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酒飲みを類推する

 自分が、酒が飲めないのだと説明すると、相手は、えー?酒豪だと思っていたけど違うんだ、でも嘘っぽい、という表情をする。それでも大抵は、そうなんだという柔らかい反応だが、距離感がバグっている相手なら、「なんだ、ざるだと思ったよ。ちゃんぽんで朝まで平気なんじゃないの?」と言う。相手の距離感に対し、バグっているというジャッジをするだなんて、お前何様だよと自分でも思うが、でも、こういう人たちは、放っておくと、「どんだけ栄養効率のいいものを食べているんだよ」「もっとやせたほうがいい」と言うまであっという間、且つ、しつこいので、ジャッジは単なる心の自衛である。一応、赤の他人ですよね、と。まあ、実際は、別にこんなことで怒りもしないし、感情もスパイクしないが、若い時は、親しさと無礼の境目を探したものだ。今なら、「そうですよね、栄養が余って、髪にまで行っちゃう始末」と、相手の後頭部に言い放つが、まあ、そんな夢想はどうでもいいや。

 ダイエットの知識は、世間一般に流布されているものは、一通りは知っていると思う。そこは、全日本国民と同じレベルである。
 大勢の人たちに倣って、自分も低炭水化物で頑張ってみたりしたが、確かに数キロはあっという間に落ちる。これは、やせたんじゃなくて、元に戻った分だ。それすら今は、「元」の底上げが起きている状態で、次に何を抜くべきかの検討中である。
 で、この炭水化物減らしの経験で、わかったことがある。
 「元」の底上げ作業中(つまり炭水化物をたらふく喰うという作業中)、強烈な眠気に襲われることが判明したのだ。
 いやいや、理屈では当たり前なんだろうが、人間というのは、実際経験してみないまでは、納得感が小さい。低炭水化物を経験した身体は、ちょっと炭水化物を食べると、すぐに体温が上がって「暑い!!」となるし、そのあと、抗えないほどの眠気に襲われた。で、この強烈な眠気のせいで、自分は、薄くはあるが、たっぷりの紅茶を、気に入っていた絨毯にぶちまけたまま寝てしまうというイベントを経験する。これが、納得できない事象を含んでいた・・・

 さて。
 ここからタイトル回収である。

 自分は、アルコールを体質的に受け付けない。分解酵素を持っていないんだろうと思う。妹は飲むし、親が全く飲めないわけではないから(飲酒の習慣はない)、訓練すればなんとかなるかも、だが、まあ死にそうになるので、普通に下戸の分類だ。
 その下戸は、カクテルの美しさに憧れ、飲めないのにカクテルのレシピ集や写真集を買っていた。憧れはあったのである。それで、飲める人に色々、聞いて回ったことがある。
 ガタイはいいが、大人しくて静かな大学時代の同期は、なぜ飲むのかという自分のバカげた問いに「嫌なことを忘れられるから」と言った。若い自分には、嫌なことを忘れるという不可能を成し遂げる酒、などというのは理解できなかった。だいたい、彼の言う「忘れる」ということの意味を、取り違えていたと、今、これを書いていて気付くというありさまだ。
 さらに書きながら思い出したが、予備校生の時、友達数人と、昼間から飲酒したことがある。大学生は、普通にキャンパスにいる時間帯に、自分たちは楽しく飲み食いしているという、自虐とヤケの極致だ。
 その時一回限りの「大丈夫だった体験」なのだが、若く体力があったせいなのだろうか。サワーとか酎ハイとかを飲んでも、悪酔いはしなかった。そして、ある時点から、私は笑いだしていた。ビックリしたのが、対面の彼女が「つくね取って」と言っただけで、もう、おかしくておかしくてたまらないのである。確かに、18歳だったが、どちらかというと変わり者で、箸が転ぼうが気にもしない性格なのに、この時はすべてがおかしかった。ああ、これが「酔う」ということなんだ、と頭では冷静に理解していた。
 大学同期が言った「嫌なことを忘れられる」というのは、この事なのかなと、当時は考えていた。ただ、予備校飲酒という犯罪行為中は、大笑いしながらも、自分は感じていた、少しも楽しくない事に。
 いやな奴だと、もうばれているからいいけど、自分は、酔って大笑いしながら、それでも、今までの人生で獲得してきた「楽しい」という要素がそこに微塵も含まれていないことを、同時に感じていたのだ。
 これなら、もう、酒は飲まなくてもいいな。
 そう思った。

 これは私に限った体験なのだろう。
 楽しい酒は確かにあるだろうし、そんなことくらいは、飲めなくてもわかる。でも、私においては、「笑う」と「楽しい」が乖離していることがあるのだ、という新鮮な経験に終わった。

【思ったより長くなってしまったので、ここで一旦切ります。明日に続く】


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