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2月19日 チョコミントとボタンのほつれ【今日のものがたり】

 なんと、齋藤から呼び出しをくらった。
 クラスの中で齋藤は一番背が高く、ガタイもいい。なのに、家庭科部という文化系部活動に所属している。いや、なのに、は偏見だな。失礼した。まぁ、クラスの中で二番目に背の高い俺も運動系ではなくお菓子同好会だからな! しかもリーダーを務めている。お菓子はうまい。
「悪いな、湯本。いきなりで」
「いや。でも、どうした。俺を呼び出すなんて」
「湯本と言えばお菓子に詳しいかと思って。リーダーだろ?」
「そこまで知ってるのか」
「なんか女子たちが話していたからな」
「そうか。齋藤は神坂と渡辺の席に近いもんな。でも、お菓子のことならその二人もなかなかの知識量だぞ」
「いや、女子は誤解を招きそうだから……」
「誤解?」
「いや、なんでもない」
 ははぁ、なるほど。なんとなくわかってきたぞ。なるほど、なるほど。そういうことか。齋藤はあいつとめっちゃ仲いいもんな。いいな、青春だな!
「湯本。顔がニヤけてるぞ」
「すまんすまん。俺で力になれることがあればなんなりと」
「ありがたい。で、さっそくなんだが、おいしいチョコミントのお菓子を一緒に探してくれないか」
「チョコミント! そこに来たか」
「俺は家庭科部ではあるんだが、どちらかというと食より手芸よりの人間だから、お菓子の種類には少し疎くてな」
「チョコミントはねぇ、今すごいよ。なんだ、中村っ
てチョコミント好きなの?」
「らしいんだ。……って、おまえ今……」
「まぁまぁ、今聞こえてきた名前は胸にしまってよ」
「胸にしまえって……」
 齋藤って案外わかりやすいやつなんだな。かわいいとこあるじゃん。
「まぁまぁ。チョコミントはバレンタインのお返しだろ?」
「否定はしない」
「いいじゃん、いいじゃん。で、チョコミントだけど、俺も食べてみたかったのがあるんだよね」
「お菓子同好会のリーダーが食べてみたかったものなら間違いなさそうだな」
「ここからだとちょっと遠いんだけど、ま、チャリで行けないことはないし、今度の日曜日に行ってみようぜ」
「助かる。ありがとう」
「新たなチョコミント菓子の開拓にもなるからな」
「お礼にその取れかかったボタン、直すぞ」
「え? ボタン? わ、ほんとだ、取れそう」
 ワイシャツのボタンは制服のネクタイの下になるから見えづらいはずなのに、齋藤はよく気づいたな。
「裁縫セットとか持ってるんだな」
「当然だろ。てかこれ、すごく便利だぞ。こういうときに」
「でも俺、針に糸通すのも苦手だからなー」
「ははは。そこからか」

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