見出し画像

別れた彼とのペアリングを失くした。もうすぐ、彼の誕生日だ。

4年半付き合い別れた、大好きだった彼とのペアリングを失くした。

あのペアリングを買ったのは、私たちが別れる2か月前。すでに、ケンカが増えていた時期だ。会う度にお互いの機嫌を気にしていた。分かりやすい、別れの前兆。

「じゃあ、指輪を買おう」
大きなケンカをして、2週間ほど音信不通。そのあと、どうにかこうにか仲直りした記念にと、私がねだったものだった。

初めてのお揃い。
私にとっては、人生で初めてのお揃い。

私の指輪には3桁の数字を刻印した。 

その数字の意味を知っているのは、私と彼、それから私たちを育ててくれた大切な上司のおじさま2人だけ。2人は私たちの関係に気付いていてくれたのかな。

高校生が買えるくらいお手頃な値段のそれを、ワリカンした。
あの店も、デザインも、選んだのは、私。

彼が「このくらいのデザインが良いと思う」と賛同してくれたとき、ちゃんと考えてくれなように感じて嬉しかったのを今でも覚えてる。

「将来をちゃんと考えている証が欲しい。あなたは私との未来を見てくれてないから、不安になる。だから、指輪を買おう。婚約指輪とか、高いやつとか、給料何か月分とかじゃなくていい。なにか、形が欲しい」

彼は思った以上にあっさり、承諾してくれた。

大事な大事なペアリングだった。でも私は「彼の負担にならないように。重たくなりすぎないように」と、失くしたってなんのショックも覚えないほど安いものを選んだ。
重たくていいのに。本音で言うなら、彼にとって人生で一番重たい買い物にしてほしかったのに、言えなかった。

でも、本当に嬉しかった。
嬉しくてちょっと泣くくらい、嬉しかった。間違いなくここ数年で一番大切な買い物だった。
もう終わりが見えていた私たちの関係に、希望の光が差したと思えた。

ペアリングを買って、ハンバーガーを食べに行った。たくさん笑って、ずっと手を繋いでいた。

でも、仲直りした日でさえ、互いの肌に触れることもなく眠った後悔と不安が、心のどこかにこびりついていた。

あのハンバーガー屋さんには、きっともう二度と行かない。

会社にも堂々とつけていった指輪。嬉しくてうれしくて、大事に撫でて過ごした。その2か月後に、私たちは別れた。


今思えば。

あんな安い形ある何かがないと彼を信頼できなくなっていた証だった。彼の愛を疑い続けて、何年も我慢していた。信頼してもらえていると思っていただろう彼の気持ちを、裏切り続けていた。本当に、ごめんね。そう、今なら素直に思える。本当にごめんね。

信じられなかった私。
信じてもらえなかった彼。
どちらにも悪いところがあって、どちらもちっとも悪くない。私たちが合わなかっただけ。


あの指輪がなくなった今。
私は健康で、友達がいて、ごはんも美味しい。うん、ちゃんと幸せ。
この幸せは形あるもので成り立っているなんてことはなく、何もないし、何も欲しくない。でもちゃんと、幸せだと思えてる。

あの指輪、どこにいったのかしら。

どこへでも行きなさい、と思ってもいる。

でも時々、ちょっとつけてみたくなる。新しい指輪を買おうかな。きっとまたすぐ失くしちゃうんだろうな。

でも、それでも幸せだよ、私は。指輪なんかなくても、幸せになれるって、もうちゃんと分かってる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?