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法制審議会家族法制部会ウォッチ13(杉山幹事と菅原委員)

国賠期日・院内集会が盛会の中、第2回議事録が公開されていたところ、まだ第1回目のウォッチを続ける

第2回議事録ウォッチ後、読もうよ会(ウェビナー)をやろうかなー

○杉山幹事

幹事の杉山です。これまで大きな視点からいろいろ御意見があったと思いますが,私自身の専門が民事手続法であるということと,加えまして,参考資料1-1にございます養育費不払い解消に向けた検討会議に関わらせていただきましたので,本日は,特に養育費の支払いの実現に向けた手続,特に裁判手続に向けて検討すべきと考えている課題について,少し細かな点になりますけれども,簡潔に述べさせていただきたいと思います。
 ただ,これから申し上げることは面会交流の実現にも共通する点があると思いますし,他方で,先ほど御指摘があったような,国からの給付,立替えとか,あるいは社会保障との関係については,本日はコメントを控えさせていただきたいと思います。先ほど小粥委員から御指摘がありましたけれども,手続を考えるに当たりまして,養育費請求権の民法上の位置付け法的根拠,額や期間などが必ずしも明らかでないという問題がこれまで指摘されてきておりまして,今回の会議ではっきりさせていくことが望ましいと思っています。他方で,権利主体を誰と構成するのであれ,出発点といたしましては,子どものための権利であり,公益性が高いということの認識は共通にすべきであろうと思っております。そのような視点に基づきまして,調停などを中心とした債務名義の作成過程とその実現,強制執行の手続における裁判所と行政機関を含めた公的機関による支援の充実化,公的機関の間の連携の促進へとつなげていくべきものと考えております。この辺り,水野委員も御指摘されたことであると認識をしております。子の利益に直結するものでございますので,より後見的な手続を作っていくことも検討に値すると思っております。具体的な課題を幾つか挙げさせていただきますと,まず,養育費の取決めや債務名義の作成場面におきましては,保全処分などの活用も必要ですけれども,その作成手続を迅速化するということが重要な課題であります。そのためには,手続のリモート化,ウェブ会議の活用なども考えられますし,さらには,実務上大きな問題として指摘されております債務者の住所や財産情報の入手,これが容易になるような手続の構築が必要であろうと考えております。現在でも調査嘱託などの制度もございますけれども,その活用も含めた裁判所と行政機関との連携が不可欠であろうと思っております。他方で,債務名義が自動的に作成できる議論というものもございますが,債務名義の作成に当たりましては,義務者の手続保障が非常に重要になってまいりますので,それをあまりに軽視した制度を構築することに対しては慎重であるべきと考えております。債務名義の実現や強制執行の手続に関しては,養育費の債権は担保のない少額の債権を定期的かつ長期にわたって回収しなければならないものでありまして,そのような特殊性を有するがために,民事執行法の改正もこれまで行われてきましたが,実際には強制執行手続は執行方法とか,債務者の財産の特定,裁判所の管轄の特定など,非常に専門性が高い手続でありますし,債務者の住所が分からない場合,執行財産の特定ができないとき,あるいは回収が困難であるときなどもあると,必ずしもこのような特殊性を有する債権者にとって使いやすい制度ではなかったように思います。原田委員から御指摘があったと思いますけれども,弁護士に依頼すると,弁護士費用がかなりかさみまして,養育費そのものが目減りするという問題もございます。そのため,権利者自身が自ら債務名義の取得のみならず実現まで一人でできるような仕組みを整えていく必要はあると思っております。
 簡易な申立てを可能として,その後,債務者の住所地や財産の特定等,裁判所が主導しながら行っていくような,ファストトラックを作っていくのが望ましいと思っています。
 ただ,翻って考えてみますと,幾ら手続を簡素化,迅速化したといたしましても,前に申し上げましたように無担保の一般債権であることから,債務者の財産が十分でない場合とか,ほかに競合する債権者がいるときには,救済としては不十分であるという限界はあると思います。つまり,実体法上,優先権がない以上は,回収にも限界が出てくるところでして,このようなものを付与するのが適当であるのかどうかも踏まえて検討していくことはあり得るのではないかと思っております。
 少し細かな点になりまして恐縮ですけれども,今課題と考えていることについて述べさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。養育費の支払いを確保するための手続的な工夫について御意見を頂きました。債権の性質,債権者が誰であれ,公益的なものを持つであろうという点は共通だという御指摘を頂きました。裁判所と公的機関の連携ということについては,複数の委員,幹事から御指摘を頂いたところとも重なるかと思います。手続に固有の問題としては,迅速化,簡素化が必要である,しかし,他方で手続保障が果たされる必要があるという御指摘も頂きました。現に存在する民事執行法上の特則について,少額の継続的,長期的な債権の取立てについての規定が必ずしも実効的ではないのではないかというような認識を示され,それに代替する,あるいはそれと並ぶ手段を考える必要があるのではないかという御指摘を頂いたかと思います。民事の実体法の問題も重要ですけれども,権利を実現するという場面では,手続法的な対応ということもとても重要になってまいりますので,手続法の先生方には今後も,是非御意見を賜れればと思っております。

○菅原委員

 私は,心理学なのですけれども,中でも発達心理学で,更にその発達心理学の中でも,比較的新しい領域で発達精神病理学という長ったらしい名前の学問領域におります。この領域は,発達心理学と,それから児童精神医学ですね,これがクロスしたところで,その子どもが心身ともに健康に育っていくには何が必要かという環境的な要因を洗い出していくというところが大きなミッションになっている領域です。この領域で,夫婦関係とか,またその葛藤とか破綻というのが子どもの長期的な,短期的な,中期的な発達,健康にどういうふうに影響するかというのは,意外に新しいテーマでございまして,1980年代にテーマに上がってきております。海外を中心に研究は進んでおりますけれども,2000年に入りまして,かなり海外は長期的な追跡研究というのがたくさんございますので,それがやはりDVと貧困とか,様々な問題とクロスして,非常に重症度の高い問題にまで発展した場合には,小児期逆境体験というすごい名前が付いているのですけれども,高齢期に至ってまで様々な心身の機能に悪影響を及ぼすということが今,大きなテーマになっております。世界中で多くの研究が進んでいるところです。
 こうした文脈の中で,この夫婦間葛藤の問題というのもたくさん研究が海外を中心に進んでいるのですけれども,一つ,今のところはっきり分かってきていることとしましては,子どもの心身の発達,それから子どもの心の安定というところで最も大きなものは,協力的な共同養育であるということで,親権とかそういうシステムというのも大きな問題なのですけれども,どのようなシステムであれ,どのようなペアであれ,その中で親が高葛藤を何とか解決する方向に向かっていて,そして,その中で協力的に共同で自分に関わってくれる,その質,クオリティがすごく重要で,何か回数とかそういうものは,いろいろな研究があるのですが,余りクリアには出てこなくて,やはり高葛藤を何とか,大変なことなのですけれども,様々なサポートを得ながら,高葛藤が沈静化していって,お父さんもお母さんもそれぞれそれなりに幸せに落ち着いていって,そういう中で初めて子どもの心の安定というのが得られるということがよく分かってきました。もう一つは,貧困の問題が子どもの心身の発達に,というのも,すごくたくさん子の発達精神病理学では検討されていて,貧困が大きなネガティブ要因であることも明らかになっています。
 ですので,こうした夫婦間葛藤の問題というのは,現実のケースの中では,ずるずると時間の流れの中で,条件が悪くてサポートがないと進行していきます。ですので,やはり貧困があり,それから,夫婦間の葛藤があり,それから,親がメンタルダウンして,そしてペアレンティングが劣化して虐待に至る,そのような中で,子どもはやはり離婚前,渦中,離婚後,またその影響を受けていくということが分かってきています。ですので,個々のケースを考えていただくときにも,事態の深刻さというところも一つ重要なことだろうと思います。
 二つ,今回の議論の中で取り上げていただきたいと思っていることがございます。一つは,先ほどどなたかおっしゃってくださいましたけれども,子どもといっても非常に年齢幅が広くて,本当に胎児から17歳11か月というか,さらにもう少し,いろいろな意味では,大学生みたいに親の養育に経済的に依存せざるを得ないところまで含めて,非常に年齢の問題は多様です。特に低年齢のところでは,誰が子どものベストインタレストを代弁してくれるのかというのは大きな問題になります。また,今ざっくり15歳というところに線引きがあったりしますが,実際に子どもはもっと低年齢から自分を客観化する能力も育っていますので,この年齢をカウントした上で,誰が子どもの利益というのを代弁してくれるのかという問題は非常に重要だと思っています。
 やはり,特に今お話しした深刻なケースは,調査というところがすごく重要になってきますので,そういうようなことが今の家裁のシステムの中だけで調査が十分できるのかというのも,私も家裁の様々なお仕事に関わらせていただいている中で,非常に大きな限界だと思っております。大きな社会的な資本が動くことが必要であろうと考えています。最後ですが,すみません,そうはいっても私たちが見聞できるのは,今,本当に10%の,家裁に関わったり裁判まで行ったケースであって,90%の協議離婚のケースが一体どうなっているのかというのは,やはり日本では本当にアンノウンになっています。ですので,諸外国の研究では,やはり,かなり離婚ということが厳しくて,いろいろなところに申請しないとできないようなところでは,調査も進んでいるのですけれども,この90%の協議離婚の実態,その中で子どもの生活や経済や心理がどうなっているかということの実態は,やはり把握する必要がすごくあるなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございました。最近の調査の結果などを御紹介いただきまして,協力的な共同養育ということの重要性,それから,貧困というものが果たしているネガティブな影響などに留意する必要があるということで,子どもの年齢の違いということについても十分に考慮に入れる必要があるだろうといった御指摘を頂きました。それから,協議離婚について,これも複数の委員,幹事から御指摘がありましたが,なかなか実態が分からないところがありますので,これについてどうするかというのが一つの問題になってくるだろうという御指摘だったかと思います。さらに,家裁の調査をどうするのかという問題提起もあったかと思います。
ほかには御発言,いかがでしょうか。

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