ文章の言いまわしや、設定が分かりづらいと感じるところがあったが、とっておきの素敵なかんむりの設定がキュートですばらしい。
これ、どうやってネタを思いついたのだろうと気になった。
かんむりの設定を先に考え付かないと思いつけないような話だ。
春の色とりどりの雰囲気や、色合い、絵も春らしいふわふわとしたかわいらしさもとてもよかった。
「くつが鳴る」
作:手嶋洋美 絵:あべまれこ
あらすじ
生まれつき体が不自由な女の子が、学校から帰るとお母さんと公園で歩く練習をしている。
二十メートル歩くのが目標だが、いつも十メートルしか歩けない。
今日こそは桜の木がある二十メートルのところまでいってやる、とチャレンジする。途中、男の子の啓太や、小さい男の子に見られつつ、なんとかがんばって歩くというお話。
感想
第16回の童話部門最優秀賞作品。
日常の丁寧に切り取るようなやさしいまなざしの作品。
大きな出来事は何も起こらないのに、ずっと読んでいられる。
文章も分かりやすく、関西弁もいい味を出している。
この冒頭の書き出し、主人公の名前、年齢、状態が端的にわかりやすくさらっと説明されていていい。
また障害をいいともわるいとも言わない、全く作品で言及しないところが心地よさに繋がっている。(男の子にいやなことを言われたり、いじめられたりしないところがいい)
絵の可愛らしさ、元気の良さが作品全体にハリを与えていて元気が出る作品だった。
「こめとぎゆうれいのよねこさん」
作:えばたえり 絵:小林ゆたか
あらすじ
こめとぎゆうれいのよねこさんは、おばあちゃんのゆうれい。
町中あちこちの家にあらわれて、米を研いで帰っていく。
ある日、ぼくの家に初めてよねこさんがやってきて、米を研いでいくと、なぜだか気に入られて、毎晩大量の米を研いでいくので、家族みんな太ってしまう。ぼくは、牧師やお坊さんに相談するも、お祓いするのは可哀そうだと思い、おばあちゃんのすすめで、よねこさんを朝ごはんに誘うことにして……、というお話。
感想
第33回の童話大賞作品。
発想の面白さ、ユーモラスな雰囲気が際立つ作品。
個人的には4冊読んだなかで一番好きだった。
こめとぎ幽霊というアイデアと、それを受け入れる町民たち。
よねこさんのことを想うぼくのやさしさもいい。
おはらいのところは、じゃあどうして神社に行ったのかって聞きたくなるので、それぞれに相談しにいった理由を一文添えてあると親切だったかもしれない。それか、神主さんのところへ行ったら、おはらいをしてよねこさんを消してしまうっていうんだ、くらいのほうがいいのでは、と感じた。
よねこさんがこめをとぐ理由や、大量の米を研いで回る背景も作品中に描かれているのがよかった。
「ながみちくんがわからない」
作:数井美治 絵:奥野哉子
あらすじ
何を考えているのか分からない長道くんのことが気になる主人公。
長道くんを研究するため、下校時に長道くんの後をついていく。
石けりをしながら家まで帰る間に、石をいっしょに探したり、話していくけれど、やっぱりよくわからない。という長道くんを見つめ続ける主人公の女の子の一人称語りのお話。
感想
第37回の童話大賞作品。
少し大人の雰囲気漂うお話。タイトルセンスが抜群。
主人公の名前も、年齢も作品中には一切書かれていない。
会話文もかなり大人な表現だと感じた。
また、冒頭の書き出しも印象的だ。
この表現が卓越しているので、一気に物語に引き込んでいるのだろう。
そして、この「分からなさ」は、恋心に近いものなのだろうということが後半の描写で分かってくる。なんだか気になる男の子、というやつだ。
作品全体に漂うあいまいさと分からなさが、賛否別れそうなものだが、これが大賞になるという間口の広さが、このグランプリの魅力だと感じた。
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