塚田浩司

日本料理屋七代目当主で小説家。料理人、ソムリエ。第十五回坊っちゃん文学賞大賞受賞、第二…

塚田浩司

日本料理屋七代目当主で小説家。料理人、ソムリエ。第十五回坊っちゃん文学賞大賞受賞、第二回ステキブンゲイ大賞受賞、著書に「コイのレシピ」。5分後に意外な結末シリーズに作品収録。ちくま未来新聞に800字小説連載中、ひなた短編文学賞審査員長を務めています。

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  • 800字小説

    約800字のショートショート。週に一回程度更新します。どんでん返し多めです。予想を裏切る結末を目指しています。

  • 宅飲み男子‼︎

    ある美容師の宅飲み記録。 晩酌を満喫する日常をアップ。飲んだお酒や食べたおつまみを紹介します。1話読み切りなのでどこから読んでも大丈夫。 週に一度くらいは更新したいです。

最近の記事

青春

いきなりだけど僕は20年以上前からセツナブルースターというバンドが好きです。 全楽曲を製作しているヴォーカルギターの倉島大輔さんは実家が近く、年も一つ上ということで高校時代から注目していた。インディーズの頃から好きでしたが、それはあくまで地元枠としての好きでした。しかし、メジャーデビューアルバムの「キセキ」からはドハマりし、推しバンドとなりました。(当時推しという言い方はなかったけど) 2008年に活動休止期間に入ってしまいましたが最近本格的な活動が始まりました。 活動休

    • 恵方巻きの効果

       今年の恵方は東北東だ。俺はさっそく東北東に向き恵方巻きにかぶりついた。恵方巻きは願いを思い浮かべながら無言で食べる。俺の願いは「ステキな女性と出会えますように」だ。俺ももう三十過ぎ。そろそろ結婚をと思い始めたのだ。  太くて長い恵方巻きを食べ進めるが、これが中々難しい。水を飲みたくなったが今はとにかく無我夢中で食べなければいけない。だが味にも飽きたし腹も膨れてきた。でも、あとわずかで食べ切れる。最後の一口を一気に喉に押し込めた。  その時、「うっ」。勢いよく詰め込んだせいで

      • ネクストバッター

         野球部の仲間の洋介が結婚する。めでたい話だが俺は素直に喜べない。  三ヶ月前、勤め先が倒産した。まったく予期していなかった俺は一気に地獄へと叩き落とされた。そこからハローワーク通いが続くが、いまだ新しい職場は見つかっていない。こんな状態だから結婚式には参加しないつもりだ。代わりに洋介の好きな日本酒でもプレゼントしよう。そう思って俺は今、生坂屋で酒を選んでいる。ここは酒好きには評判の店だが、下戸の俺には縁のない店だった。  周りを見渡すと客たちは目をキラキラさせながら酒を選ん

        • 800字小説11「五人囃子」

          山城さんが辞めた。山城さんはうちの工場に親父の代から務めていて、人柄、知識、技術とどれもとってもなくてはならない人だった。しかしもう七十過ぎ。年には勝てないと言われてしまった。 俺はため息をつきながら帰宅した。リビングに行くと、ひな人形が目に入った。そういえば昨日一歳の娘のために物置からひな人形を出したのだった。 「ねえ、あなた。五人囃子が一人足りないのよ」  妻はおかえりを言うでもなくそう言った。  見てみると、たしかに四人しかいない。 「まあ、いいんじゃないか。

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        記事

          800字小説10 『それが1番のサプライズ』

           結婚前から、あらゆる場面で妻にサプライズを仕掛けてきた。  初めて誕生日を祝ったときは打ち上げ花火を上げた。プロポーズの際にはケーキの中に指輪を仕込み、結婚1周年には寝室を妻の大好きなバラでお花畑にした。これ以外にも様々なサプライズで妻を驚かせてきた。  結婚三周年はどうしようか。頭を悩ませた末、あるサプライズを思いついた。  それは、俺が覆面を被り強盗に扮し、家に押し入って妻を驚かせる。そこで怯える妻にネタバラししてからプレゼントを渡すという少々過激な演出だ。  妻もサプ

          800字小説10 『それが1番のサプライズ』

          800字小説8『タイムリープはお布団の中』

           昔から39度を超える高熱を出すとタイムリープしてしまう。  タイムリープ先でも俺は39度の高熱にうなされ布団の中にいる。本当だったら過去や未来で色々と楽しみたいが体がいうことをきかない。  廊下から足音が聞こえる。ということは家族と暮らしていた過去に来ているということだろう。  部屋のドアが開いた。そこには20年前に亡くなった祖母がお盆を持って立っていた。 「あぁおばあちゃん」    俺はいてもたってもいられず起きあがろうとした。 「あっ安静にしてなきゃダメだよ」

          800字小説8『タイムリープはお布団の中』

          800字小説7 『指紋』

           いつからだったか、買い物をする際の現金決済がほぼなくなり、国民の大半はクレジットカードか、電子マネーを利用するようになった。当時は便利だと騒がれた、しかし今はさらにその上をいく指紋決済のシェアが拡大されている。指紋の中にすべてのデーターが蓄積されているので、財布どころかスマホを持たなくても、手をかざせば会計ができるのだ。  この画期的な発明をしたのは、何を隠そうこの俺だ。この発明のおかげで巨万の富を得た。  幼いころ、家が貧しくて欲しいものを手に入れたことがなかった。ドラ

          800字小説7 『指紋』

          800字小説6 『遅れてきたサンタクロース』

           窓の外の雪だるまを見ながら、また怒りが込み上げてきた。翔はここ数日ずっと不機嫌だった。なぜならこの前のクリスマスにプレゼントをもらえなかったからだ。もう一月十日になるが、翔の部屋にはいまだにプレゼントを入れる為の靴下が置いてある。これはもちろん当てつけだ。どうして何の前触れもなくプレゼントをやめてしまうんだ。翔は靴下を睨みながら、プレゼントをもらえるまで、靴下は絶対にしまわない。そう決心した。   ※ 「なあ、翔はまだむくれているのか?」  徹は帰宅して早々、妻の潤子

          800字小説6 『遅れてきたサンタクロース』

          800字小説5『富豪と結婚』

           彼は齢90を超えていたが、金、地位、女。欲しいものは全て手に入れることで有名な大富豪。その彼が今欲しいのは私だと言う。 「幸せにする結婚しよう」  彼は私に言い寄った。顔色が悪くシワシワな顔は、見ているだけで不快だった。私は面食いなのだ。  でも、私はプロポーズを受け入れた。  何故か? それはもちろん遺産目当てだ。彼の子供たちからは散々、金目当てだと非難された。周りは皆敵だし、彼の醜い顔を見るのも嫌だったが数年我慢すればいいだけだ。私は自分に言い聞かせた。    

          800字小説5『富豪と結婚』

          800字小説4 『男の宿命』

          「女にモテない男は男ではない」  尊敬する父はいつもそう言っていた。男と言うのは女性の目を意識するがゆえに結果を出す。政治家やスポーツ選手、弁護士や医者もそうだ。それに子孫を残すと言う観点から見ても、これは人間だけではなく、女からモテることは動物の、さらに雄の宿命だと父は力強く語った。その言葉通り、幼い俺から見ても、父はすべてを兼ね備えた魅力的な男だった。俺は父の言葉を胸に、物心ついたころから男磨きに励んでいた。 モテるために、俺は幼稚園のころにはすでに身だしなみには細心

          800字小説4 『男の宿命』

          800字小説3『タイムカプセル』 

           小学生の頃、家の庭にタイムカプセルを埋めた。カプセルの中には「二十年後の僕へ」という題の手紙を入れた。二十年前のことだから内容は覚えていないのに、二十年後に掘り起こす予定だけは覚えていて、男はそれを実行した。男は昔から妙なところで真面目だった。さっそく黄ばんだ手紙を開いた。 二十年後の僕へ 「元気ですか? 今の僕は元気です。二十年後の僕はどんな大人になっていますか? サッカー選手になって一億円を稼いでいますか? 大好物の海老フライを毎日食べていますか? どんな豪邸に住ん

          800字小説3『タイムカプセル』 

          800字小説2『散骨』 

           雅美は白い小瓶を開け、その中身を海に放った。白い塊が海に落ち、白い粉が辺りを舞った。雅美は水面がわずかに揺れるのを見ながら手を合わせた。小瓶の中身は夫のお骨だった。  波に流され、夫の骨はもう見えない。これで役目を終えた。雅美は隣にいる息子の幸良をチラッと見た。幸良は一言も言葉を発することなく、手を合わせるでもなく、ただ遠くを見つめていた。  海からの帰り道、車内で幸良に声をかけられた。 「アイツが海好きだったなんて意外だったな。しかも死んだら海に散骨してくれって母さ

          800字小説2『散骨』 

          800字小説1『天国か地獄』 

           寂れた商店街の一角に有名なじいさんがいる。そのじいさんは占い師で、死後に天国に行けるか、それとも地獄行きなのかを占ってくれるらしい。徳を積んでいれば天国、人の道に背くような悪事を働いていれば地獄。それを見極めることができるとのことだった。 好奇心から俺は占ってもらうことにした。 「天国行きか地獄行きかを教えてください」  俺は感じの良い笑顔を心掛けて、じいさんに声をかけた。すると、じいさんは表情を変えずに言った。 「あんたは、天国行きだよ」  そう言われた瞬間、喜

          800字小説1『天国か地獄』 

          WEBで読める、おすすめの塚田作品。

          ツイッターやnoteで僕のことを知り、「ちょっと作品でも読んでみるか」と思った方のために、WEBで無料で読める塚田の作品の紹介とちょっとした解説を記しておきます。どれも短い作品なので気軽に読んでいただけたら幸いです。 「帰ってきたじいちゃん」この作品は死んだ祖父がお盆に帰ってくるショートショートなのですが、たくさんの方に読んでいただけた作品です。描いたのは2017年。第十五回坊っちゃん文学賞に応募した作品です。結果的に大賞に選ばれたのは「オトナバー」ですが、こちらもお気に入

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          自己紹介

          2022年10月5日「コイのレシピ」で本格的に小説家デビューしましたので、小説家としての自己紹介を兼ねて今までの実績や作品を記したいと思います。 プロフィール塚田浩司 1983年生まれ 長野県千曲市「柏屋料理店」の7代目当主。三姉妹の父。2016年の1月3日から執筆を始める。小説を描き始めるキッカケになった作家は綿谷りさ、朝井リョウ、羽田圭介、又吉直樹。 受賞歴2017年、第15回坊っちゃん文学賞ショートショート部門大賞 2022年、第二回ステキブンゲイ大賞大賞受賞

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          クリスマスブーツ

           クリスマスプレゼントを買うために、お父さんにデパートへ連れて行ってもらった。 「あった。お父さん。これ欲しい」  おもちゃ売り場に駆け込んだ僕は、大きな箱を両手で抱えた。それは最新のゲーム機だ。  お父さんはゲーム機の値段を確認すると真顔で僕の顔を見た。 「春樹、買ってあげるからちゃんと勉強するんだぞ」 「わーやったーお父さんありがとう。勉強頑張るよ」  レジを通し、サンタの包装紙に包まれたゲームを手にした僕はすっかりご満悦だった。 「春樹、お父さん、お酒

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