8月13日 怪談話から見えてくるもの【今日のものがたり】
「ねえお兄ちゃん、なんで夏になると怪談とか怖い話の本が増えるのかな?」
今日から会社がお盆休みになり、妹の深景(みかげ)と少し遅めの朝食をとっている。
姉さんは休みをずらしたみたいで、僕たちが起きるより早く出勤していった(と、メモに書かれてあった)。
「涼しくなりたいからかなぁ」
「怖い話を見たり聞いたりしたら涼しくなるの?」
「いきなりおばけがどーんって出てきたりしたら、ドキってふるえあがるだろう? 鳥肌がたったりとか」
「ん~でも、わたし、妖怪さんに会ったことあるんだよね」
「な、なんだって……?」
深景の表情を見る限り、うそを言っているようには見えない。そもそも深景は嘘をついたりしない。ということは……いやいや、まさかそんなことは……
「それは、本当か? 夢ではなくて?」
その可能性は充分にある。それこそ怖い話を読んだ日の夜なんて、そういう夢を見たっておかしくはない。僕だって経験がある。
「ゆめ、なのかなぁ。でも、起きたら妖怪さんが持っていた木の枝が枕元に……」
「ちょっとまて。それはいつの話だ。お兄ちゃんは聞いてないぞ」
そのへんの怪談よりずっと怖い。妙にそわそわしてくる。深景も……いやいや、まさかそんなことは……
「だって、クラスの子にこの話をしたらもうちょっとおもしろい怪談話にしろって言われて……それで、このことはあまり話さないほうがいいのかなって」
クラスメイトさん、深景の話をもっとちゃんと聞いてあげてください……! いかん、ここは僕がしっかり聞き出さないと。僕は麦茶を飲んで深呼吸をする。
「最近、会ったことはあるのか? その、妖怪とやらに」
「うーん……あ、なんかね、13日の金曜日みたい。またその日にな、って」
「13日の金曜日……」
深景はその言葉に、ピンと来るものはないだろう。“13日の金曜日”からイメージするもの。僕ですら姉さんに聞いて知ったくらいだ。
背筋に寒いものを感じる。
僕だけだと思っていた。見えないはずのものが見えるのは。
いや、まだ確定事項ではない。だから、見届けなくてはいけない。これは今の僕の仕事にも通じる大事な役割だ。
深景にはずっと笑っていてほしい。怪談話を聞いてちょっと怖いと思っても、少したったら忘れてまた笑っていてほしい。
見えないはずのものは、見えないままでいいのだから。
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