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シリコンバレーで学んだダイバーシティ経営に大切な3つのこと

はじめまして。株式会社Faciloの代表の市川と申します。これまでMediumでマニアックな不動産テックブログを書いていたのですが、この度noteにお引越しをしまして、Faciloに関することや引き続き不動産テックに関することを書いていけたらなと思ってます。

初回は不動産テックの話ではなく、ちょっと小っ恥ずかしいのですが、仕事観っぽい話。


ビジネスにおいてダイバーシティがますます重要視されていますが、立ち上がったばかりの弊社Faciloでも力を入れています。そこで、多様な人材が集まって、その能力を最大限発揮できる職場をつくるために、個人的に大切にしていることをまとめたいと思います。

Faciloを起業する直前、僕は米国シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOをしていました。本社スタッフ50名・米国内の各拠点の営業スタッフ(不動産エージェント)250名、インドのバンガロールに50名の約350名の規模でしたが、うち日本人は僕を含めて2名だけ。

何かのプレゼン中らしき当時の写真

人種も文化も宗教も母国語もバラバラな環境でしたが、互いに協力し合いながら、一時は倒産寸前の窮地を乗り越え、全米4位の不動産ポータルにまで成長し、最終的にはバイアウトによるEXITを実現することができました。

と一言でまとめると、何だか順調そうに聞こえるかもしれませんが、日々は失敗と苦難の連続でした。洗練されたメソッドからは程遠いですが、シリコンバレーの究極のダイバーシティ環境での悪戦苦闘から学んだ大切なことを3つご紹介したいと思います。


大切なこと①: 事実と数字で話す

主観的な意見のぶつかり合いになると発言そのものの内容よりも「雰囲気」が結論を左右するようになります。身振り手振りと流暢な英語、そしてカッコいいビジネス表現を交えながら謎の自信で断言する現地アメリカ人社員に対して、三重の片田舎でおっとり育った英語非ネイティブの僕が「雰囲気」で勝てることはほぼありません。

ここで大切になってくるのは、客観的な事実と数字です。その意見が事実なのか推測なのか、事実であれば定量的にどういった数字なのかと分解していくことで、「雰囲気」、もっと言うと「権威」のようなものに左右されずフラットで合理的な意思決定ができるようになります。

何を書いたのかは忘れましたが
iPhoneに残っていた何らかの定量的な議論の痕跡

例えばの話ですが、自社の不動産ポータルサイトのマーケティング投資先について議論していたときのこと。
データ無しで議論すると各自の好みや得意分野に意見が偏ってしまい、「テレビCMをやりたい」「SNS広告が熱いらしい」「前職で音楽ストリーミング内の広告が効いた」などと平行線が続きますが、地道に事実と数字を積み重ねることで、ターゲティング広告の次に有効なのは意外にもローカルの不動産看板ということが分かり、これがサイトの躍進の原動力になったりしました。

意外にもオンライン広告を凌駕する
効果のあったオープンハウス看板

国内の職場であっても、役職の上下関係や社歴、業界経験の長さ、プレゼンの上手さ、それっぽい専門用語等によって醸し出される「雰囲気」や「権威」に議論の場が支配されてしまうことがあります。
バックグラウンドの異なる多様な人材が能力を発揮するためには、事実と数字をもとにフラットに議論することが必要不可欠です。


大切なこと②: サクッとテストする

「事実と数字が大切」とは言ったものの、ここで一つ問題があります。その取り組みが新しいこと挑戦であればあるほど、根拠になる過去の事実や数字なんてないんです。

客観的な判断材料がない分野で、議論好きな現地社員同士で一度火がついてしまうと延々と抽象的な議論を繰り返して物事が前に進まないことが多々ありました。
また僕自身も、現場の方針に対して「直感的に絶対うまくいかないだろうな」と思っていても、それを抽象的な議論で言い負かす英語力はありません。仮に言い負かしたとしても上司や経営メンバーの「直感」を理由に一生懸命考えてきた方針が却下されることほどモチベーションの下がることはないし、そもそも僕の直感自体が間違っていることだってしょっちゅうです。

このように判断材料となるデータがないことで悶々とするくらいなら、Movotoではサクッとテストをして検証をしてしまうようにしていました。
デザイン案をABテストするのはもちろんのこと、新しいビジネスをエリア限定で試したり、新しい開発体制を小さなプロダクトで試したり、サイトリニューアルを全米50州のうちの2州だけでまず試したり。デザインやUIの範囲を超えた事業判断もまずは小さくテストすることを心がけていました。
こうなってくると、大切なのは抽象的な議論における口の上手さではなく、どうやって期間とコストを最小限に抑えながら筋の良い検証プランを設計できるかになります。

デザインは主観のぶつかり合いになるので
延々と議論するよりサクッとテスト
【出典】https://www.movoto.com/

日本でもダイバーシティが進む中で、多様な経験や価値観をベースに議論することが多くなっています。それ自体はいいことなのですが『阿吽の呼吸』が通用しない分、結論を出すのが難しい場面も増えてきます。
そういったときに偉い人の一存で決めてしまったり、多数決で意思決定してしまったらダイバーシティの意味がありません。
判断に迷ったらサクッとテスト。そうやって意思決定のための事実と数字をクイックに集める。これがオススメです。


大切なこと③: 人として向き合う

僕はMovotoのCFOとしてCEOと二人三脚で会社全体を経営をしながら、約20名のチームを直接マネジメントしていました。
そして、正直に打ち明けると、僕は英語非ネイティブの日本人として、現地のアメリカ人社員をマネジメントすることにずっと負い目を感じていました。

自分の英語が現地の社員にどう聞こえているのか自分では分かりませんが、きっと「ボビー・オロゴンの日本語」くらいのレベルなんだろうなと勝手に想像してました。
現地社員それぞれの大切なキャリアのうちの数年間、100%の意思疎通をとれない日本人がマネージャーとなり、片言で「オマエ、ナンデコノKPIタッセイシテナインダヨ!オレガテツダッテヤロウカ?(ボビー・オロゴン風)」なんて言われているのは嫌だろうな、と負い目を感じていたのです。

そんな負い目があるからこそ、僕自身の中で決めていたことがあります。それは、言葉は拙くてもメンバーの一人一人に真剣に向き合って、成長を支援すること。
周りのマネージャーはざっくりした目標設定で半期単位の振り返りでしたが、僕はリクルート時代から慣れ親しんだWill-Can-Mustシートをアレンジしながらきめ細やかなキャリア支援を心がけていました。
各メンバーの将来のキャリアの目標をすり合わせて、そこに向けて今できること・これから身につけたいことを棚卸しして、最後に半期のミッションを決める。それを定期的に振り返りながら次のアクションをすり合わせるということを繰り返しました。

現地で使っていた人事システムにはもうアクセスできないので、ネットに掲載されていたリクルートのWill-Can-Mustシートのイメージをご参考までに
【出典】https://logmi.jp/business/articles/327467

例えば、経理担当で将来的に専門性を伸ばして公認会計士になるか事業側にシフトするか迷っているメンバーには、今できている会計業務だけでなく経営企画系の事業ミッションに挑戦してもらい、結果的に事業に興味があるということだったので、そちらの比重を増やしていきました。

オペレーションチームにいるけれど将来的に経営者になりたいというメンバーにはオペレーション遂行の強さを生かしながら、オペレーション全体の業務設計を担ってもらい、より抽象度の高い業務を経験してもらいました。

もともと能力の高いメンバーたちだったので、仕事を通してメキメキと成長していることを感じていましたが、それでも「英語ネイティブのマネージャーだったら、もっともっと伸びていたのかもな」という負い目はずっと付きまとっていたのが本音です。

そんな中で迎えた2021年の夏、Movotoのバイアウト後のPMIも一段落したこともあり、日本で起業するために帰国することになりました。まだコロナ禍の真っ最中でしたが、社員が集まる懇親イベントで送別セレモニーがあり、チームの各メンバーがスピーチをしてくれました。

ーそのとき事件が起こります。

メンバーのうちの一人がスピーチの最中に「Koは自分の人生で最高のマネージャーだった」と言って突然泣き始めたのです。普段クールな彼の涙につられて、他のメンバーたちも泣き始め、同席していた僕の妻までなぜか泣き始めてカオスな状況に。
当の本人は、もらい泣きするよりも驚きのあまりあっけにとられてしまっていましたが、同時にそれはずっと心にのしかかっていた負い目が消えた瞬間でもありました。

英語はネイティブレベルでなかったとしても、真っ直ぐメンバーに向き合い続けてきて良かった。心が通じて良かった。

セレモニー後の集合社員

そして、これは英語だけの問題ではありません。
ダイバーシティが進むにつれて、日本人同士で同じ日本語を話していても、経験や価値観の違いから本当の意味での共通言語が少ないといった状況は増えると思います。
それでもやるべきことはシンプルで、共通言語がないからこそ、人として相手に向き合い、理解しようと努め、支援すること。
これに尽きるということをシリコンバレーでのスタートアップ経営の経験から学ぶことができました。

当時のメンバーは、今でもアメリカ国内での転職のための推薦文を依頼してくれたり、結婚や出産や引っ越しといった嬉しい報告をくれたり、コロナも一段落した最近は日本に訪ねてくれるという話があったりと、国境を越えて、当時の上司・部下という関係を越えて、一生涯の友人です。


最後に

改めて言葉にしてしまうと当たり前のことかもしれませんが、
①事実と数字で話す
②サクッとテストする
③人として向き合う

というのが、僕がシリコンバレーで悪戦苦闘する中で学んだダイバーシティ経営で大切なことです。

日本に帰国して創業したFaciloの立ち上げメンバー
(2023年1月撮影)

今は日本でFaciloを創業し、スタートアップとして多様なバックグラウンドを持つチームで事業を立ち上げています。今回は僕の経験をまとめましたが、社員それぞれの価値観も持ち寄りながら、多様性に溢れるFaciloらしいカルチャーをこれから築き上げていきたいと思っています。

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