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セッション定番曲その89:Maiden Voyage (処女航海) by Herbie Hancock

ジャズのセッション定番曲。ハードな曲が続いた後にコールされるとホッとしますが、迷子になりやすい曲でもあります。リズムセクションが鍵を握っていますね。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:新時代のジャズ(の夜明け)

初夏のある日、近くの湖に浮かべた自分の帆付きボート(ヨット*)を、朝靄の中、静かに漕ぎ出す・・・そんなイメージですね。湖面は穏やかで風も気持ちいい。頭の中を空っぽにして、身を任せよう。

「モード」だ云々は抜きにして、私達もただ音に浸って、音が描く光景を思い浮かべましょう。

もともとは「男性オーデコロンのコマーシャル」用に作った短い曲が原型と言われており、その断片を発展させて曲に仕立て上げたようです。俗と聖を行き来するハービーらしいエピソードですね。1965年の作品。

当時このリズムセクション(Herbie Hancock, Ron Carter, Tony Williams)はマイルスのバンドにいて、「モード」というハーモニーをベースにした新しいジャズを探求していましたが、その音空間に合ったリズムのあり方も新しかった訳です。テーマ部分はゆったりした(少し曖昧な)メロディの背景でいわゆる「キメ」がずっと続きますが、メロウファンク系の雰囲気もありますね。

ポイント2:歌入り

で、これを歌ちゃうおうと思う人は意外と多くいます。もともとがコマーシャル用のキャッチーなメロディなので、鼻歌の延長で歌うことも出来ますが、これをいかに「聴かせる曲」として仕上げるかが腕の見せ所ですね。

Karin Krogの1968年録音、エフェクトを効かせたスキャットのみ


Kellee Pattersonの1973年録音


Mark Murphyの1975年録音
「インストの曲をなんでも歌っちゃう人」の代表格ですね。


Carl Anderson
の1990年録音


Nnenna Freelonの1998年録音
個人的にお気に入りです。


ポイント3:構成と解析

音楽的な解析はこの方のブログが参考になります。

「7sus4」という「落ち着きの悪い、次に進もうとするコード」が軸になっているところが、「スムースな湖面を走るボート」をイメージさせますね。モードの曲は同じコード(モード/スケール)が延々と続くこともありますが、この曲では4小節単位で変化していくので、それが水面の波の上下のような感じです。うまく泳ぎきりましょう。

ポイント4:歌詞と歌い方の解説

歌詞は後付けでハービーの姉のJean Hancockによって書かれました。情景描写のポエムですね。

See the sky, let's explore its blue
Tide is high, the time for your debut
Like a ship, you must leave the bay
On this trip, you'll learn love today

難しい言葉は使われておらず、情景をイメージしやすいですね。
「sky」「high」は語尾の母音を伸ばしながら韻を踏ます。
「blue」「debut(tは発音しません)」も韻を踏んでいます。
「ship」「trip」は母音の「i」を伸ばしながら韻を踏ます。
「bay」「today」韻を踏んでいます。

「blue」が「hue(変化していく色合い)」となっている歌詞もあります。

「On this trip, you'll learn love today」ってなんか仄かにロマンチックでいいですよね。

Now you're clear, home unbound are we
Listen dear, as you sound your sea
Soon you'll cry, lovely things you'll say
Sail on high, you'll learn love today

同様に
「clear」「dear」、「cry」「high」、「say」「today」で韻を踏んでいます。
ラップとかと違ってテンポがゆったりしているので、韻を踏んでいる部分の発音は明確にして、雰囲気を出しましょう。それが楽器演奏との一番の違い(利点)だと思います。

The time has come to take the dare
Maiden voyage, the first affair
Set your sails to past away
Chart your course of love today

「take the dare」は「何か(特定のこと)にチャレンジする」という感じ。
「chart your course」は「あなたの方向性を決めなさい」と。

「ボートを漕ぎ出す」というのを「今まで秘めていた愛を、覚悟を決めて進めない」と促している歌詞ですね。勇気をもって漕ぎ出さなければ何も得られないよ、と。

ポイント5:様々な演奏を聴いてみましょう。

Robert Glasperの2007年の録音


TOTO
の2002年の録音
まさかのTOTOです。エスニックリズムでのアレンジ。


Blood, Sweat & Tearsの1972年録音
この頃ってJazzとRockが結構近かったんですよね。ギターとシンクロしたスキャットがかっこいいです。


Brian Auger & The Trinity
の1969年録音
ギターはGary Boyleでした。


◼️歌詞

See the sky, let's explore its blue
Tide is high, the time for your debut
Like a ship, you must leave the bay
On this trip, you'll learn love today

The time has come to take the dare
Maiden voyage, the first affair
Set your sails to past away
Chart your course of love today

Now you're clear, home unbound are we
Listen dear, as you sound your sea
Soon you'll cry, lovely things you'll say
Sail on high, you'll learn love today

The time has come to take thе dare
On a maiden voyage, your first affair
Sеt your sails to past away
Chart your course of love today

Soon you'll cry, lovely things you'll say
Sail on high, you'll learn love today...


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