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杉浦明平編『立原道造詩集』

詩はあんまり読まないのだけれど、この詩集はとても気に入っている。

詩に苦手意識を持ったのは国語の授業からかもしれない。どこそこが韻を踏んでいて、形式はあれで、これは何々の隠喩で……。難しい。行間を読んで味わうような情緒も残念ながら持ち合わせていない。
そんな私でも、立原道造はすんなり受け入れられた。彼は病弱で、若くして死を身近に意識せざるをえないような人生だった。物事や人が過ぎ去る、いなくなってしまう一瞬の寂しさをとらえたような作品が多い。
「夏の弔ひ」という詩の、以下のくだりが好きだ。

  おぼえてゐたら! 私はもう一度かへりたい
  どこか? あの場所へ(あの記憶がある
  私が待ち それを しづかに諦めた――)

失われるのは、形あるものだけではないと立原道造の詩は伝える。

短い作品で、「愛情」という詩も好きだ。「郵便切手を しやれたものに考へだす」。受け取った郵便切手に「どれにしようか考えてくれたものだ」と愛情を感じるのか、自分が送るときにどれにしようかと思案するのか。まぎれもない愛情が見える。

日課という詩には、「そして僕はかう書くのがおきまりだつた 僕はたのしい故もなく僕はたのしいと」という文がある。安易に結びつけるのもなんだが、立原道造は苦境のなかにも、日々の美しさや楽しみを見つけられる人だったのではないか。僕はたのしい故もなく僕はたのしいと思える人。

何やらゆるい詩があるのも、好きな理由の一つ。「ガラス窓の向うで」はこんな詩。

  ガラス窓の向うで
  朝が  
  小鳥とダンスしてます
  お天気のよい青い空

現代の世にいても、ツイッター詩人として名を馳せそうなやわらかさもある。

相変わらず詩の構造についてはよくわからないまま。でも、この詩集はおすすめ。



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