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【小説】世界一の嘘つき 〜去勢 〜 No.2

元はサークルの先輩からの誘いだった。

将来のことなど何も考えず、
ただ茫然と過ごしていた日々。

その中で、ありがたくも
自分に声がかかった。

「お前は将来どんな所就職したいの?」

当時大学2年生。

就活のことなど1ミリも考えていなかった。

「将来お金に余裕持って生活したくない?」

年金2000万円問題などが騒がれても、
政治経済について、何も感じず過ごす日々。

「今こそ、自分に“投資”すべきなんだ」

投資。

俺はギャンブルを嫌悪していたが
“資金運用はギャンブルではない”
という事をこと細かに説明していただき
自分も納得できた。

こうして、俺は
MLMの一員となったわけである。


そうして1年が経った。

大学3年生の冬。

俺は一流企業への内定も取得し、
会員数も第1位。

投資運用益も1位を獲得し、
新リーダー賞も受賞。

華々しい結果を残し、
一流企業でもエリート街道。

そして20代にして年収2000万を
叩き出す最高の人生。


の、はずだった。

実際はどうだ。

他グループが1月で10名の勧誘を
成功していながら

自分は1月で2名。
グループも拡大はしたものの
収入はほとんど無し。

投資運用に関してはもっと最悪。

「今買ったら絶対上がる」
という根拠の無い自信。

「お金が無さすぎる…なんとか勝たないと」
という謎のプライド。

これらが邪魔し、
アルバイトを週12で入れ、得た
40万円近くを全て溶かす生活。

しかも悪質なのが
「1ヶ月で10万の利益を上げた男」
として運用を教える立場にいたのだ。

(1ヶ月10万稼いだのは、たまたま株価の流れがずっと同じで、実質“ビギナーズラック”である)

覚えている範囲で、200万近くは負けた。
それを【隠して】運用をメンバーに教えていた。

就活は、なんとか
東京の大手企業には内定をもらえたのだが

自分でも納得は出来ていなかった。

いわゆる「口だけ」。
理想と現実のギャップを痛感しながらも

意識を「しないように」
していたのだと思う。

こんな奴がリーダーをしている組織。

その結末は負の道に向かって
着々と進んでいくのであった。

…次回へ続く。

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