トラウマケアの方法論③ 続々・オンラインEMDRについて (沖縄県 臨床心理士 トラウマ治療)
さて、3回シリーズになってしまいました、こちらの記事。
前回までで、
①EMDRについておおよそのイメージ
②EMDRの成り立ち、とその効果の現れ方
についてお伝えできたと思います。
前回記事はこちらから。
3回目の今回は、EMDRを行なっていく際の実際の流れ、とりわけいよいよオンラインでの運用についてお話しできればと思います。
ちょっと長くなってしまいましたが、セッションに入る前にこういうことは知っておくと役立つかな、と思う点をまとめてみましたので、よければご覧になってください。
1、EMDRの8段階の行程
EMDRは、主に8つのステップで構成されています。
このようにアプローチを最適化・安全にするための枠組みがしっかりあるのは、EMDRのいいところです。
「目を左右に動かせばいいんでしょ?簡単ね」
と思われるかもしれませんが、意外とそれだけではないところに注意が必要です。
(ちなみに一般的に知られているEMDRのイメージは「4」のところのみです。)
よくある勘違い
たとえばGoogleで「EMDR」と検索すると、
・「EMDR 自分で」
・「EMDR セルフ」
などといった検索候補がよく出てきます。
やはり誰でも考えることは一緒なのね。
と思いつつ、一方で「待て待て」と専門家の私は考えます。
EMDRは確かに強力ですが、やり方を間違うと
・逆に不快感を強化してしまったり、
・記憶ネットワークを複雑化してしまうリスク
もあるので、自分でやるのはまったく本当におすすめしません。
特に「自分は複雑性PTSD持ちのような気がするなぁ…」と感じる方はゆめゆめご注意を。。
この層の方にはプロの治療者でもEMDR導入のタイミングは慎重になるのです。
それは、逆にいえば
「EMDRに入っていいサインは何か?」というテーマとも言えます。
が、これだけで一本記事が書けるほどの専門性が高い内容なので、
キーワードは「十分な安定化」と今回はお伝えして、本題に戻ります。
※ちなみに安定化のためにまとめているマガジンが私の「トラウマケアの基礎理論シリーズ」です。
2、EMDRの導入にあたって必要なこと
そんな理由から、最初のセッションからいきなりEMDRを行うことは安全上していません。
ファーストステップとして、すべてのカウンセリングの基本ですが、まず「主訴の受け取りと、生育歴の聞き取り」が必要です。
主訴と生育歴の聞き取り
「主訴」とは相談業務における専門用語で、
その人にとって一番相談したいこと=困っている部分、という意味です。
そこを基にどんなアプローチが必要かを考えていきます。
「生育歴」とは、産まれてから今までのライフストーリーのこと、です。
私は面談でお伺いするとき、一通りお聞きした上で「ライフラインチャート」を描いてもらっています。
これは、文字通りで人生の浮き沈み・山あり谷ありを、紙に上下の波線でフリーハンドで描いてもらうことです。
EMDRで記憶の選定をしていく上で役立ちます。
(誤用を防ぐためにあえて図は載せないことにします)
記憶の選定の基準
EMDRでどの記憶を選ぶかは、どれでもいいわけではなく、
「今の症状や困りと関連した、コアになっている記憶」を抽出していく必要があります。
専門的な話になりますが、問題となる記憶には、
・否定的認知(ネガティブな信念)
・感情
・身体感覚
がセットになって保存されており、
未消化なその瞬間のまま残っている、と考えます。
なので理屈としては、元になっているその記憶が変容すれば、
「現在・未来」への体験の仕方も変わる、というわけです。
どの記憶が元になって、心理的な問題が発生したのか?を見極めるには、
専門的な「見立て」が必要です。
当てずっぽうにEMDRを入れると、
そこまで重要でない記憶まで、悪い記憶に「汚染され」てしまうことがあり、記憶ネットワークの糸が逆に絡まってしまうので、要注意です。
専門家と一緒にやりましょうね。
良い記憶を見つけておくこと
一方、良い記憶の存在は、その人にとってのリソース(強み・材料)になりえます。例えば、
などがそうです。また、
も、その人にとって強力なリソースになります。
これらの
「少しでも良い記憶ネットワークに、悪い記憶を中和化させていく」
という試みが、EMDRの基本コンセプトです。
「ライフラインチャート」の作成は、そこにおいて
人生のグッドとバッドを一目で見て取ることに役立ちます。
3、準備段階 安定化というテーマ
その次の段階には準備、安定化がきます。
ここは非常に重要な箇所なので、今回は割愛し、別で記事を書きます。
いきなりEMDRに入ることができないケースは、トラウマが複雑化しているケースが大半であり、
この安定化に時間をかける必要があります。
状況によっては安定化に半年〜1年以上かけるケースもあります。
「焦らず、丁寧に」が大切です。
そこを飛ばして入っても、おそらくEMDR自体が「失敗」に陥る運命が高くなりますので…。
4、評価段階
ちなみに「3.評価段階」について少し書くと、
主に心理テストを用いて、今の症状や問題を客観的に測っておく作業になります。
具体的には症状の程度を測るために
といった簡便な検査ツール(質問票)を用います。
これが、開始時のベースラインになります。
終わった後にどれくらい良くなったのかも測ることができるでしょう。
EMDRは、こんなようないわゆる一種の治療パッケージなのですね。
カウンセリングの流れに合わせて、これらを柔軟に自然に行っていく技量がカウンセラーには求められます。けっこう大変ですね。
ここまでのことが済んだら、順次、決めておいたターゲット記憶についての「4.脱感作」に入っていきます。
5、「オンラインEMDR」
さて、オンラインでこれらを運用していく際、どのような準備・応用が必要でしょうか?
それは一言で言えば、「安全性の確保を十分に取ること」と言えるでしょう。
EMDRは例えるなら一種の外科手術のようなものに似ています。
記憶を直接に触るわけですから、手術室のような、万一トラブルが起きても安全な環境がまず必要ですね。
安全な場所
そのため、まずは安全な場所です。
・刺激の少ない、静かで、安心できる場所 でやりましょう。
・プライバシーも大切です。
たまに車の中からアクセスする方もいますが、
刺激だらけでおそらく集中できないので、
EMDRでは処理に差し障るのでやめておきましょう。
安全なコンディション
次に安全な自分のコンディションです。
オンラインカウンセリングは不測の事態に対処することが困難です。
めちゃくちゃ過覚醒のときや、低覚醒すぎて崩壊している時は不向きです。
感情コントロールが外れやすいからです。
過覚醒・低覚醒については下記の
・拙著のインスタ記事「ポリヴェーガル理論 いろんな気分の波のタイプ」
・note「代表的なトラウマ反応 分類編」の<過覚醒>の項目
をご覧ください。
そういう不安定な日はトークセラピーや、パーツワークに切り替えるか、
「安定化」を事前にしっかりやっておく必要があります。
通信デバイス
そして使用する通信デバイスです。
具体的には、PC・タブレットくらいの大きさの画面が必要です。
スマホ携帯の画面では小さすぎて、指を左右に振っても、十分な眼球運動が得られないのでおそらく効果が出ないと思います。
もしスマホ携帯でしかできないときのオプションとしては、私は
で対応します。
また眼球運動については、私は私自身で手を左右に振る、をオンラインでもなるべく大切にしています。
・手を振るスピードのコントロール
・往復セット数を増やすか減らすかの判断
など、臨機応変にやるにはアナログが一番だと思うからです。
なので、EMDR用の動く画面を使用したりはしていません。
(私なりのこだわりと言えばそれまでですが。)
6、一番大切なのはカウンセラーとの関係性
さて、やっとオンラインEMDRについてのイメージを書くことができました。
「いつ出てくるんだ?」と期待して待っていて下さった方、ありがとうございました。m(_ _)m
意外と「オンラインについて書く」と改まって考えると、書くべきことは思ったよりシンプルだった感じがします。
ココロンでは、オンラインカウンセリングにて、
EMDRをはじめ、トラウマケアや、家族や子どもの相談などさまざまな種類の相談を請け負っています。
開業して2年経って、段々と治療につながってくださる方も増えてきました。
お一人お一人のペースを大事にやっています。
それでもやはりこうしたトラウマケアについての知名度は低い、と言わざるを得ないと思います。情報がすべてです。
1人でも多くの人にこういう視点があるんだな、と知ってもらえたらと思って記事を書きました。
人生はなかなかにしんどいものですが、必ず前に進んでいく系口というのは見出せるはずだ、と信じてやっています。
トラウマ治療で大切なのは、技法うんぬんももちろんありますが、
それより勝るのは、カウンセラーとの安心できる関係性です。
どんづまっても、行き詰まっても、希望を見出せるようなカウンセリングセッションにしたいと、そのための安心・安全な治療関係づくりを第一に考えています。
主にEMDR治療者リストを見てきてくださる方や、インスタグラムからいらっしゃる方が多いですが、noteをご覧の方からももちろん随時受付中です。
(ご予約はプロフィールページをご覧ください。)
この記事が、読んでくださる誰かの希望になれば幸いです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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