平山正木という男/映画『パーフェクト・デイズ』をめぐって
去年の年末のこと。夕食の仕度をしながらラジオをつけていた。ピーター・バラカン氏が「平山の聴いている曲のセンスが抜群にいい!」と感心の声をもらしているのが、ふと耳にはいってきた。
(平山って一体だれだろう?)
何ていうことはない。映画『パーフェクト・デイズ』にて役所広司の演じる主人公・平山正木のことだった。映画をまだみていない自分が<平山>を知らないのも当然だった。ラジオではザ・ローリング・ストーンズの「(Walkin‘Thru The)Sleepy City」が流れていた。
それにしても<平山>があたかも”実在”しているかのようにラジオで語られているのが僕には不思議だった。そしてまた<平山>に卓越したリアリティを与えている(らしい)映画の出来が素晴らしいのは容易に想像できることだった。
年が明けて一月の終旬。ようやく観ることが叶った。
早朝、神社前の道路。近所のおばさんが掃除をはじめる。おばさん、竹箒で掃く。その気配で主人公・平山が目がをさます。役所広司の目をひらくところが映し出される。
冒頭シーンからヴィム・ベンダース監督の魔術に僕はかけられてしまった。フィクションであるのにまるで平山正木という男のドキュメンタリーを追っているかのようだった。この感じは何だろう。役所広司の美しい所作と繊細な息づかい。映像から”生きた呼吸”が伝わってくる。稀有な映画だった。
鑑賞後。ふかい充実感。
そして僕はこんな決心をしたのだった。
(トイレ掃除をちゃんとやろう!)
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