医師国家試験【絨毛性疾患】勝手に予想問題

問:絨毛癌診断スコアの評価も項目に含まれるものはどれか。

a. 前回の分娩様式
b. 腫瘍の大きさ
c. 血清中のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)レベル
d. 腫瘍の浸潤の程度
e. 絨毛癌の病理学的タイプ


※スクロールすると解説、解答の順に表示されます。


最近の婦人科の国家試験の問題は、2極化が進んでおり、簡単な問題と難しい問題に分けられます。
117回では癌肉腫や外陰癌といった比較的稀な腫瘍について問われました。
そこで、そろそろ出るかもしれない、かつ問題にしやすい絨毛性疾患について取り上げます。

絨毛性疾患とは、胎盤の構成に関わる胎盤栄養膜細胞(トロホブラスト)を起源とする腫瘍性疾患です。
代表的なものは胞状奇胎と絨毛癌です。
非常に稀な胎盤部トロホブラスト腫瘍(PSTT)、類上皮性トロホブラスト腫瘍(ETT)と呼ばれるものもあります。
また、どの分類にも分けることができない場合の診断名として、存続絨毛症があります。

この腫瘍の特徴は、特異的なhCGという腫瘍マーカーあること、化学療法が著効することが挙げられます。
しかし、絨毛癌では予後が悪いため、治療開始前に侵入奇胎なのか、絨毛癌なのか、予測しておく必要があります。
このために用いられるのが絨毛がん診断スコアです。
そもそも、臨床的に遭遇する確率が極めて低い疾患ですので、国家試験のようなどんな医師になるにも必要な資格のテスト、に絨毛癌についてと問題を出す事はいかがなものかと思いますが、近年、比較的稀な腫瘍について、突然難問が出ることがありましたので、この問題にしてみました。

絨毛癌診断スコアの表についてはこちらをご参照ください。
https://jsgo.or.jp/guideline/taigan/08.pdf

では、問題の解説です。

a. 前回の分娩様式
この選択肢は、先行妊娠項目を意識しました。正期産であれば絨毛癌の可能性が高いです。対して流産や胞状奇胎の順にリスクが低下していきます。

b.腫瘍の大きさ
この選択肢は、転移巣の大きさと言う項目の対比として採用しました。そもそも絨毛癌は転移巣が先行して発見されることがしばしばあります。絨毛癌のリスクには転移巣の直径、大小不同の有無、個数が評価項目に入っています。

c. 血清中のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)レベル
これは先ほど説明したように絨毛性疾患全般の特異的なマーカーです。もちろんご存知のように妊娠反応として使用される生化学検査でもあります。100万までか、100万から1000万までか、1000万以上かで分類します。もちろん、高い方が絨毛癌の可能性が高いです。

d. 腫瘍の浸潤の程度
絨毛癌のリスクの評価は、腫瘍の浸潤の程度ではなく、どこにどのような転移をしているかということで判断します。骨盤の外に転移している場合は、中文版である可能性が高く、以後、子宮頸部、卵巣、子宮体部に限局しているの順にリスクが下がっていきます。

e. 絨毛がんの病理学的タイプ
序文でも述べましたように、そもそも絨毛癌の組織的な診断がまだついていない状態か診断できない状態で、臨床的に絨毛癌として治療するかどうかを評価するために絨毛がん診断スコアを用います。したがって絨毛癌の病理診断がついているのであれば、絨毛癌診断スコアをつける意味はありません。

したがって、解答は
c. 血清中のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)レベル
でした。

有料でもう一問と「先行妊娠って何?」を解説します。


問:全胞状奇胎の術後。次のうち術後経過が良好な所見はどれか。
a. 3週の時点で月経2日目程度の出血が持続
b. 4週の時点で胸部X線撮影で円形の陰影
c. 5週の時点で血中hCGが4500 IU/L
d. 8週の時点で血中hCGが185 IU/L
e. 12週の時点で血中hCGが8 IU/L


絨毛性疾患のもう一つ問いやすい項目に絨毛性疾患に対して子宮内容除去術後を行った後にhCGの値がどのように下降していくかと言うところです。
これは専門医レベルかもしれませんが、教科書にも載っており、比較的出題しやすいかもしれません。

a. 3週の時点で月経2日目程度の出血が持続
全胞状奇胎や部分胞状奇胎の実際の臨床経過はのちに示します。通常診断がついた時点で、もしくは疑われた時点で子宮内容除去術も行われます。例えば、流産の子宮内容除去術でも同じですが、その術後は月経を想像していただければわかりやすいかと思います。子宮内膜が全て剥がれた状態で、子宮由来の下腹部痛と1週間程度の出血が持続します。3週間目で月経2日目程度(月経期間中最も出血が多い時期とされる)の出血が持続している状態というのが異常な状態であるということがわかると思います。

b. 4週の時点で胸部X線撮影で円形の陰影
この選択肢は、絨毛癌の肺転移を想定してあげています。明らかに異常所見です。

c. 5週の時点で血中hCGが4500 IU/L
d. 8週の時点で血中hCGが185 IU/L
e. 20週の時点で血中hCGが8 IU/L
絨毛性疾患の術後は性器、出血の有無、経腟超音波検査での子宮内膜(内腔)の所見、それから血液検査でのhCGの値で経過観察します。
hCGが高いことは絨毛の残存を意味します。
すなわち子宮内容除去術が不完全であった場合、侵入奇胎や絨毛癌であった場合です。

hCGは絨毛成分から産生されていますので、例えば、妊娠が終了した場合や、今回のように絨毛性疾患で完全に子宮内容除去術が行われた場合、hCGは産生されなくなります。
hCGの半減期は24時間程度とされており、1日で約半分になります。
この時、術後5週で1000未満、術後8週で100未満、術後20週で検出されなくなるとされており、この基準を下回るかどうかを血液検査で判断します。
5820(五→千、八→百、20→0)と暗記するようにしています。

<絨毛性疾患の経過>
私自身分かりにくいと思っていたのは、絨毛癌診断スコアの「先行妊娠」と言う項目です。
正常妊娠ってどう言うこと?と思っていました。

絨毛性疾患の成り立ちには胞状奇胎については明確にされています。
部分胞状奇胎では、染色体を半分(23n)を持つ卵に23nの精子が二つ受精することで発症します。
全胞状奇胎では、染色体を持たない卵に23nの精子が二つ受精することで発症します。

では、絨毛癌はどうでしょうか?
絨毛癌は全胞状奇胎から続発するものがほとんどです。
通常、胞状奇胎→侵入奇胎→絨毛癌の順で進展していきます。

しかし、正常妊娠や流産の絨毛(つまり胎盤)からも発生します。
胞状奇胎、特に部分胞状奇胎では病理検査で診断が困難な症例があり、流産と診断されてしまった胞状奇胎からも発生することがあります。
また、非妊娠性絨毛癌という他の癌の分解異常や卵巣胚細胞性腫瘍として発症するものもあります。
全胞状奇胎では血中hCGなどでの経過観察は必須であり、侵入奇胎の段階で、比較的容易に発見されます。
しかし、正常妊娠から発症した絨毛癌では気付かれないことが多く、発見された段階ではすでに侵入奇胎を超えて、絨毛癌となっていることが多いです。
このため、絨毛癌診断スコアでは、正常なものほどリスクが高いとされています。

ちなみに絨毛性疾患を早く発見する目的で、自然流産の症例では可能な限り、子宮内容物を病理検査に提出します。

そのほかの項目も、「もし見逃すとすればどのような条件か?」ということを意識して絨毛癌診断スコアの表を見ると、より正常に近い状態であればスコアが高いため、覚えやすいのではないかと思います。
残りは、原発巣の場所、転移巣の評価とhCGの値であることがわかります。

さらに理解を深めるために、どのような場合に絨毛癌診断スコアをつけるのか?と言うことを考えてみましょう。
①胞状奇胎の術後でhCGが低下しない場合
②特に肺に腫瘍性病変が見つかり、妊娠反応が出たと言う女性が現れた場合
③妊娠反応が陽性となり、子宮内にも子宮周囲にも妊娠している証拠がない場合
上記の経過であれば①は絨毛癌診断スコアは低いことが予想されますが、②や③はスコアは高いかもしれません

ここまで解説して考察しますと、臨床情報からスコア判定を行い、「臨床的絨毛癌」として治療を開始することは少ないかもしれません。
現在は多科連携診療の垣根が低くなり、CTガイドか生検などある程度全身の組織診断を行うことが比較的容易となったからだと思います。
絨毛癌診断スコア5点以上のみで「臨床的絨毛癌」と診断し治療を開始することはやや古い医療のように思いますが、一方で化学療法が奏功することがあるので、診断がなかなかつかないことが予想される場合に必要な概念だと考えます。

絨毛性疾患は産婦人科医にとっても複雑ですし、出題されても1問だと思いますが、回答できると安心だと思います。

学習の一助となりましたら幸いです。




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