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先天性サイトメガロウイルス感染症【TORCHの一つ】【医師国家試験】

TORCH症候群の一つ、サイトメガロウイルス感染は最も症例数が多く、他のTORCHとは少し意味合いが異なります。

これについて理解するためにはサイトメガロウイルスとヒトの関係を知る必要があります。

【既感染は多く、再活性化する】

サイトメガロウイルス(CMV)感染は、日本を含む世界中で広く見られます。
CMVは通常、成人の大部分がすでに一度は感染していますが、多くの場合無症状であるため、感染が認識されにくいのが特徴です。
このため約70%の成人が抗体(IgG)を保有していると言われています。
もちろん年齢とともに抗体保有率は上昇します。

CMVはヘルペスウイルスに属し、体内に入ると一度感染すると永久にその宿主と共に生き続けます。
従って、再活性化する可能性があります。
ウイルスは潜伏期間を持ち、特定の条件下(特に免疫抑制状態など)で再活性化し、再びウイルスが体液中(例えば、唾液や尿)に出現する可能性があります。
つまり、IgGを持っていてもCMVが体内で感染性をもつことがあると言うことです。

【先天性サイトメガロウイルス感染症の概説】

先天性CMV感染症は多くの先進国と同様に、日本でも最も一般的な先天性感染の一つとされています。
先天性CMV感染の発生率は、新生児の約0.2%から2%と報告されています。
多くの先天性CMV感染は無症状であり、生まれたばかりの赤ちゃんは通常、健康に見えます。
約10%の先天性CMV感染児が、聴覚損失や視覚障害、知的障害、運動障害などの症状を示します。

先天性サイトメガロウイルス感染症(Congenital Cytomegalovirus infection, cCMV)は、妊娠中の母親がサイトメガロウイルス(CMV)に感染することによって、胎児に感染が伝わる病態を指します。CMVはヘルペスウイルス科に属するウイルスで、一般的には無症状もしくは軽度の症状しか引き起こさないことが多いのですが、胎児への感染ではさまざまな重篤な結果をもたらす可能性があります。

以下に、先天性CMV感染の主要な側面について簡単に説明します:

1. 感染メカニズム
妊娠中の母親が初めてCMVに感染する(初感染)と、ウイルスは経胎盤血流を通じて胎児に感染する可能性があります。
再感染(異なる株または同じ株のウイルスに再び感染する)や再活性化(以前の感染が再び活動化する)も、希に胎児への感染を引き起こす可能性があります。

2. 症状と合併症
先天性CMV感染は、胎児期おいては子宮内発育不全を、新生児において聴覚障害をはじめとする一連の障害(サイトメガロウイルス症候群)を引き起こす可能性があります。
これには、視覚障害精神発達遅延小頭症肝炎黄疸、打撃症、歯の異常などが含まれます。

3. 診断
先天性CMV感染は、新生児の生後2-3週間以内に尿または唾液からウイルスのDNAまたはRNAをPCR法で検出することで確認されます。
これは、出生前の感染が生後の感染と区別される重要な時間枠です。

4. 管理と治療
感染した新生児に対するアプローチは、症状とその重篤度に依存します。
症状がある新生児(症候性の感染)には抗ウイルス療法(例:ガンシクロビル)が検討されることがあります。
日本では2023年4月にバルガンシクロビルが症候性先天性サイトメガロウイルス感染症に保険適応となりました。
また、対症療法、リハビリテーション、聴覚補助装置の使用など、多面的なケアが重要となります。

5. 予防
妊娠中の女性に対するCMV感染の予防は、感染リスクを低減する行動(例:小さな子どもたちとの接触時の手洗いの徹底など)に焦点を当てた教育から成り立っています。
現時点で、CMVに対するワクチンは利用可能ではありません。

【妊娠中にわかることは?】

先天性サイトメガロウイルス感染症(cCMV)の妊娠中の診断は、赤ちゃんが母親の胎内でCMVに感染している可能性があるかを調べるものです。
cCMVの診断には主に以下のようなアプローチがあります:

妊娠中の母親の診断:
血液検査:CMVに対する抗体(IgMとIgG)や抗原(C7HRP)
PCR法:CMV DNAを直接検出

胎児の診断:
超音波検査:胎児発育不全、小頭症、脳室拡大
羊水検査:これはCMV DNAが胎児の羊水中に存在するかどうかを調べるものです。母親が感染している場合、羊水検査によって胎児が感染しているかどうかを調べることがあります。

この中では一般的に超音波検査母体の血液検査が用いられます。
母体血や羊水PCR法は感度や安全性から選択されないことが多いのです。
何より妊娠中に診断されても可能な治療法がないため、あくまで「疑い」のまま分娩を迎え、新生児の検査・治療につなげます。

【cCMVの診療上の問題点】

先天性サイトメガロウイルス感染症は症例数が多く、そのためわかっていることも多い妊娠関連感染症です。
しかしながら、妊娠中は治療法がありません。
そして、出生後も確立された治療法がないのが現状でした。
前述の通り、日本では2023年4月にバルガンシクロビルが症候性先天性サイトメガロウイルス感染症に保険適応となりましたので、今後の治療成績の向上が期待されています。

さて、そもそも多くの成人が既感染しているCMV感染症ですが、スクリーニングとして妊婦さんの血液検査でCMV IgGを測定する意義について考えます。
陰性の場合、これまでに感染したことがないということになりますので、感染に注意する必要があります。
実はこのパターンのみ、検査する意義があります。

陽性の場合はどうでしょうか?
CMV IgGが陽性の場合、初感染、既感染どちらも考えられます。
この場合、IgMを計測することになります。
IgMが陰性の場合、既感染と判断されます。
しかし、その後の再感染・再活性化の可能性があり、その後先天性CMVを発症する可能性はあります。
IgMが陽性の場合、現在の感染の可能性があります。
しかしながら、IgM陽性者の70%は偽陽性であるとされていますので、その後の超音波検査で疑わしい所見がないか観察することは重要です。

このような背景から、妊婦全例にスクリーニング検査としてCMV抗体を測定することは推奨されていません。
研究としてむしろ新生児全員に尿中CMV PCR検査を行うということが検討されています。

徐々に様々な異常や疾患が解明されている中で、先天性CMV感染症については今後の治療戦略の開発が求められています。

超音波検査では、
1. 小頭症:頭囲が平均よりも小さくなること。
2. 脳室拡大:脳内の液体溜まり部分(脳室)が通常よりも大きくなること。
3. 頭蓋内石灰化
4. 小脳異常:小脳の発育や形態に異常が見られること。
5. 肝脾腫:肝臓や脾臓の腫大。
6. 子宮内胎児発育不全(FGR)
7. 腹水
という所見が現れます。
実際にはFGRで発見されることがほとんどです。

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