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反転授業の設計と実践(Part 1)

2016年12月29日

この記事は、2016年10月に、同志社女子大学のFD講習会で講演した内容です。2017年中に同大学の報告書として公になりますが、ここでは、一足早くここに収録します。なお、途中に挟んであるスライドは報告書には載らない予定です。ですので、この記事はnote特別版ということになります。
長いのでいくつかのパートに分けてお届けします。では、どうぞ。

反転授業の設計と実践
 ……学習効果を高める授業設計の工夫……

向後 皆さん、こんにちは。早稲田大学の向後です。よろしくお願いします。今日は反転授業のお話をしていきたいと思います。

■反転授業とはどんな授業か

 「反転授業」というのはどのようなことかという話ですが、今までは対面授業をやってから宿題を出すという形でした。皆さんも宿題を出されるかもしれません。しかし、大抵の学生は、宿題をやりません。それならば宿題はやめよう、と。

 そうでなく、あらかじめ予習をしてきてもらって、それを教室の授業の中で実習してもらうという形で、反転させましょうというわけです。今までは復習タイプの授業が多かったけれども、これからは予習をやってきてもらって、それを実際の教室内で定着させるという形をとります。これが、復習型から予習型に反転させるという意味で、「反転授業」という名前がつけられることになりました。

 これは、アメリカで物理を教えている先生が最初に始めました。教室の中で、実験のようなものはおもしろいけれども、先生が話をしだすと、学生がなかなか聞いてくれないし、集中力も続かないということがあります。そこで、話をするという部分をできるだけ圧縮したいのです。話を聞かせる代わりに、その時間で学生・生徒がいろいろな実習をやって、その中で学んでいく時間にしたいと考えたわけです。

 先生の話を短くするためには、先生の話とレクチャーをあらかじめ学生に聞いてもらえばいいわけです。今はYou Tubeもありますし、動画の配信システムがどんどん整ってきています。先生が自分をビデオに撮って、あらかじめ学生に視聴させて、そこから授業をスタートさせるのが、反転授業です。

■eラーニングの神話と対面授業の神話

 さて、eラーニングについてよく言われることがあります。eラーニングはドロップアウトしやすいということです。eラーニングを使うと、学生が簡単にさぼれるとよく言われます。しかし、必ずしもそうではありません。eラーニングをやるにあたって、ドロップしにくいような工夫をする、それから、さぼれないような工夫をすることは可能です。それは、これからお話を順次していきたいと思います。

 授業の中でレクチャーを少なくすると、実習授業、それからグループワークもやりやすくなるわけですが、対面授業の神話ということもあります。それは、単にクループワークをさせれば効果的であるとか、グループワークは学生の自発性を促すということです。

 これも、必ずしもそうではない。単にグループを作って、「話してください」と指示するだけでは、がちゃがちゃになってしまいます。学生のほうからすると、いろいろなことを話せて楽しかったけれども、学んだことは何かというと思い出せない、というような形になってしまうことがよくあります。つまり、効率の悪い授業になっているわけです。ですから、どのような授業でもグループワークをさせればうまくいくということも神話です。

 対面授業の中でグループワークをどのように設計していけば、実のあるグループワークで、しかもおもしろくて、実際に身につくようになるのかということも、このあとで考えていきたいと思います。

■教材ビデオの作り方

 反転授業をしようと思ったときに、eラーニングを作ることが、最初のハードルになると思います。どのようにeラーニングのビデオを作っていくかということを、具体的にお話ししていきたいと思います。

 私が最初にeラーニングのビデオを作ったのは、2002年です。2003年に、私のいる早稲田大学人間科学部でeスクールという社会人対応の通信教育課程を開設しました。そこでは、全ての授業を、インターネットを介したeラーニングで実施して、124単位を取って学士号を授与するという形のコースでした。そのときに初めて、オンデマンド・ビデオという形で、eラーニングの教材を作り始めました。

 これは、その当時の画像をスクリーンショットで撮ったものです。今はほとんど使われていませんが、プラズマ・ディスプレイにスライドを映して、その前で自分が話をするという形で収録していました。専門のカメラマンがスタジオの中に入って、収録するという形で、これはとても緊張しました。今では、このような形はお勧めしません。

■自分一人で収録する

 今はどうしているかというと、非常にラフな格好で、自分の研究室で撮っています。パソコン一台あれば、自分一人で撮れます。講師の顔とスライドを合成してくれるソフトウエアが安価に買えますので、それを使って撮っています。

 自分一人で収録すると、まったく緊張しません。自分一人なので、どれほどつっかえても、どれほどかんでも、言うことを忘れても、まったく問題はありません。収録していくうちに、だんだん慣れていきます。ミスをした後に、編集でカバーできるのですが、もう編集すらしなくなります。

 これは放送番組ではないので、自分が自分のペースで、自分の好きなように語れば、それが一番良い教材ビデオになるのだということを、言いたいのです。

 放送番組ではないので、シナリオを書く必要はありません。シナリオ原稿を書くと、つっかえます。私は、プロモーション用のビデオを何回か撮ったことがありますが、これはきちんとシナリオがあって、セリフが書いてあるのですね。その通りに言わなければいけないと思うと、間違えます。これで何回も何回も失敗しています。

 ですので、eラーニングの場合、シナリオは作りません。話すべき内容はすべてスライドの中にあるので、それを見ながら話せばいいのです。

 ちなみに、私が使っているソフトは、カムタジア(Camtasia)という、アメリカのテックスミス(TechSmith)という会社のソフトですが、これは2万円から3万円ぐらいで、研究費で買えると思いますので、ぜひ使ってみていただきたいと思います。

 このような形でビデオを撮ったら、大学のLMSがあれば、そこにアップロードします。同志社女子大ですと「マナビー」というLMSが使えるということですが、早稲田大では「コースナビ」という全学共通のLMSがあります。そこにアップロードして配信します。

 もし大学のLMSが使えなければ、YouTubeを使えば問題はありません。もし学生以外の人には見られたくないのであれば、暗号URLを指定すれば、そのURLを知っている人だけが視聴できます。

■クイズをつける

 eラーニングを作るときのポイントは、クイズをつけることです。LMSの中にクイズを入れておけば、自動採点できます。ビデオの中にクイズを入れておいて、「答えはLMSに投稿してください。それは自動採点されますので、自分で確認してください」という形にしておきます。

 最初に言ったように、ビデオの視聴はさぼってしまう可能性があるので、ビデオの中にこのようなクイズをちょこちょこと入れておいて、そのビデオを見ないとクイズがきちんと解けないような形にしておくといいです。

 私のクイズも、内容としては簡単で、100点を取らせるためのクイズなのです。ただし、仕掛けをしておいて、ビデオを見ないでクイズだけを解こうと思うと、間違えるようになっています。つまり、常識的な考えで正解だと思うものが、バツになるように作ってあります。ですから、これはビデオを見ないときちんとクイズが解けないぞ、ということを体験してもらうと、それ以降は全部ビデオを見てくれるようになります。

■対面授業につながるような課題を出す

 それからもう一つは、対面授業につながるような課題を出しておきます。対面授業ではもうレクチャーをしなくていいので、すぐに実習を始めるわけですが、そのときの始まり方として、「では、ビデオでやったこの予習の問題からスタートしましょう」という形にすると、非常につながりがよくなります。つまり、学生たちが自分でビデオを見てきたことが、意味があること、単にこれは予習だけでなくて、教室の中でやる実習につながる課題だったのだということを確認してもらうという意味で、つながりをつけたいのです。このようにすることでビデオの価値も高まります。

 私は教え方の授業を担当していますので、たとえば、「認知機能のインストラクションのための独習用教材を作ってください。それを実際にやってみて、その報告と考察を、ショート・レポートですね、400字以内で書いてください」という予習課題を出します。そのあとの対面授業では、報告と考察を400字以内で書いてもらったものが、それぞれの学生の手元にあります。それをグループの中でお互いに発表しながら進めていくという取っかかりの課題として使うことができます。

■eラーニングの作り方のまとめ

 ということで、eラーニングの中心になる、ビデオの作り方をご説明しました。ポイントは、収録は個人のパソコンで可能なので、ぜひそれを体験していただきたいということです。それから、配信チャンネルは、大学のLMSがあればもちろんそれを使いますが、YouTubeなどを活用することもできます。それから、クイズと課題をつけるということが、ポイントになります。聞きっ放しにさせないということです。

 なお、私の場合は、LMSにもアップロードしますが、You Tubeにも同時並行でアップロードしてあります。というのは、最近の学生さんはスマホで全部ビデオを見ます。LMSがスマホ対応になっていない場合もあると思うので、その場合はスマホでも見ることができるYouTubeが便利です。

 それから、YouTubeにアップロードしておくと、自分の授業が安定して、2、3年ぐらいたった後に、公開が簡単にできます。そのような形で、「これは同志社女子大の授業です」というクレジット付きで公開されていると、大学の宣伝にもなりますし、「この大学には、このような先生がいるのだ」という広報にもなると思います。

 それから、収録の方法ですが、個人のパソコンで可能ですからぜひやっていただきたいということと、個人のパソコンでやるときも、自分の好きなことを、自分のペースで話せる喜びをぜひ味わっていただきたいです。基本的に、大学教員は、おしゃべりで、自分の話をしたいのではないですか。けれども、一部の学生は私語をしていたり、スマホをいじっていたり、寝ていたりしていて、教員からはそのような人がすごく目につくんですね。教員は話をしていて、自分で楽しいし、学生も喜んで聞いてくれると思っているわけですが、一部にそのような人がいると、とても気になります。しかし、パソコンに向かって話をすると、自分の思う通りに話せます。この喜びを、皆さんにも味わっていただきたいです。

 自分が楽しんで、ビデオに収録して、それを見てもらいたいのです。そのような楽しさが伝わると、学生も喜んで見てくれます。ですから、つまらなそうに話すのではなくて、とてもおもしろい話をしているのだという雰囲気が伝わると良いです。ぜひそれを体験していただきたいと思っています。

 それから、ビデオ収録するときには、話を15分以内で切ることが非常に重要です。よく、eラーニングのビデオでも、1時間以上区切りなく話していることがあります。これは絶対にだめです。15分以内で切りましょう。15分単位で切って、それを4セクションぐらいでちょうど1時間に収まりますので、一つの授業内容にします。

 大学の授業一コマ分である90分の授業をビデオで収録すると、大体60分で収まります。縮まった分の30分は何かというと、最初のガヤガヤしたところや、「ちょっと、そこうるさいよ」というような注意をしている時間です。ということで、90分の授業内容は、eラーニングでは60分で収まりますので、それを4分割して、15分×4セクションという形で切っていくと良いeラーニング用のビデオができます。

(Part 1 終わり)

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