【医師国家試験解説】117C48、妊娠初期の超音波検査

問:
32 歳の女性。無月経を主訴に来院した。最終月経は、令和4年1月1日から6日間。令和4年2月1日に人工授精を行い、3月7日に受診した。最近 1 年間の性交渉歴はない。妊娠判定試薬は陽性であった。
この時点で適切な経腟超音波検査所見はどれか。
a 胎囊のみ
b 心拍動を認める胎芽
c 木の葉状の子宮内膜像
d 頭殿長<CRL>3.0cm の胎児
e 児頭大横径<BPD>3.0cm の胎児


※スクロールすると解説に続いて答えが出てきます。


時間経過のポイントは
最後の月経が1月1日
人工授精が2月1日
妊娠後の受診が3月7日に
という時間経過です。


通常、妊娠初期の超音波検査では、胎嚢や胎芽、そして心拍を確認します。
妊娠初期における胎児の成長は比較的早いため、特定の時点での超音波所見は妊娠週数や状況によって大きく異なります。

1月1日の最終月経を基準とすると
31日+28日+7日=66日=9週3日となります。

しかし、このケースの場合、人工授精をしています。
人工授精とは排卵するタイミングに合わせて精液を子宮内腔に注入する生殖補助医療です。
受精のタイミングは妊娠2週0日であり、これで行くと7週0日ということになります。

したがって、最も適切な選択肢は「b 心拍動を認める胎芽」です。


<妊娠週数の数え方>
産婦人科医に「6ヶ月です」と言っても実は正確には伝わってはいません。
産婦人科医療では妊娠●ヶ月ではなく週数でカウントしていきます。
同じ9ヶ月でも32週と34週では少し意味合いが変わってきます。

最も大事にしていることは、分娩予定日です。
この日が40週0日になります。
そしてそれを決定するのは最終月経、、、

ではなく、受精日です。
受精した日を妊娠2週0日と考えます。

では、時間経過とともに見ていきましょう。
ミクロの世界を想像して下さい。

まず月経発来日、月経開始日、月経第1日を便宜上0週0日と考えます。
月経周期が28日という一般的な方だと、排卵日は約12-14日後です。
排卵後、卵の寿命は約48時間と言われており、その間に受精します。
この日を2週0日としています。
自然妊娠だと高確率にズレそうですよね?
人工授精では人工授精をした日が2週0日になります。

少し細かくいきます。

受精後の卵は卵割と言われる分裂を開始します。
この5日後に胚盤胞と呼ばれる状態になります。
この胚盤胞という状態は周囲に絨毛膜となる成分、内部の細胞集塊が胎児になる成分とされている状態です。
現在、体外受精ではこの胚盤胞まで育てて保存したり、一部を採取して着床前診断したりしています。
最も生児獲得率が高いためです。
着床する段階では胚盤胞になっていると言われています。
したがって、着床するのは妊娠2週5日、この頃に着床出血を起こす人がいますが、異常ではありません。

体外受精では、
①凍結胚移植では黄体ホルモンを開始した日が2週0日、これは胚盤胞移植で胚移植が妊娠2週5日に相当します。
②新鮮凍結胚移植、つまり採卵してそのまま受精させて、胚移植する場合は、採卵日が2週0日になります。

ミクロの話はここまでにします。

では、ここで1人の女性の妊娠4週頃の話に移ります。
その後4週前後で尿でhCGが検出され始めます。
しかし、自然な妊娠ではまだ妊娠したかどうかは気付いていない場合が多いのではないでしょうか。
「あれ、おかしい。生理がこない。」と思い始めるのは妊娠5-6週です。
通常であればここで薬局に行き妊娠検査薬を購入し、試してみます。
そして、陽性となり、産婦人科を予約して、初診となります。

大抵の場合は、妊娠6週初診です。
この頃には2cm程度の胎嚢と、卵黄嚢と呼ばれる円形の内部構造が見えます。
卵黄嚢は胎盤ができるまでの胎児の栄養が詰まっています。

あまり臨床の現場では胎嚢が1cmなこか、2cmなのかは気にしませんが、

週数-4=胎嚢のサイズ(cm)

とされています。
妊娠4週台で胎嚢が見えなくても異常ではないのです。
しかし、妊娠6週で胎嚢を確認することは非常に重要です。
異所性妊娠はこの時胎嚢が見えないことがきっかけで発見することが多いからです。

そして、多くの産婦人科医は2週間後に来るように指示します。
妊娠8週、この時は胎児心拍を確認します。
最近のエコーでは7週台で胎児心拍が見えないことはあまり経験しませんが、明らかに異常なのは妊娠8週で胎児心拍が見えないことです。

最近日本ではガイドラインの変更があり、8週から10週の頭殿長で現在の週数を推測します。
この時明らかに受精日および排卵日がわかっている場合を除き、頭殿長で決定します。
8週で15mm程度、9週で20mm程度です。
ここで分娩予定日を決定します。

分娩予定日が決まると、自治体に(市町村)に妊娠した旨を届け出ます。
この時に母子手帳を発行してもらいます。

余談ですが、ここまでは病気ではないため、自由診療です。
母子手帳発行後も自由診療ですが、妊婦健康診査に対する補助券を一緒に発行してもらえるため、安くなります。
クリニックによっては自己負担はないかもしれません。
市町村が発行しているため、居住地以外で受診すると例外を除き、一旦支払う必要があります。

妊婦さんたちの妊娠初期はこのような経過です。
参考になりましたら幸いです。

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