山崎余市

・小説やエッセイを定期的に書いていこうと思います。少しでも面白いと思っていただけたら試…

山崎余市

・小説やエッセイを定期的に書いていこうと思います。少しでも面白いと思っていただけたら試しにまた覗いてみてください ・呪われた体質(下戸)のおっさんです

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【エッセイ】呪われた体 ~下戸~

主は52歳のおっさん。呪われた体質(下戸)である 酒はビールをグラス一杯飲んだだけで顔が紅潮するほどの憐れな呪われっぷりであるため、主は酒とは無縁の人生を歩んできた。 ここであらかじめ断っておくが、 酒と無縁の人生とは、単に酒を飲まない人生ではない。 幼年期に想起した「大人」とは、サザエさん一家の男系眷属のように、家路に至る酒屋で杯を重ね、残酷な日々の労苦をしばし癒し、束の間の自由を謳歌するものだった。 しかし、呪われた者にとってそれは許されない世界の出来事である。

    • 【第5話】我が王のサナギ

       数年後、王女とピエールが結婚した。  ピエールは幼い頃から王女のことが好きだったから、彼は、この婚姻は蝶たちが叶えてくれた奇跡であると考えた。  さらに数年後、ふたりの間に男の子が誕生した。彼は成長するにつれ、レナード王子を彷彿とさせる容姿となり、王を大いに喜ばせた。  きっと王は、この新たな王子こそがレナードの生まれ変わりであると信じていた筈である。  絵を描くことが好きな王女は、幼い王子にも絵日記を付けさせた。王女の才を受け継いでいるのか、絵はなかなかの腕前で、ピエ

      • 【第4話】我が王のサナギ

         レナード王子が、国中の医者から不治の病と診断された頃、我が王は藁にもすがる想いで様々な人物を城に招いた。  国内に異国の医者が滞在していると知れば、すぐに使いをやって城に呼んだ。薬草に詳しい植物学者、教会の神父、呪術師、祈祷師、魔術師や、異教の僧であっても城に招いて丁重に歓待した。彼らと会うたびに、我が王はぬか喜びと落胆を繰り返し、王子の病状は日を追うごとに悪くなっていった。  ある日、我が王は、王子と仲の良かった少女アストリドを思い出した。彼女は身寄りのない異国出身の少

        • 【第3話】我が王のサナギ

           それからというもの、私は蝶の夢をよく見るようになっていた。  目覚めた後も、今のは果たして本当に夢であったかと感じることも多い。恐ろしくもあるが、私はそこに一縷の望みを見出していた。  つまり、例の、月夜の晩に中庭で見た蝶人形だ。あれも良くできた夢だったのではないかと思うようになったのだ。そう思うと、確かにそんな気もする。そうであって欲しい、きっとそうに違いない。私は少し心が軽くなっていくのを感じた。  現実に体験したと思っていることを夢だと信じる努力には、然程の苦労を伴わ

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        【エッセイ】呪われた体 ~下戸~

          【第2話】我が王のサナギ

           我が王の城は隣王に征服されたが、王家同士は親戚関係があり、しかも先日までは友好国であったから、今までと全く同じようにとは行かないまでも、私たちには特に不自由のない暮らしが約束された。  我が王も隣王の配下ということにはなるものの、引き続き王であったし、私も、今後も我が王の執事として生活することが許された。  不自由はないどころか、むしろ待遇としては以前よりも良くなったと思えるほどだ。何しろ我が王には、もはや公務がないのだから、自由な時間は大幅に増えた。  暇は時として人

          【第2話】我が王のサナギ

          嗅覚補助具の悲劇

           猫宮氏は人工鼻の開発を進めている。  古来、人間は、目には望遠鏡や顕微鏡、口にはマイクや拡声器、耳は集音器などを使って、本来の能力では見えない世界を眺め、声を伝え、音を聞いてきた。  一方、嗅覚や味覚にはそういった補助器具は今のところ存在しない。  もっとも、嗅覚に至っては人間の相棒である犬の能力が素晴らしいこともあり、彼等に頼ってさえいれば太古の昔から問題なかったこともあるだろう。が、やはり訓練は大変で、最近は動物愛護の観点から麻薬犬に反対する団体もあるという。  

          嗅覚補助具の悲劇

          嘘の研究

          「女百背(めひゃくせ)」という言葉がある。  江戸の昔、街道沿いに点在した宿場に荷を運ぶ行商の娘を指してこう呼んだ。  日に百軒もの商家を回るという、過酷な行商を行う女という意味だが、実際に百件もの商いをこなせる者は少なかったという。 「百背に足らず」という言葉はここから来ている。  と、言うのは嘘で女子100メートル背泳ぎのことである。  司馬遼太郎風に嘘を書くと楽しい事に気付いた。 #司馬遼太郎 #司馬遼太郎風の嘘 #女百背

          【短編】幽霊に会いたい

           真治は今夜も墓地を歩く。  最近は手当たり次第に墓地に出かけ、幽霊が出るという噂の場所にもわざわざ行く。  霊感があると自称する人や、霊媒師にも会いに行く。しかし、14歳の真治にまともに取り合ってくれる人は少ない。  時には霊媒師と話すのに30分で1万円支払ったこともあったが、これまで幽霊、亡霊、お化け・・・まぁ、呼び方は何でもよいのだが、この世のものではない何かに出会えたことや、存在を確信できたことは一度もなかった。 「あなたには霊感がないから会えないのよ」  霊

          【短編】幽霊に会いたい

          【短編】ミュージカル好きの教授

           科学者たちは、有史以前の人類の様子を初めて見た。  最初に驚いたのは、彼らが歌うように話していることだ。それはもはや完全に「歌」と言っていいものだった。  勿論、現代の音楽とは違うのだが、獲物の捕獲に成功して嬉しいときは、朗々としたテンポの速い歌で。誰かが死んだり、仲間が傷ついたときは、どこか悲しげな歌を互いに歌い意思疎通する。  驚いたことに、彼らの歌は、現代の科学者にも感情を伝えることができた。言葉の意味は解らずとも、感情が先に伝わるのだ。  もっとも、犬や猫だっ

          【短編】ミュージカル好きの教授

          【エッセイ】残業嫌いの役員

           私は残業が嫌いだ。もう大っ嫌い。  定時を過ぎたら1秒でも早く帰り、好きなことをしたいと思っているし、それが私の権利だと信じている。  私は2024年3月現在52歳。妻子あり。一応5000人規模の会社の役員である。あまりこういうことを言うのも何なのだが、これから語るような生き方をしている割には、同期の中では出世が一番早い。  これは本当に謎なのだ。絶対に謙遜ではない。私にはのし上がるほどの実力もないのだ。  自慢ではないが、私に愛社精神というのは1mmもない。単位がmm

          【エッセイ】残業嫌いの役員

          【超短編】広告代理店の星【短編】

           広告代理店に勤める塩崎は、妻とトルコ旅行に出かけた。  有名なエフェソスは聖書にも登場する街で、キリストの使徒であるルカや、ヨハネの墓もある、世界でも非常に古い都市のひとつだ。  世界最古のサービス業は「売春」であるという話をよく聞く。  ここエフェソスの遺跡には、売春宿までの行き方を書いた、紀元前の石盤があり、トルコ人のガイドは熱心にその看板の意味を説明している。  いや、待てよ!  それって広告じゃないか!  まさか売春婦が自ら石に広告を刻んだりしないだろう

          【超短編】広告代理店の星【短編】

          【エッセイ】さかなクンの驚き方について

           さかなクンはすごい。  確かに豊富な魚の知識を持ち、それを上手に、誰にでもわかりやすく説明する才能がある。  彼はTVチャンピオン出身で、私はその時の放送をリアルタイムで見ていた。  まだ高校生で学ラン姿のさかなクンは、匂いだけで焼いている魚の種類を当てたりして、それはもう圧巻だった。  でも「ギョギョー!!」っていう驚き方はやめて欲しい。そういうキャラ作りは嫌いだ。  本気で驚いている奴が「ギョギョー!」なんて言わないよ。「ギョ=魚」なんだろうし。そんなうまい話信じ

          【エッセイ】さかなクンの驚き方について

          【短編】地球担当SE・神と呼ばれちゃう

           彼が構築したシミュレーション。「地球」。  最近はずいぶん安定してきた。生態系も落ち着いている。  あまりにも強く貪欲な肉食獣や、有害すぎる菌。そういったものが出現するたびにアラートに悩まされたが。最近は発生回数も減ってきた。  アリが大量に発生した地域に、アリクイを作って配置した時には、 「少々短絡的ではないか」  と上司に窘められたが、あれだって上手く行ってるし、デザインも評判がいいのだ。  懸案であった人類も・・・まぁ、彼らの出現は少々意外ではあったが・・・今の

          【短編】地球担当SE・神と呼ばれちゃう

          【短編】口内の乱

          「大した被害はない。そう大袈裟に騒ぎ立てるな」  指揮官は冷たくそう言い放つと、再びモニタに向き直り、 「君の悪い癖だぞ」  と私に言った。  確かに戦況は悪くない。今回、辺境で発生した口内の乱(口内炎)は、やや重度ではあるものの、この身体世界全体を揺るがすほどのものでないことは自明だった。  しかし、一昨日からの食事量の低下と、言葉数の減少。この事実は否めない。私はそのデータを指揮官に報告する機会を失い、司令室を後にした。  司令室から緊急警報が発令されたのは未

          【短編】口内の乱

          【短編】埼玉生まれの死神

          「まさかこんなんがきっかけで死ぬことになると思わんかったやろ。ええ気味や」  と言いながら、千葉は淡々と短いナイフを男の肌に刺していく。人を殺すときいつも関西弁になってしまう。それは千葉が常々直さなければと思っている癖だ。姓は千葉だが、生まれも育ちも埼玉県だ。 「でも、まだ助かるかもと、心のどこかで思うとるやろ?確かにそうかも知れん。こない小さなナイフやと何べん刺しても死なんときは死なんもんやからな。なら目ぇ潰しとくか。助かっても目ぇ見えんようにな」  先ほどからナイフ

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          【第1話】我が王のサナギ

           我が王は無類の蝶好きだ。  蝶といっても様々な種類があるが、我が王は、オオコガネチョウにしか興味がない。  ある日、客人が珍しい蝶の標本を王に献上したことがあった。異国の市場でみつけたものらしく、王家の者もみな目を丸くしてその標本を眺めたものだった。  青紫色に輝くものや、真珠のように乳色に輝くもの、本物の金属と見紛うほどの光沢をもった蝶もあった。どの蝶も、我が王が熱心に育てているオオコガネチョウより遥かに美しい。我が王も、その蝶たちを見たときは驚き、感心しているように見え

          【第1話】我が王のサナギ