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セッション定番曲その93:Mr. Bojangles by Jerry Jeff Walker, The Nitty Gritty Dirt Band, etc.

歌ものセッション人気曲、もっと定番になって欲しいので取り上げます。カントリー風味の効いたフォーク曲。カントリーとフォークソングとブルース、ロックの微妙な関係についても少し触れます。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Mr. Bojanglesは誰?

この曲の作者のJerry Jeff Walkerがまだ若い時に「公衆の場で酩酊していた罪」(そんなのが罪なら日本中の繁華街で逮捕者が・・・)でニューオリンズの刑務所にいた時、「Mr. Bojangles」という仮名を名乗る白人のホームレスと出会い、彼が話す身の上話と彼の愛犬が車に轢かれた話が印象に残っていて、後に曲を書いたそうです。その男は実はタップダンスが踊れて、檻の中でも踊ってみせたとか。

歌詞はそのエピソードをそのままなぞっています。
そんなパッとしない地味な内容の曲がヒットして、いまだに聴かれ、歌い続けられているのが驚きですね。

やはりメロディが魅力的なんだと思います。物悲しいけど、悲し過ぎない、一度聴いたら印象に残るメロディ。

ポイント2:Bill "Bojangles" Robinson

その正体不明のホームレスのおじさんの仮名は、Bill "Bojangles" Robinsonという人気のあった黒人タップダンサーから取ったものでした。彼が踊る様子はYoutunbeにも沢山あがっています。とにかく陽気で、踊る姿があまりにも自然で、人気者だったのも納得です。

「Moon Walkの元祖」と彼を紹介している動画もあります。ちょっと無理があるけど。

タップダンスって基本的にお洒落で、明るいダンスなので、歌の中でMr. Bojanglesが踊る姿も、ちょっと不器用だけど、軽く微笑みながら踊っているのかもしれません。

ポイント3:Jerry Jeff Walker、1968年

1968年にJerry Jeff Walkerがこの曲を発表しました。シンプルなギター弾き語りで、語るように声を張らず歌うスタイル。少し歌のハモリやギターでのオブリが入っている以外は本当に素朴なアレンジです。

歌のスタイルはカントリー歌手というよりフォーク歌手に近いですね。他の曲ではドスの効いた声でいかにも「カントリー」という歌い方もしているので、この曲では内容に合わせて意図的にスタイルを変えたのかもしれません。「Hobo(放浪者)」について歌うというのはフォークソングのひとつの大事なテーマになっていますね。

この1968年というのがキモです。米国では「Summer Of Love」を経て既存の価値観の否定〜見直し、反戦運動の高まり、と激動の時代に。大音量のハードロックも出現し始めていました。

同時期のヒット曲をみると「Sunshine of Your Love (Cream)」「Dance to the Music (Sly and the Family Stone)」「Born to Be Wild (Steppenwolf)」「Fire (The Crazy World of Arthur Brown)」「Jumpin' Jack Flash (The Rolling Stones)」など新しい波を感じる曲/アーティストが目立ちます。

そんな時代に「タップダンスを踏み、愛犬の死を嘆く、ヨレヨレの服を着た爺さん」を歌った曲を出すということは、ヒット狙いではなく、自分の歌いたい歌を歌ったということなんでしょうね。

ポイント4:The Nitty Gritty Dirt Band

で、1971年にThe Nitty Gritty Dirt Bandがこの曲をカバーして大ヒットします。

こっちのアレンジは完全なバンドサウンド。バンジョーやマンドリン、アコーディオンなどのカントリー音楽に欠かせない楽器が使われていますが、ドラムやベース音も強調されていて、歌も「歌い上げる」調子になっています。

この1967-1972年頃の数年間の米国の音楽シーンの変化は本当に急速で、よく見ないと訳が分からないことも多いです。
1971年のヒット曲をみてみると「Take Me Home, Country Roads (John Denver)」「Me and Bobby McGee (Janis Joplin)」「You've Got a Friend (James Taylor)」「If (Bread)」「Wild World (Cat Stevens)」など、ぞれ以前に比べて懐古的だったり内省的だったりする内容のものが目立ちます。サウンド的にもハードなものからソフトなものへ。

激しかった反戦運動、公民権運動、学生運動が少し落ち着きを見せて、それらに疲れた若者達が少し優しいものを求め始めていたのかもしれません。この辺りは当時のレコード会社の戦略やラジオ局の経営方針なども絡んでいるはずなので、オトナの事情もあったのでしょうが。

ポイント5:「カントリー・ロック」

今では何の違和感も無く聴いている「カントリー・ロック」ですが、元々「カントリー音楽(業界)」と「ロック音楽(業界)」は水と油みたいな関係で、かつての頑固なカントリー音楽ファン(偏見で言うと、庶民的な白人労働者層)には「ドラムとかエレキギターとか入れるのはあり得ない」「長髪の若者の音楽なんてクソ」という偏狭な人達もいました。

一方でロック音楽の方は「ロックンロール」の時代が終わると、1960年代にあらゆる音楽ジャンルを貪欲に飲み込んでいって成長/拡張していって「ロック(反抗アート)という概念」になっていきました。何でもアリ、演奏する側が「コレはロックだ」と言えばソレはロック、という感じ。極端に言えば「既存のものに疑問を提示して、変えていこう」という姿勢がロックでした。多分今でも「それはロックっぽい」という判断にはこういう価値基準が無意識に使われていると思います。

実はカントリー音楽にはフォークソングやブルース、さらにはロックンロールなどの要素が包含されていますし、ロックは言うまでもなくブルースの子供であり、初期にはカントリー音楽のスピード感が重要な要素でした。音楽的に両者は入れ子構造のようで、本来ならば不可分な関係ですが、偏狭な「音楽ジャンルのファン」というのは変化を嫌う傾向があるので・・・

で、1960年代後半からは主にロックバンド側からの歩み寄りがあって、カントリー音楽の要素を含んだロック曲が生まれていきました。The Byrdsやそこから派生したThe Flying Burrito Brothersなどが「カウボーイハットを被らない長髪の若者たちが、ロックバンド編成でカントリー音楽の要素を含んだロックを演奏し歌う」挑戦を始めた訳です。

前述のThe Nitty Gritty Dirt Bandもその流れで、1972年にはカントリー音楽のベテランミュージシャン達とコラボしたアルバム「永遠の絆(Will the Circle be Unbroken)」を制作しています。まさにジャンル間の壁を壊した、歴史的邂逅だった訳です。ここにはDoc Watson、Earl Scruggs、Roy Acuff、Merle Travisなどが参加しています。Bill Monroeも参加を拒んだとか。

この動きがあったおかげで、のちのEaglesやThe Doobie Brothersの音楽をロックファンも自然に聴けるようになった訳です。

ポイント6:Sammy Davis Jr.

この曲は様々なミュージシャンによってカバーされていますが、中でもSammy Davis Jr.は自身もダンスが得意だったこともあり、ステージでの重要なレパートリーにしていました。

この人がどんな人だったのは、今では説明が難しいのですが、歌手、俳優、トークショーホスト、ダンサー、物真似、など全てが得意な「エンターテイナー」でした。

ポイント7:Nina Simon

出典のデータが正しければNina Simonはこの曲を1971年に録音しています。
いつものブラックネス丸出しのドロドロとした歌い方ではなく、歌詞の世界観を伝えるように淡々と歌っています。

カントリー/フォーク音楽に包含されている「コク」を浮かび上がらせたような歌唱ですね。


ポイント8:Bojangles

スラングとしては「(ちょっと大きめの)キンタマ(ダンスをすると、それがズボンの中で上下する)」とか「車の床でビール瓶がカタカタいう音」みたいな意味があるようですが、一番ピッタリくるのは「陽気で楽しいこと」という使い方かもしれません。


ポイント9:様々なバリエーションを聴いてみましょう

Bob Dylan
たぶん「この曲はオレが書きたかった」と思いながら歌っているのでは。


John Denver
1970年録音、すごく素直な歌唱ですね。


Sonny Stitt

優しいジャズワルツに。


Neil Diamond


John Holt
1973年には早くもレゲエに


綾戸智恵


森山良子


中川五郎


ポイント10:冒頭のベースラン

この動画が分かりやすいと思います。


◾️歌詞


I knew a man "Bojangles" and He'd dance for you,  In worn out shoes
Silver hair, A ragged shirt And baggy pants, The old Soft Shoe*

He jumped so high, He jumped so high
He'd lightly touch down

Mr. Bojangles, Mr. Bojangles
Mr. Bojangles, Dance

I met him in A cell in New Orleans, I was Down and out
He looked to me To be The eyes of age, As he spoke right out

He talked of life, He talked of life
He laugh-slapped his leg in step

He said the name "Bojangles" and He danced a lick Across the cell
He grabbed his pants A better stance
Whoa, he jumped so high, Clicked his heels

He let go a laugh, Let go a laugh
Shook back his clothes all around

Mr. Bojangles, Mr. Bojangles
Mr. Bojangles, Dance

He's danced for those At minstrel shows And county fairs
Throughout the South
He spoke with tears Of fifteen years
How his dog and him They traveled about

His dog up and died, He up and died
After twenty years he still grieves

He said "I dance "Now at every chance
In honky-tonks For drinks and tips
But most of the time I spend behind
These county bars 'Cause I drink a bit"

He shook his head, And as he shook his head
I heard someone ask, "Please?

Mr. Bojangles, Mr. Bojangles
Mr. Bojangles, Dance

*



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