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アジア紀行~カンボジア・アンコール遺跡の旅⑩~


西バライ(West Baray)

シェムリアップ4日目の午後。
午前中は、ニャック・ポアン、東メボン、プレ・ループを訪れたが、曇っていたおかげで暑さに苦しめられることはなかった。しかし昼からは日差しが強くなり、これはかなり暑そうだ。


バイタクのキーさんとの約束は午後3時。あっという間にその時間になる。
午後は西バライに行こうと思っていた。バライは、アンコール・トムをはさんで東西に造られた広大な貯水池である。午前に訪れた東バライは水が涸れていて、どこがそれともわからなかったが、西バライは今でも水をたたえているという。

かつての東バライ・西バライ

キーさんのバイクの後ろに乗って、出発。西バライはホテルから西へ約15km、40分ぐらいかかる。風が気持ちいいが、後部席に長く座っているのは疲れる。

西バライに到着。東西8km、南北2kmに及ぶ広大な池である。このバライは、11世紀前半にスールヤヴァルマン1世によって造られたものだ。1000年の時を経て、現在も下流の広大な稲作地域へ水を供給しているという。

西から吹く風が、水面を波立たせる。まるで左から右に川が流れているようだ。水は透明ではない。カンボジアの赤土の色でもない。昆布茶のような緑がかった色だ。
貯水池の中ほどの小島に、西メボン(West Mebon)という寺院遺跡がある。乾期には水量も減って陸路で行けるそうだが、今は船に乗るしかない。船着き場があって、交渉すると、10ドルで往復するという。バイタクの一日分が6ドルだから、それに比べると高いと思うが、しかたがない。

船着き場は西バライの南西側にあるので、船は西風に吹かれながら進む。しばらくして、誰もいない小島に船が近づいていく。寺院の一部のような建物が見える。


船をおりて、島に上陸する。西メボンは廃墟である。かつては立派な寺院だったのだろうが、今は回廊の一部を残すのみだった。周囲には草木が生い茂る。



国破れて山河あり。城春にして草青みたり。

水辺に立ってみる。岸に波が打ち寄せる。風と水の音しか聞こえない静寂の世界である。


目を上げると、遠くに対岸が見える。



石組みの井戸のような遺跡があった。ここには導管が埋められていて、バライの水とつながっているそうだ。この場所で王は、バライの水位を確かめるという宗教儀式を行ったという。


あちらこちらに、かつては寺院の構造物であった石が無造作に転がっている。この一つ一つが1000年の歴史を背負っていると思うと、現在という時を離れた空間に一人いるようで、不思議な気がする。


小1時間の滞在の後、西メボンを離れる。帰りは船が西風と波に逆らって進むので、舳先から水しぶきが上がる。顔にかかる水滴が心地よい。
それにしても広大な貯水池だと、あらためて思う。この池といい、アンコール・ワットやその周辺の大寺院といい、かつてのカンボジア王国の偉大さを思い知らされる。

今でこそカンボジアは開発途上国だが、長い戦禍をくぐり抜けて、ひたすら前進しようとしている。この国は、道路にあふれているモーターバイクのようなものかもしれない。彼らの乗るバイクにはバックミラーなどなく、後方を気にせずひたすら前方に突っ走る。
現在のカンボジアには、外国のものがどんどん入ってくる。バイク、自動車、電気製品、・・・・・・。飲み物といえばまずコーラだ。ドルがまかり通っている。彼らはどのような気持ちでこれらを受け入れているのだろうか。やがて内と外との摩擦が大きくなり、カンボジア人が本気で外からの力を跳ね返す力がついたとき、再びかつてのカンボジア王国のような繁栄が訪れるのだろうか。

早くも日が西に傾いている。暑さは少しましになってきた。午後の部は、この西バライでお終いだ。


ハプニング

5時15分ホテル着。明日は8時半出発ということで、キーさんに確認して別れる。予定としては、バンテアイ・スレイ(Banteay Srei)に行くつもりだ。かなり遠いので車のチャーターも考えたが、やはりキーさんのバイクで行くことにしようと思う。

私の部屋はフリーダム・ホテルの4階にある。部屋は78号室。エレベーターを降りると、何かすごい音がしている。一瞬廊下の奥で水を撒いている様子を想像したが、そんな馬鹿なことをするわけがない。見ると、天井から水がザーザーと音を立てて漏れ落ちている。奥の廊下は水浸しだ。部屋の中はどうなっているのか気になって、あわてて鍵を開けて中に入る。幸いこの部屋は無事だった。しかし奥の方の部屋は、きっと被害にあっているだろう。水道管が老朽化して破損したのだろうか。

荷物を置いて、いつもの通りまず一日の汗を流すためにバスルームに入る。なかなか温水にならないシャワーを使っていると、途中で水の出があやしくなり、ついに止まってしまった。きっと先ほどの水漏れの修理のために、水道の元栓を閉めてしまったのだろう。日本ではありえないようなことが、この国では起こるのだ。それにしてもタイミングが悪すぎる。何とかからだを拭いてバスルームを出る。
30分ほどして、やっと水が復旧した。しかし汚い水が出てくる。しばらく出しっぱなしにして、ちょっとましになったので、洗濯をする。いろんなことがあるものだ。

夕食はホテル近くの廣東菜館へ。月のない暗い夜道を歩く。
シェムリアップにやって来て4日目が終わろうとしている。滞在予定はあと2日間。雨季というのに、まだ雨に降られていないのは幸運というべきだろう。今夜もぐっすり眠りたい。



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