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【聞香会のアーカイブ】2022年4月27日・五味の会・甘

このnoteは、香雅堂で行われる聞香会で話された会話の内容を(個人情報に関わる内容を必要に応じて削除したうえで)純粋に記録したものです。企画概要は以下リンクよりご覧くださいませ。
この企画は、お手伝いの方たちの大変ありがたいご尽力によって成り立っております。この場をお借りしてあらためて御礼申し上げます、誠にありがとうございます。
麻布 香雅堂 代表 山田悠介


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会長 これから五味に触れていく訳ですが、五味というものの考え方に関しては諸説あります。絶対的なものがあるとすれば、流派の御家元・御宗家に継承される規範・基準を挙げることが出来ます。
六国五味という概念のより所としては、御家元・御宗家から教わる(師説を受ける)ことが最適です。
 
具体的に志野流の場合でしたら、御伝授の際に聞かせていただけるということになりますが、機会は一度限りなので、いつまでもそれを記憶に留めておくっていうことが香りの場合、特に難しいことなので…。
本当はいつもいつも迷う度に繰り返し反復して、ああそうかという風に確かめることが出来れば理想的ではあると思いますが、なかなかそういう訳にはまいりません。
 
ただ、いざという時に、例えば「甘い、甘(かん)という味っていうのはどういうものですか?」ということをもし弟子が尋ねることがあるとすれば、家元なり、宗家なりは答えることが出来なければならない。それの根拠となる手鑑、手本木というのをやっぱり持っておられる必要がある。それがないとなると流派としての体を成せないと、厳しく言えばなろうかと思います。
 
じゃあ、五味っていうのを古来どういう風に説明してこられたかっていう文献が、一応あります。私が存じ上げている文献っていうのが、もう亡くなられましたけれど早川甚三さんという方が名古屋におられて…これ後でもしよかったら、さっきの写真を中身撮っていただければと思いますが…この方が六国や五味っていうことに関して述べておられるところがあります。     
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それで、五味に関しては例えば、今日は甘い、甘(かん)がテーマですので甘の場合は、まずその一味立といわれる香木の香銘が挙げられていて、それは『浅間』、それから『先鉾』。後ほどこれらを炷き出しますが、『浅間』っていうのはどういう風に文献にしたためてあるかといいますと、まずその文献ですが 『蜂谷流品香集説』というものがあるらしく、私はその実物は読んだことはありませんが、そこに書いてある。
内容は、
 
「浅間は始めの出辛し、中程より終わりまで甘味出るなり」
「甘 浅間(伽) 始ノ出辛シ、中程ヨリ終マデ甘味出ル也」
 
これはその前にも記載されていますが、私も同感なんですけど、香木が一味立(いちみだち)っていうことはあり得ないんです。基本的に。一つしか味を持っていないと、そんなことは考えられないんですね。必ず複合して味を持っていて、それがどういうタイミングかちょっとそれはマチマチでしょうけれども、例えば温められる温度の変化…高い温度だとこういう味が出やすい。低いとこういう味が出やすいとか…ということがあるのかもしれませんが、必ずしも一定して出るわけではなく、複雑に絡み合った立ち方をします。
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ですから古五味の手本木、手鑑を炷いたからと言って、甘いなら甘いしか出てこないっていう訳ではありませんので、それはそれなりに聞き分けが大変になるということですね。         
 
『浅間』は、たぶん「あさま」と読むんだと思います。富士山よりちょっと落ちるみたいな。そういう意味で浅間っていうふうにつけられたと思います。
「始めの出辛し」だから、最初は、炷き始めは、辛く立つ。いつまで辛いのが続くのかちょっとそれはそこまでは書けないでしょうから。
6:00
<聞き取れず>
 
その後は中程より火末(ひずえ)まで甘みが出るというふうになっていますね。
で、もう一つのこれは「さきほこ」と読むと思いますが、
 『先鉾』これは始めの出が甘く、中程より苦く、また辛みも交じり、火末まで同じ。
「先鉾(伽) 始ノ出甘ク、中程ヨリ苦ク又辛味モ交リ火末マデ同ジ」
それが先鉾の説明ですね。
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始めの出が甘くっていうふうにあるので、先に甘いのが出るようにそちらの方を先に聞いた方がいいかなと思って、今日は『先鉾』を先に炷いて、その後、『浅間』を炷いてというふうに考えました。
 
それとあと、普通にお求めいただけるような香木の中で甘さっていうのが特徴的なものをいくつか選び出して炷いてみようと。こっちを先に炷いた方がいいのか、古五味を先に炷いた方がいいのか、ちょっと迷ったんですけれども、先に正解といわれる方を炷いてみようかと。それで後でなるべく時間が残るようにしてもう一度、火末をお回し出来たらいいかなというふうに考えてます。
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それで、今日炷き出す古五味ですが、どういうものかといいますと、元々は九条家にあったものらしいです。それを志野流の、なんていいますかね。サポーターというふうに言えばいいんでしょうか、家元の手助けをしたり、資金面のことをちょっと頑張ってあげたりみたいなことをされていた三重県の豪商で長谷川家という家がありまして、そこの当主、何代前かというと、志野流の多分十二代か十三代の頃の長谷川家の当主がお持ちだった香木。それを藤野専齋(ふじのせんさい)という人…これは志野流の十二代、十三代あたりの後見人ですね、それが「極状」を認(したた)めています。これ(極状のコピー)をお回しします。
 
『古五味(こごみ) 名香(めいこう)極状(きわめじょう)』…書いてある内容は、「これら古五味名香十種は米川常白様正銘相違なきものなり」
歴史的には、米川常白が最初に五味の手本木を選定したと言われているんです。
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これもややこしいから、後で写真を撮っていただくなりしていただければと思います。
 
私の手元にある古五味名香十種もそんなに沢山ある訳ではなく超貴重品ではありますけれど、こっそり持っていてもしょうがないので、こういう機会を設けて、皆さんと一緒に聞かせていただこうと考えて、もちろん社長の承諾も得て、今回の五味シリーズを考えました。
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(『先鉾』の実物を回覧)
会長 ちょっと見にくいですけど、ビニール袋にいれてあります。それをまあ、その状態で見ていただければと思います。
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会長 木を見ても古そうだなっていうのは伝わりますし、それから樹脂化の密度ですよね。かなり密度が濃いというか高いというか。だから、塊のどこを切ってもちゃんといい香りが立つというふうに思えますね。

大昔に挽いてますから、端の方がどうしても揮発しちゃっているんですよね。それは、樹脂分は水になじまないものですが、やっぱり揮発するんですよね。空気に触れて、抜けていく。
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なので一番端を挽いて割って炷くとなると、多少はやっぱり抜けてますね。何百年か経ってますからね。だから、揮発性が高い香木、特に伽羅なんかは小さくしておけばしておくほど保管が大変になります。
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会長 先ほど社長が説明させていただいたと思いますが、一応、後日の資料のために記録を残したいということで、気温とか湿度も記録しておこうと思います。
 
今24.5℃ですね。湿度が74%。今日はバッチリですね。
前回の時は20%位になったことがありましたが、さすがにあまりよく聞こえないですよね。
18:54
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会長 『先鉾』(注:香炉を回し始める)
 
25:51
会長 どうぞまた戻してください。順番に。
32:16
会長 ここにブルーのランプが灯ってない時は電源切れてますから、気づかれたらおっしゃってください。多分、さっき聞けてない。
連衆 ちょっと弱いなと思いました。
 (注:聞香会の参加者は稀少な香木を共に鑑賞し語り合う仲間ですから、「連衆=れんじゅ、れんじゅう=」と表記させて戴きます)
会長 いつぐらいからきれていたかちょっとわかんないんですが。
連衆 さっきより聞こえます。
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会長 始めの出が甘く中程より苦くまた辛みも交じり火末まで同じってありますが、どう思われました?苦みとか辛みとか感じられました?
 
連衆苦いはわからなかったです。
連衆 私もわからなかったです。苦みが。
 
会長 苦みってねえ…。辛みは確かに、むしろ炷き始めに出ましたね。だから、何番目かの方までは辛かったんじゃないですか、ね。途中から多分、甘くなってきたんでしょうけど、いつ頃からかっていうのはちょっとわかりませんが。『先鉾』と『浅間』と間違ってるんじゃないかっていうような、そんな感じでした。
次に『浅間』を回しますね。
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連衆すみません。この席1回しかお香が回ってこないので長めに聞かせていただいてもよろしいですか。申し訳ありません。
 
連衆 折り返し点になる最後の席は一度しか香炉が回わらないので、長めに聞かせていただきたいとのことです。
 
会長 はい、そうですか。往復分ということですね。はい(笑)
37:10
38:35
連衆 まわし方がジグザグでなく、横に回して2周した方が、最後の方が時間差で2回聞くことが出来るのではないですか?
 
41:27
会長 『浅間』です。
  
42:10
連衆 もしかして、横にぐるっと回すと時間差であちらの奥の方も聞くことが出来るのかなと思ったのですが。ジグザグでなく、ぐるっと回ると2周してこちらに戻るかと。
 
会長 はい。なるほど。
 
連衆 と、思ったのですが、今までのやり方が…。初めての参加なので。
 
会長 いつも適当なんです。
(コロナ対策で)席が空いている時もあるし。今日は割と詰まってますが。
 
連衆 そうすると横に回すと二回、時間差で奥の方が聞けるのかなあと。ちょっと思いました。
 
会長 はい。立ち始めと中程と火末とが、お一人の方が全部聞けるのが理想なんですが、なかなかそういう訳にはまいりませんので。まあ、今日はジグザグに回させていただいたので、そのペースでさせていただいて。
 
連衆 はい。すみません。
 
会長 いえいえ。難しいですよね。まあ、強いて言えばお座りいただく順番をご自分で考えていただくとか。そんなふうなことで。できるだけ後でもう一回火末は改めて回したいとは思いますが。
44:00
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連衆 香木は、中程が割と長く同じような香りを保つ感じなんでしょうか。それもまた色々?
 
会長 色々だと思います。
 
連衆 脂の?なんていうんでしょう。
 
会長 本当に千差万別ですよね。同じような香木、似たような立ち方をする、同じような木を探してくれとかって言われると本当に難しいですね。一見、例えば伽羅のタイプだったら、色んな伽羅のタイプがありますけれど、例えばなんとなく塊の外見が緑っぽく見えるようなやつ。そういうものから選べば同じような立ち方をするだろうと思いきや、全然そうじゃないんですね。
本当に不思議です。
 
連衆 伽羅といっても、成分がどうという分け方ではないんですか。
 
会長 えっとね。成分に関してはちゃんと分析が出来ていないので。はい。
あの、ちゃんとしたデータはないと言えると思います。ないと言っていい。だから、わからないです。こういうグラフが得られるけれど、この表している成分が何なのかとか、そういうのはきちっと分析できていないんです。
 
連衆 そうですか。
 
会長 チャレンジはされてますけど。ただ、これが何かっていうのを同定できる基礎となるデータがないんです。だから、いくらやってもわかんないんですよ。だから、いい加減な結論しか導き出されていないのが現状です。
47:29
連衆 難しいですね。     
 
長 難しいです。植物としてどう違うのかっていうのが、それもわかっていないんですね。例えば、ベトナムから出る、見つかる香木に伽羅と羅国ってありますが、伽羅と羅国はやっぱり全然違うんですよね。その、全然違う違いがどっから出るのかもはっきりわかっていないんです。推測しているだけで。
多分、ジンチョウゲ科のアキラリア属のその下の種っていうところが違うだろうと。
同じベトナムで産出してもジンチョウゲ科アキラリア属のナンチャラとナンチャラでは、こっちは伽羅になるけど、こっちは羅国になるとか。そういう違いであろうと。
 
まあ、私なんかが推測しているだけでちゃんとした証拠はないんですが。ただ、最近わかってきたんですけど、伽羅しかできない木があるっていうのがわかってきた。だからそれを栽培して今増やそうとしてばんばん増やしています。
 
だから、そういう試みは行われてはいるんですけど。それを私見守っているんですけど、今のところ出来上がった伽羅、人工栽培の伽羅—まあ本当に伽羅らしい感じなんですけど、複雑さが違うんですよ、今のとこ。比較的シンプルな立ち方をしてくるんですね。だから、実際の、今日お炷きしているような伽羅なんかに比べると味わいに欠ける部分がありますね。それが何に由来しているのかが、それはわかっていないんですけど。
49:42
今どうやって栽培しているかっていうと、ジンチョウゲ科アキラリア属の沈香の基になる植物っていうのは、いくらでも育てられるんです。いくらでも増やせる。
 
それにたまたま見つかっている伽羅の木「母なる木」っていうのがあるんですが、その枝を接ぎ木するんです。健全な沈香に接ぎ木をする。そしたらそこから出てくるのは伽羅が出てくるんです。そういう何か果樹園みたいななことをやって増やしています。接ぎ木する基の沈香の種類を変えれば、また違う伽羅ができるのかとか、そこら辺はわかっていないんです。
50:35
連衆 神秘なところがまたいいですね。
 
会長 なかなかね。本当に科学的に解明できていないところがまた不思議なところですね。
50:49
連衆 傷ついたところから、樹脂が変化して香りが立って、何年も経って香りが立ってくるってくるのかと思ったんですけど、その接ぎ木した伽羅がもう香るということですか。
 
会長 そうです。はい。香りを出します。だからその接ぎ木した部分の木の組織を例えば切ったりしたら、もうそこの中に樹脂が出来ているんです。
 
連衆 えー。樹脂が出来ている伽羅を接ぎ木するのではなくて。
 
会長 じゃなくて。はい。
私も具(つぶさ)にまだ現場を見学できていないんです。コロナで全く動けていないので自分の目では確かめていないんですけれど、写真だけはもらっています。
51:56
本当に普通の沈香とは違う、何ていうか流動性の高いっていうか、滴り落ちるような樹脂が出てくるんですよ。
 
連衆 滴り落ちるような。凄い!
52:58
会長 これわかりやすいですかね。(携帯の写真)これ回してあげて下さい。
 
連衆漆みたいな感じなんですかね。
 
会長 そうそう漆みたいな感じで。樹液が出てくるっていう、そんな感じです。
 
連衆 あれがあのままでも香るのでしょうけれど、香木にするにはあれがもう少し固まるというか。。。
 
会長 あの中は細胞組織に樹脂が詰まったような状態になっている。切れば。
 
連衆 ではそのまま使えるという。
54:02
54:29
連衆 人口の伽羅というのは何年ぐらい前から作られたのですか?
 
会長 5,6年前です。
 
連衆 5,6年前⁈
 
会長 はい。これ、中の状態ですね。(携帯の写真を拝見させていただく。)
 
連衆 わあ。凄い。
 
会長 まだ太いのは取れてないけど。
54:54
うん。『浅間』。結構こってり甘いですね。
 
連衆 人工ですか。
 
連衆 いわゆる養殖。
 
会長 はい。人工栽培。
 
連衆 甘さがありますよね。
 
連衆 年代物っていうか。
 
連衆 市場にも出ているんですか?
 
会長 私は関与していないんですけど、産地からは出てきているみたいですね。作ってる人たちは、かなり資金をかけてこれまで育ててきていますから、まあ資金を回収したいですよね。だから出来てきたものを販売することによって、それで売り上げを上げて、投下した資金を少しでも回収して、また次の事やるっていう。だから売りたがっているんです。私はまだそこには関わっていないですけどね。
 
連衆 人工栽培だからと言ってまだ価格的にはお高いところもあるのでしょうか。
 
会長 安いですよ。
 
連衆 そうですか。
 
会長 線香の材料とかそういった風な使い方っていうのを前提として考えるとですけど。
それは今やってみようかと思っているんですけど。人工栽培した伽羅を粉末に加工したっていうものは作られているんですけど、その単価は私がこの間サンプルでちょっと作ってみようって思って送らしたものは、安いものは1㎏8万円。
 
連衆 伽羅で(笑)
 
会長 ほんまかいなって値段ですよね。ほんまに伽羅?だけど、それ加熱するとちゃんと伽羅の香りが出るんですが。
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もしかしたら、オイル分、伽羅のオイルっていうのを搾り取ったっていうか、抽出した後かもしれないんですね。蒸留して油取れますから。それアラブに売ったりしますから。その後のやつだったのかもしれないんですが。とにかくキロ8万円ですからね。グラムにしたら80円ですから。
 
連衆 (どよめく)
 
会長 もちろんもっと高い粉もあるんですよ。だから色んな粉でどういう線香が作れるか試してみようと思ってはいますが。やっぱりでもね、グラム80円の伽羅ではいい線香できないですよね。きっとね。だからもうちょっと高いのを使おうと思ってますけど。
58:48
連衆アラブの油はやはり香りとして。アロマオイル?
 
会長 蒸留して取る油は、西洋の香水みたいな感じです。
他にも、高級な上等な希少なバラとかありますよね。ローズのオイルとか。ああいうものとか、伽羅の油とか、伽羅の塊とか、麝香とか龍涎香とかを練り合わせてお香作ったりとか。
向こうの人たちにはそういう文化もあります。丸ごと炭に放り込んで焚いたりもしますが。
 
連衆 練香みたいに?
 
会長 はい。前、カタールの人からもらったことがあって、現物よかったら見せます。今日はちょっと時間がないからまたの機会に。王様のお香っていうのがあるんですよ。カタールの王子様の。日本に来た時にアテンドする秘書が日本にいて、その人からもらったんですけど。
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香木鑑定してあげたお礼に。
実際彼らはバンバン焚いて燃やすんですが、昔は本当の香木を焚いていたらしいんですけど、どんどんそういうのがなくなってきたから、いろんな所からそういうの探して入手しようとして。
 
最近は偽物が増えてきてるから心配で「これどうですか。」って秘書官が持ってきて見てくれって言われて見たら偽物。偽物っていうかサウジアラビアなんかでは普通なんですけど、化学合成オイルに漬け込んだもので。それで、それしかなくてそれでよければ使えばっていう話ですが。実際、サウジアラビアで売ってるお香はみんなそういうもの。
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会長 これで古五味の二種を今炷き出しましたが、皆さんご感想はそれぞれかと思いますけど、大昔の香木っていうのは独特なそれらしい立ち方をしますよね。いかにも。立ち始めはちょっと遅いですね。細かく切り口から使っていく訳ですが、切り口というと、さっき申し上げたように、もうある程度揮発していますから、だからそういう状態のものを銀葉に載せても、いきなりは立たないんですよね。じわじわと立ってくる。そういうこと。
 
それからあと、保管している時にやっぱり外からの匂いを多少なりとも吸収しています。だから、いわゆる蔵匂いのようなもの、それが、銀葉に載せた瞬間にはまずそれが立ちますね。立ち始め。
1:02:05 
だから本質的な、あ、これがこの木の本当のとこだなっていうのがわかってくるのは、ある程度回ってからになりますね。時間が経過してから。後で、といっても時間が足らなくなるかもしれない。
 
とりあえず、急いで…。
次、現代の伽羅ですね。木所によって味が変わるっていうか。五味と言っても全ての木所に共通してはいないっていうふうにまあ、考えられるので。
昔の古五味はこんな立ち方をしたけど、例えば、真南蛮の甘さっていうのはどんなんだろとか、羅国の甘さっていうのはどんなんだろっていうのを、ちょっと今、皆さんにお聞かせしようと。
 
最初に伽羅を炷いていきます。現代の伽羅ですね。現代と言ってもまあ日本に入ってきてから多分100年は経っていないだろうという。そういう時代の伽羅です。
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袱紗でつまんで持っていただいても大丈夫です。反対側とか見たければ。これはね、緑油の伽羅ですね。タイプとしては。塊の外見がどことなく、どことなく緑っぽく見える。
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連衆 わかんないです。離れてみてもわかんない。。。
 
 
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会長 東雲です。東雲ってまあこちらで適当につけた仮の銘なんですが、歴史的な名香で多分、東雲なんて言うのは、あるとは思うんですけど、全然調べていなくて。重複していると思います。
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連衆断面の染み出た感じは、染み出してきているんですか。
 
会長 そうなんです。
 
連衆 切り出してからどのくらい。
 
会長 この断面に関しては多分、数年、十年までですね。
 
連衆そんな位。じわじわと出てきてしまうものなんですか。
 
会長 これは本当にね。伽羅っていうのは不思議なもので、百年経っていても二百年経っていても上等な伽羅だったら挽いたら、やっぱりそういうふうになります。その古五味香だって、まあ何百年って経ってるか知りませんけど、古五味香だって上等の伽羅だと挽けば染み出してくるように見えますね。だから伽羅を保管するのに紙とかで包んじゃったらダメなんです。吸っちゃいますから、紙が。
 
連衆 吸ってもっと出てきてしまう。
会長 はい。なので、昔の人は竹の皮を使ったり、竹皮紙(ちくひし)っていうのを発明したりして樹脂が持っていかれないように注意して保管している。
 
連衆 竹の皮の香りはつかないんですか。
 
会長 竹の皮は大丈夫です。
 
連衆 先生、現代だったらどうやって保管したらよろしいんですか。竹の皮が手に入りません。
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会長 すぐ裏におにぎり屋さん、お弁当屋さんがあるんですけど、ぎん香さんっていう、そこで500円のおにぎり買うと竹の皮に包んであるんです。それをよく洗って乾かして。それを切って。ただ、竹の皮って乾燥してしまうとバキバキになるので、香包みになんかなるようには折れないんです。だからもうサンドイッチ。挟むだけ。挟んで紙と触れないようにして保管すれば大丈夫です。
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普通の沈香とかだとそんな必要はないです。そんなに樹脂が染み出したりすることはまずありませんから。私が知ってる例外で1つ、2つ位しかそんな例はないです。
 
連衆 東雲はさっき古五味の時に最初に甘いっていう感じだとこれはどんな感じ?自分で感じろですか。
 
会長 最初からやっぱり甘さは出しますよね。おそらく中程からおしまいの方の火末の方に行くほど、多分、安定して甘さを出すと思いますが。
 
連衆 とらやさんの羊羹でお雛様の季節ものを買った時に竹の皮で包んであって、それだと香木を包みやすいかもしれません。羊羹型になっているんです。それを上手くたためばもしかして香木にと思いました。
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会長 いけるかもしれませんね。はい。
 
連衆 洗わずそのまま使えます。
 
会長 あの、竹皮紙っていうのは若竹の薄皮を紙で裏打ちしているんですよ。で、若竹の薄皮の方がそりゃあバキバキになる部分よりもしなやかな可能性があるので、そういうふうな部分を使うことに越したことはない。で、とらやさんがどうしてるか存じ上げませんが。
 
連衆 わかりました。若竹ですね。
 
会長 若竹です。日本で竹皮紙を作っている所が多分、一か所くらいしかなくて。買うとえらい高いんですよ。
 
連衆 竹の子は竹の種類も真竹とか。
 
会長 多分でしょうけれど、多分、真竹でしょうね。
連衆 真竹自体も少ないような。。。
 
会長 まあ、真竹なのか孟宗竹なのかよくわかりませんけど。まあ、手近で手に入るとすれば。。。
 
連衆 こちらで買った聞香セットとかビニールのパウチに入っているじゃないですか。それを竹の皮とかに包んでそのビニールに入れておいた方がいいんですか。
 
会長 出来れば。最初に触れる相手が全然その樹脂分を吸い込まないようなものであるほうがいいのと、ビニールは私結構これ使いますが、何年もこの調子で保管していると危ないですね。変質しますから、ビニールが。
 
連衆 短期間だったらいいけど、長期間だったらその間に竹の皮に入れておいた方がいいってことですね。
1:11:27
会長 はい。こういうの(ビニール袋)に入れて時々2、3年に一回開けたり風通したりとかって状態だったら別に大丈夫と言えば大丈夫なんですが、何年も何年もこれで入れっぱなしにしておくと、べとべとになってくるんですね。
 
連衆 知らなかったです。
 
会長 「仮銘 東雲」も最近と言えば最近の、ね、百年よりこっちくらいの感じの木ですが、それでも十分いい感じで立ってくれますね。
1:12:07
1:12:44
会長 次に羅国をお回しします。「夕づくよ」という羅国です。
1:13:35
会長 それもだんだん小さくなってしまって。元々大きな塊ではなかったんですけど。どんどん、どんどん、いい木はすぐになくなってしまう。
 
連衆 これ結構ピカピカして見えるんですけど。硬いという訳ではないんですか。
 
会長 これは、てかてかするのは、やっぱり長いこと置いとく間に触れたりなんかして、まあ、こすれて光っちゃうんですね。元々太い木の中の一部にああいう変化が起きている。だから、あそこにたどり着くまでに、相当外を掃除している訳です。で、最終的にはノミの跡がついていると思いますけど、いいところに当たるまで掃除して、樹脂がつかなかったところは廃棄している訳ですよね。そういう状態から何年か何十年か保管しているうちに触れるとやっぱり、中に樹脂がありますから、どうしてもテカテカしてくるんですね。
1:14:50
1:19:17
会長 「仮銘 夕づくよ」です。
1:22:12
連衆 この銘と仮銘の違いは。
 
会長 仮銘というのは、香雅堂の商品として扱っている香木をお分けする時に、リピートしてもらう時に名前でも付けておかないとわかんなくなっちゃうんです。例えば、AとかBとかって言っても香木がたくさんあり過ぎて…多分、千種類超える位ありますから、数字とかで識別しようと思っても大変なので。仮で名前つけておけばお互いわかりやすいしとういことです。それでつけ始めたんです。
 
それで、ちゃんとした銘と紛らわしいので、必ず「仮銘」ってつけるようにしています。それとあと、さっき申し上げたように、いちいち既にちゃんとした銘でつけられているかどうかを調べるとキリがないので、調べずに勝手に。この香木に相応しいと思えるような和歌を探して、そこから、もうぱっとつけるようにさせていただいてます。
 
連衆 ぱっと!と言っても大変ですよね。
 
会長 結構大変です。面白いですけど。
いくつもいくつも付けていると、以前に選んだ歌からつけた仮銘っていうのと、同じ歌から別の仮銘を取ったりとかすることもありますし、もうなんならその、全く同じ仮銘を何年か前に同じようなやつをまたつけちゃったりとかしてる事もあります。みんなお客さんが指摘してくださったりするんですけど。「あれ、前使ってましたよ。」とか言われて「失礼しました!」なんて。
 
連衆 素敵ですね。
1:24:50
会長 お回ししている羅国は、それはもう、明らかに伽羅じゃない。伽羅じゃない、羅国。世の中にどうしても、そういう伽羅じゃない沈香の羅国っていうのが昔から少なかったと思われますし、今はもっと 少ないので。だから、一般的には今手に入る羅国っていうと伽羅の事が多いんですね。
 
「伽羅系の羅国」とか言われるものは、みんな伽羅です。だから、伽羅を聞いても、それを羅国として使う分には紛らわしくなければ、別に構わないかとは思いますが、今お回ししているように、沈香が出す甘さっていうのは伽羅が出す甘さとは違うんですよ。基本的に。植物が違いますからね。
 
ですから、そういう点では伽羅をまあ、いくら出せる味が少ないし、そんなあまり大したことない伽羅だからって言っても、羅国として使うと問題はあるかなと思います。わかんないですもんね、そんな。立ち始めから火末まで伽羅は伽羅ですから。途中で沈香みたいな立ち方をする訳じゃないので。
同じようなことで、真那賀も伽羅と紛らわしい。
1:26:30
これは「雲ゐの花」という仮銘をつけたものです。これも結構古い木ですよね。真ん中の方はもう朽ち果てているんです。穴あいてます。
やっぱり1時間半じゃ無理でしたね。すみません。
1:27:04
1:28:33
会長 それ真ん中の方が朽ち果てて、どんどんなくなっていく感じですけど。その少し内側の白っぽい部分は、外側の黒っぽい部分を薄めたみたいな感じの立ち方なんです。ちゃんと真那賀の立ち方をしてくれるんですね。
 
で、逆にその黒っぽい所だと、いろんな味が出てくるんですけど、白っちゃけた所は本当に真那賀の本性みたいなものだけ、すうっと立ってくるような感じなんで。場合によっては、より真那賀らしさを味わえるってことも言えるかと思いますね。
1:29:25
1:32:25
会長 「雲ゐの花」です。
1:35:19
会長 すみません。ちょっと時間が過ぎてしまっていますが。一応、最後までお話しようと思います。真那蛮ですね。「花のあたり」これも古い木で、もう中身が殆ど朽ち果てていますが。
 
今お回ししている「雲ゐの花」も、「花のあたり」も産地が同じでタイです。真那賀も真南蛮も同じタイから産出するので、なかなか見極めるというか区別が難しいんですけれど…。 私の実感だとタイで見つかる沈香の8割方くらいは真那蛮ですね。真那賀は非常に少ないです。
1:36:45
元々産地が同じで多分植物も似ていると思いますから、真那蛮と真那賀の区別っていうのが、なかなか難しいっていえば難しいと思いますね。その、真那賀っていうのが、何ていうか独特の癖があるっていうのを昔の人もおっしゃっているようですけれども。その癖っていうのがやはり、今の「雲ゐの花」にも多少感じられると思います。
1:37:50
1:40:10
会長 やっぱり湿度が少しずつ下がってきて今69%ですが、室温は25.6℃。下がってきたとはいえ、69%あると乾燥している時より火加減が弱めでも立ちますね。
1:40:37
1:41:20
会長 「花のあたり」です。真那蛮もいろんなタイプがありますが、これは割と比較的やわらかく甘さが出るタイプですね。珍しい。あ、珍しくないかもしれない。
1:41:40
1:42:55
会長 一応最後まで。
「桜色」という。これはインドネシアの沈香です。沈香の佐曽羅。
御家流の方には馴染みがない産地の香木ですね。ただ、今お回ししている 真那蛮もやっぱりちゃんとしたものが、どんどん少なくなってきていますから。販売されている真那蛮が、もう多分、数年、10年位前からタイ産の沈香じゃなくてインドネシアの沈香が売られるようになってます。そういう点ではこの「桜色」、この沈香の佐曽羅も御家流の方は真那蛮と聞かれる可能性があります。
1:44:05

1:47:13
会長 桜色です。
1:48:54
会長 インドネシアの沈香っていいますと、割とドライな感じっていうのが一般的には特徴です。この「桜色」って仮銘をつけたくなったのは、ちょっと普通のインドネシアの沈香とちょっとタイプが違うんですね。インドネシアの沈香らしい甘さっていうのをちゃんと出してくるような木で非常に面白いと言いますか。そんな印象を私は持ちました。
1:49:43
1:51:29
会長 時間がとんでもなく過ぎてしまってて申し訳ないんですが。いろんな産地の香木の甘さっていうのを今日は炷きだしてみましたが、最後に伽羅の古五味の『浅間』の火末をもう一度回させていただきます。こってり伽羅の甘さっていうのが出てくると思います。
 
連衆『浅間』の方がはっきりと甘さが『先鉾』よりもあったような気がしました。
 
会長 ありましたね。私もそう感じました。先鉾っていうのが、文献に書いてあるような立ち方に思えなかったこともありますし、最後にお回しするとしたら、この『浅間』の方がいいかなと思って。
1:52:40
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連衆 木によって香りの変化の速さは違いますか。
 
会長 違うと思います。それは本当に千差万別だと思います。
 
連衆 こちらの席だと割とすぐに二回目が回ってくるんですけど、香りがすぐに変わるものと、あまり変わらずに回ってくるものがあってスピードが違うんだなと。
 
会長 はい。それはあると思いますね。本当にそういう点で不思議さを感じますし、一つには加熱する温度の変化によってもそれ変わってくるんですよね。
で、普通の聞香方式で聞香炉に灰を入れて、炭団を埋めてっていう、そういう普通のやり方で聞きますと、その影響を非常に受けるんですね。いろんな要素が、複雑な要素が増えてくる。
まず、灰の準備の仕方から、それから炭団の燃える速さとかですね。それはもちろん湿気とか気温の影響も受けますから。だから、非常に複雑な要素がさらに複雑になってしまうので、私がここで聞香会をやる時は、準備が大変で火加減を合わすのが難しいっていうこともありますけれど、まあ今のような条件を少しでもシンプルにできるように、この電気香炉を使わせていただいています。それでもやっぱり香木の個性っていうのはありますよね。
 
連衆 ありがとうございます。
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会長 まだ香炉が回っているところではございますが、もう予定を30分以上オーバーして。やっぱり1時間半っていうのは無理がありますかね。次回からまた2時間に戻させていただくか、またそれは検討させていただいて。
 
スタート時間が11時っていうのはこれまで何回かさせていただいた中で、大体午後の部から埋まっていくんで、皆さん遅い目の時間の方がお出になりやすいかなと思って1時間ずらして遅らせていただいて設定してみたんですね。だから、それは多分その方がよろしいのかと思うので11時からということで。だけど、時間が1時間半に短縮するんじゃなくて、一応2時間といった方がいいかなというふうに今日感じました。
 
まだ途中ですけど、これで今日は終了させていただいて。どうもありがとうございます。こんな調子であとの味に関してもやっていけたらとは思ってます。今ここにさっきの早川甚三さんの本とあちらの香木と古五味の極状のコピーとを置いときますから、よかったら写真撮っていただいて。
 
連衆 先生すみません。早川甚三さんの本のタイトルを教えていただけないでしょうか。
 
会長 これね「香道」。もう絶版になって久しいので書店にどっかあればと思いますが。私、甚三さん大好きで、会いに行ってこれ頂いてきたんですけど。 なんかすごい明治の方ですよね。古い方で。
書いている文章も本当に古い感じですけど。とても香道っていうものに、あるいは香っていうものに対するこの人の考え方っていうか、感じ方っていうのがとっても素敵なんで、この人を私は尊敬しています。  終2:01:35


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