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パブコメ検証2~東弁1

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第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し


1 【甲案】に賛成する意見について
【甲案】は、現行民法第819条を、父母が協議上の離婚をするときは、 協議でその一方又は双方を親権者と定めなければならないと改正することを 提案するが、【甲案】に賛成する意見の理由は、以下のとおりである。
(1) 現行の離婚後単独親権の立法理由は現在では必ずしも妥当せず、現行法 制には問題点が多いこと
 婚姻中は共同親権だったものが離婚後に単独親権に移行すると定める民 法第819条第1項の立法趣旨は、離婚後の共同親権の行使は「実際論と しては、実行が困難で」、別居している「父母が協議しなければ、親権を 行使し得ないということは、子にとって甚だしく不利益」だからだという 点にある(我妻榮『改正親族・相続法解説』107 頁)。しかし、立法当初と 異なり、通信手段が発達した現在では、父母が遠く離れていても、子に関 する事項の決定につき、非同居親に関与させることは、さほど難しくはな い。 他方で、現行の離婚後単独親権(単独監護)については、①単独監護は理念的には子の利益に合致したものとはいえない、②子の奪い合いが離婚紛争の一大争点となりやすく、その結果、離婚紛争が複雑化・長期化するとともに、子の監護が不安定なものとなる、③父母双方が親権者・監護者として適格であって甲乙つけ難いとき、裁判所は極めて困難な判断を強いられる等の問題点が考えられる。
(2) 離婚後共同親権は子の利益に合致する場合があるにもかかわらず、現行 法では選択できないこと
 
婚姻中に父母が親権を共同行使するとされているのは、子に関する事項 につき父母の共同での決定にかからせることが子の利益に合致するからで あり、その理は離婚後にも妥当する。離婚後も子が父母双方と交流するこ とは、子の利益に合致すると言われており、実際、進学や医療に関して同 居親と子の意見が対立した場合や同居親による虐待があるような場合には、 非同居親が関与することが結果的に子の利益に繋がるとも指摘されている。 このように、離婚後共同親権は、子の利益に合致する場合があるが、現行 法では、父母が真摯に共同親権を希望したにもかかわらず、それを選択す ることはできない。
(3) 比較法的に見ても離婚後共同親権の国が多いこと
 欧米や韓国では、離婚後も共同親権や共同監護(joint custody)を認め る例が多い(参考資料 5-1)。諸外国が離婚後共同親権に道を開いたのは、 「離婚がありふれたことになり、夫婦としては失敗した両親であっても、 親としては協力して子を育てようという姿勢をもつ両親に道を開くためで ある」(水野紀子「離婚の効果を考える」法学教室 500 号(有斐閣、2022 年)62 頁)。もっとも、イギリスやオーストラリアでは、子が両親と過ご す時間を同等とするという要請があることから、制度として失敗したとい う評価もあるが、そのような失敗への反省から、共同養育にこだわらず共 同親権を実現したドイツなどは成功例と評価されており(第5回会議議事 録 49頁[西谷参考人])、離婚後の共同親権については一定の合理性があるとされている。
(4) 児童の権利に関する条約にも合致すること
 わが国も批准している児童の権利に関する条約第18条第1項は、「締 約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原 則についての認識を確保するために最善の努力を払う。」と定めており、 しばしば離婚後の共同親権導入の根拠として引用される。2019(平成 31) 12 年 2 月、国連の児童の権利委員会が、日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見においては「児童の最善の利益である場合に、外国籍の親も 含めて児童の共同養育を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法 令を改正し、また、非同居親との人的な関係及び直接の接触を維持するた めの児童の権利が定期的に行使できることを確保する」ため、十分な人的 資源、技術的資源及び財源に裏付けられたあらゆる必要な措置をとるよう 日本に勧告している(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100078749.pdf。 補足説明 12 頁、なお、補足説明 15 頁(注)も参照)。
(5) DVやモラハラ事案に対しても一定の配慮をしていること
 離婚後共同親権の導入に反対する意見として、DVやモラルハラスメン ト(以下「モラハラ」という。)が原因で離婚した父母について共同親権 を認めると、離婚後も父母間での支配・被支配の関係が継続するという点 を重視する意見がある。しかし、当会が賛成しようとしている制度は、離 婚後共同親権を原則とする、後述する試案2の【甲①案】ではなく、適切 な事案に離婚後共同親権を選択する(注)の考え方であり、高葛藤事例で 子に関する事項を共同で決定することが困難な場合には、そもそも共同親 権を選択しなければよい。 もちろん、DVやモラハラ事案では、支配・被支配関係が継続している から共同親権を自由な意思で選択できないという指摘もあるが、DVやモ ラハラ事案が離婚の全案件に占める割合はごく一部にすぎないという意見もある。実際、協議離婚の場合には父母の意思を確認する制度を設けるこ とで対処することも考えられ、(前注2)にあるとおり、具体的な規律を立案するに当たっては、DVや虐待がある事案に適切に対応することができるようなものとする提案もされている。 このように、海外でも広く導入されている、離婚後も父母の双方が子に 関する事項の決定に関与することを、当該父母の間で導入することが子の利益にとって必要な場合があるとすれば、そのような仕組みを選択する余地を認めておくことは相当であるといえる。

2 【乙案】に賛成する意見について
 離婚等における共同親権の導入に反対し、現行民法第819条の規律を維 持するという【乙案】に賛成する意見の理由は、以下のとおりである。
(1) 特に離婚後に父母が共同で親権を行使することは困難であること
 離婚した両親が子について共同親権を行使することは、とかく困難を伴 う。すなわち、親権を共同で行使するということは、子どもについて重要 な決定が必要となるたびに、父母が接触し、話し合いをしなければならな い」ことだが、相手に憎しみを持つ者が、嫌がらせのために、その場面を利用することは十分あり得るから、適時・適切に親権行使に関する決定が できなければ、子どもが重大な不利益を受けることもあると考えられる。
(2) DVやモラハラが離婚原因の多くを占めること
 DVは日本では1990年代に認識されるに至り、2001年には配偶 者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律が制定されること等 で周知されるにつれ、身体的暴力に代わって精神的暴力、特に経済的締付 や威圧的態度を示す等して巧妙に相手を支配するモラハラが問題化してき た。現在、離婚原因としては性格の不一致が最も多いとされているが、実 は、モラハラの立証上の困難性を勘案すると、その中に相当数のモラハラ が含まれていることが容易に推測され、被害者本人もその構造に気付かず、 心身ともに不調になりながらも、加害者から責められ続けるために、自ら に非があると思い込んでいる場合が多い。このような現状であっても、離 婚後単独親権制度下では、子と共に別居に踏み切った被害者は、離婚によ って加害者との支配従属関係から抜け出すことが可能だが、もし離婚後共 同親権制度が導入されれば、子を監護する被害者は、子が成長するまでは 加害者からの支配を受け続けることとなり、被害者にとって極めて甚大な 心身へのダメージをもたらすのみならず、子の健全な発育・成長にも悪影 響を及ぼす結果に繋がる。実際、「DVや児童虐待のように家族間に暴力 や支配があるケースにおいては、親権行使を口実に加害者がつきまとい、 極端な言い方をすれば、公認ストーカーを承認することになりかねない」 という指摘もある(水野紀子・前掲 63 頁)。
(3) わが国はDV被害救済制度が貧弱である等、離婚後共同親権を導入して いる諸外国と前提が異なること
 わが国のジェンダーギャップ指数は 156 カ国中 120 位と諸外国と比べて 大きく後れをとっており、離婚後の父母の生活実態も、母子家庭の貧困が かねてより指摘されているように、対等とは言えない。他方、早くから離 婚後共同親権制度を導入した諸外国では、共同親権による深刻なDV被害 の報告を受けて様々な法改正を行い、裁判所が加害者に自宅から退去する ことを命ずる制度や加害者更生プログラムを裁判所が義務付ける制度を設 ける等、DV被害者救済制度を充実させてきた。 これに対し、わが国のDVや虐待に対する被害者救済制度は極めて遅れており、いまだに被害者が逃げる以外の選択肢がない。そのためDVにお いては、多くの場合女性が、極端に言えばすべてを捨てて逃げる現状があ り、共同親権が導入された場合の弊害は、諸外国以上に深刻なものとなる ことが容易に予想される。離婚後共同親権の方向に将来的には進むとしても、離婚の際に子を連れて逃げるという自力救済が禁止され、DVを始め不適切な親権行使への公的介入が充実している諸外国と異なり、それらの環境が整っていない我が国に離婚後共同親権を導入することは時期尚早であるという指摘もある(水野紀子・前掲 63 頁)。 このように、諸外国が離婚後共同親権を導入していることは、前提が異なるわが国で離婚後共同親権制度の導入を正当化する理由にならない。実効性のあるDV被害者救済制度を導入しないまま、離婚後共同親権制度のみを導入するという意見は、日本のDV被害状況に対する理解が十分でなく、少なくとも現時点では相当でない。
(4) 離婚後共同親権を導入する立法事実が存在しないこと
 現在の離婚後単独親権の法制度においても、離婚後に子育てを協力でき る夫婦は存在するし、現にそれで困ることはない。離婚後共同親権の法制 度が必要とすれば、それは離婚後に子の養育に関与できないと考えている 別居親側の意見が強いと考えられるが、それは、子の重要な決定に関与で きない関係性を作ってしまった原因は当該家族の関係性の問題であって、 法制度の問題ではない。 諸外国で別居親の関与が多い権利の具体例として、居所指定や、医療同 意、進学の際の同意などがあげられるが、居所指定においては、子がどこに住むのが良いかということは日々子の養育を担当する監護親と共に暮らすべきであって、その決定は監護親自身の事情が最も優先されるべきであり、離婚後にまで元配偶者に通知や同意を必要とすることが、子の最善の利益に資するという場面を想定しえない。医療同意についても、子どもが事故や病気で手術が必要だとなった場合、その必要性は医師の判断が最も重要であって、別居親の意見を入れる方が子の最善の利益に資するという場面を同じく想定できない。さらに進学についても、子の進学で最も優先されるのは子自身の意思であって、親は子の相談を受け、アドバイスをすることはあっても「権利」として子の進路を決定するわけではない。 このような具体的な事案を一つ一つ検討すれば、深刻な弊害が指摘され る中で、あえて別居親の関わりを「親権」という強い権利に「昇格」させ ほどの必要性はなく、法改正を正当化するほどの立法事実は存在しない。
(5) 選択制であっても問題は解決しないこと共同親権に賛成する意見の一つ に、「【甲案】(特に後述する【甲②案】)は、単独親権か共同親権かを選択する提案で、選択肢を増やすのは家族の多様化に必要だ」とする意見がある。 しかし、前述したように、わが国はDV被害について極めて保護が薄い国で、モラハラ含む多くのDV離婚において、対等で真摯な同意は極めて 困難である。特に協議離婚においては、すでに支配従属関係にある夫婦が 対等に協議することは困難であり、加害者の意向のまま共同親権を選択す るリスクが高く、たとえ弁護士が当事者の真意を確認する制度を設けたと しても、わずかな時間で弁護士が当事者の関係を見抜くことは難しい。離 婚後共同親権で参考とされている諸外国は、協議離婚ではなく全件裁判離 婚であり、その段階で裁判官が親権行使の方法等についてきちんと関与し ているから成功している、という指摘もある(法制審家族第 14 回会議議事録 39 頁[水野紀子委員])。
(6) 比較考量論
 父母が共同親権を選択した場合であっても子の安全と情緒に弊害が生じ るような共同親権を選択するのが不適切な事案や、父母の一方が不本意に 共同親権を選択せざるを得ずDV虐待が継続してしまうような共同親権が 不適切な事案(以下併せて「不適切事案」という)が誤って共同親権に紛 れ込んでしまう弊害と、離婚後も父母の関係が良好で共同親権が子の利益 に合致する事案において共同親権を選択できない弊害を比較考量すると、 前者の弊害は看過しえない。 このように、離婚後共同親権を選択する制度を導入した場合に、離婚全体の約9割を占める協議離婚において、前記のような不適切事案を誤りな く除外することは期待できず、相当でない。

3 本意見書の立場
 当会は、2021 年 3 月 8 日付で「同性カップルが婚姻できるための民法改正 を求める意見書」を、2021 年 6 月 10 日付で「LGBT理解増進法案に関す る会長声明」を、2021 年 6 月 17 日付で「選択的夫婦別姓制度の導入を求め る会長声明」を発表しており、家族の在り方の多様性について比較的寛容な立場を示しているところ、本試案は、父母が離婚した場合(第2の1)だけでなく、父が子を認知した場合(第2の5)、すなわち婚外子についても父母双方がその親権者になることを選択可能とする規律を提案している。 現在、家族は、婚姻した夫婦とその子からなる家族だけでなく、事実婚・ 同性婚による家族、前婚において生まれた子を連れて再婚することで形成さ れる家族等、その在り方は多様化している(学説は、後者の家族を「再編家族」(大村敦志『新基本民法8 家族編』(有斐閣、2014 年)162 頁)と呼ぶ こともある。)。特に離婚がありふれたものとなった現代社会においては、夫婦としてはうまく行かなかったが、離婚後も父母として自覚と責任を持って子に関わろうとするケースもある。 このように家族の在り方が多様化した現在、【甲案】に賛成し、父母の離 婚等の場合に父母双方が親権者となることを選択する余地を認めることは、 当会のスタンスと決して矛盾するものではないとの意見もある。 もっとも、【甲案】に賛成しつつも、現行制度が高葛藤のケースやDVを 原因とするケースで当事者の真意や子どもの意見及び最善の利益を尊重した解決が実現できているかどうかを十分に吟味し、共同親権を選択する余地を認めるための手続や仕組み(DV被害者救済制度等の基盤整備を含む。)を検討することが急務であるとする意見もある。 他方で、離婚後も子の養育に関して協力できる父母の場合は「共同親権」を論じる必要はない一方で、DV等を理由に離婚する夫婦には支配従属の関係があるという事実認識のもと、離婚後に子の養育について対等な立場で共同決定をすることは不可能であり、子の利益になることもなく、そもそも現行法制を変えるだけの立法事実がないとして【乙案】に賛成する意見にも合理性がある。その前提には、わが国における離婚の大半は協議離婚という形で当事者の自発的な意思に委ねられ、DV被害等に対する対策・公的支援が極めて貧弱だという認識がある。この立場からは、当会の意見書や会長声明に表れている家族の在り方の多様性に比較的寛容な立場は個人の尊厳の尊重という文脈で一貫しており、他者を支配するDV事案を誤りなく除外し得な いことが危惧される場面において選択的共同親権を新設する根拠とはなりえないことになる。 以上のとおり、当会では【甲案】に賛成する意見と【乙案】に賛成する意見があり、一本化することは難しい。そして、【乙案】に賛成する意見もあ るところ、法制審議会における今後の議論の参考とするため、試案2以下については、仮に試案1で【甲案】に賛成した場合の検討結果を記載する。

親権って強い権利だったん?
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