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≪短編≫封印している特殊能力が役立つ時…

久しぶりに渋谷の街へ出た。
現役サラリーマンの頃には出張にかこつけてフラフラ歩いたものだ。

久しぶりの渋谷ということと、友人と再会でアルコールもすすんだためか、吸い込まれるように道に迷ってしまった。
公園通りの坂道を幾本かすすみ右手に入ってしばらく行くと、ちょっとした公園がある。そこに易者風の初老の男性がすわっていた。
「こんな人気のないところで…」と思いながら前をとおりすぎようとした。


特殊能力をお持ちですね

「旦那さん、あなたは特殊能力をお持ちですね」
突然、声をかけてきた。
彼は言う
「あなたは気づいていないかもしれないが、あなたの特殊能力が、邪悪なるものを消し去り世界を救うことになります」と。

「何を言っているんですか?」
と返しながら、長年封印している特殊能力のどれが役立つのだろうと思いを巡らせた。

私が封印している特殊能力は…

封印してきたそれは

透視できない千里眼
青い空に飛行機雲が伸びる。ただ他の人と違うのは空を飛ぶ飛行機の機体に描かれている文字が見えるという点。沖合を進む貨物船のデッキに立つ船員の顔もわかる。
はるか遠いものにズームできる・・・ステージをオペラグラスで見ると演者の口元や頬をつたう汗までもが見えるような・そういう能力がある。
ただ透視の能力がないから、壁があるとその向こうのものは見えない。見通しが良い場所のモノしか見えない、遠くのものがはっきりと見えるだけの能力。

地獄耳だが内容がわからない
なにやら外国の言葉でヒソヒソ声で話す人。雑踏の中で聞き分けられる能力があるのだが、言葉そのものがわからないから悪だくみなのかただの会話なのかわからない。
そもそも聞こうとする音を事前にわかっていないと、ただ雑踏がうるさいだけで聞き分けることすら難しい。

被写界深度が浅い透視能力
エレベーターの前に立つ。エレベーターのドアが透けて見える。扉が開く前に中に乗っている人がわかる。
しかしピントが合わないとその人すらも透視して向こう側が見えるからエレベータシャフトやその奥の部屋の様子が見える。
すれ違う人の服の下に拳銃が見えるけど、相手がちょっと動くと拳銃を通り抜けて肌着が見えて、皮膚が見えてあっという間に血管や内臓までもが…そして向こう側が見える。
写真や動画の映像の世界では前ボケや後ボケができて奥行き感ある素敵なものになるのだが、透視となるとどうもいけない。

念力の被写界深度が深い
オフィスで恋心を寄せる女性がいた。
いたずら心で思いを込めて指先を「ふっ」と動かすと女性のスカートがフワッとめくれ上がる…とそのまま女性も浮き上がって宙返りしてしまった。その向こうの椅子やデスク、はては先に座っている課長までもがひっくり返る事態。そうして念力は封印した。

人の数倍の体力が必要な瞬間移動
瞬間移動はコマ撮り写真のようにコマを飛ばして人よりも早く動くから、他の人から見たら瞬間移動に見える。
でも体力不足ですぐに疲れてしまう。仕方ないからと電車やバイクを使うと自分の能力ではないから、通常のコマに戻ってしまう。

予知能力の期間が雑
「自分は命を落とすことになる」的な予知の感覚を覚える。「地震が起こるぞ、大きな揺れだ」。でもそれは今じゃない。いつなのか解らないけれどそれは起きる。

そのほかにもこんな嫌な能力までもあるから、封印している。
駅のトイレでおならやウンチのニオイでその人が食べた料理の食材がわかる。さらには体臭で食べたものがわかる・電車の中で隣に立った男性の臭いなど嗅ぎたくない。
触れた人の思っていることが読める・が満員電車の中で四方八方から押されると何が何やら区別すらつかない。それがウザくて目の前のコイツを消し去りたいと念じたら、目の前にはコイツのかわりに別の見知らぬ誰かがいる。
モノに触れるたびに、モノに刻まれたモノの記憶が流れ込んでくる~マンションに戻って部屋番号を押す。ボタンごとに違う作った人の顔や建築関係者の顔。エレベーターのボタンや廊下の手すり、ドアのノブ・・・。
動物や植物と意思の疎通ができるなんてうるさくて仕方なかろう。
時間を戻しても、自分も同じように戻ってしまい、同じ歴史をトレースしつづける。記憶と能力を持ったまま時間を行き来できるようになると、自分がどこの時間の誰なのかわからなくなる。
死者の霊や魂的なものを見ようとすると、あたりに石器時代やら足軽姿の農民、お武家様に空襲に逃げ惑う人がウジャウジャしている。死者をよみがえらせるアレって、探すのが大変だと思うし、死者のどの状態の姿でよみがえるのか怖い。

内なる力が邪悪なるものを消し去る

「っていうような特殊能力は持っているのだが、その中のどの能力ですか?」
私が尋ねると老人は少し哀し気な目でこちらを見ながら言った

「あなたの左の手のひらにあるそれじゃよ。それが世界を救うのじゃ」と。

「この左の手のひらにある…」つぶやき、左手のひらを軽く開く。

手のひらがほのかに温かくなり、何やらエネルギーが集まるのを感じ始めた途端に、自分の鼓動が止まり風景に霞がかかりはじめ、身体の他の機能が停止するのを感じた…あぁ世界が救われる…


◆誰に何を伝えたいかもわからない文です。もしよかったら「スキ」を押してください。キーボードに向かうエネルギーになります。

※2021年6月に書きかけて放置していたものです。同じころに「夢の世界」を書いていました。駄文ですがぜひご一読ください。


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