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五等分の花嫁のアニメ化の個人的総括

2022年5月20日。映画「五等分の花嫁」が公開され、原作漫画のアニメ化は無事ゴールを迎えた。

(この事は終盤でももう1度触れるが)まず最初に言いたい事。

それは、完結編であるラストを「映画」という形でしめくくったアニメ制作スタッフの英断に拍手を送りたいという事である。

正直、作画はもう少し頑張ってほしいと感じる部分はあったものの、シナリオ・構成ともに素晴らしい出来だった。

2時間を超える長尺であるにも関わらず、座っていて退屈に感じる事も無かったし、まさか五等分の花嫁で涙を浮かべると予想もしていなかったので、良い意味で裏切られた素晴らしい仕上がりだった。

この事を最初に書かせて頂いた上で、本題に入っていきたい。

原作とアニメ化の振り返り

原作とアニメ化について振り返ってみる。

漫画五等分の花嫁が少年マガジンに連載されていた期間は

・2017年8月9日 - 2020年2月19日

となっている。

一方でアニメ化された時期は、

・1期:2019年1月11日 - 3月29日(1話~32話)
・2期:2021年1月8日 - 3月26日(33話~86話)
・映画:2022年5月20日(87話~122話)

となっている。

1期では原作32話分をアニメ化しており、1話あたり2.7話のボリュームで物語がすすんでいった。言い換えれば(作画崩壊が酷く、終盤作画に定評のあるシャフトからスタッフが入って立て直しが行われた等あったが)とても丁寧なアニメ化だったと思う。

続く2期では原作53話分をアニメ化しており、1話あたり4.4話というハイペースでの放送となった。そんな2期はアニメ監督を日常系で定評のある”かおり氏”が務め、良い意味でバサバサと余分な脂肪を落としたアニメ化は総じて良い評判だったと思う。

そして映画。136分をアニメ6話と換算すると、1話あたりに5.8話という超ハイペースでの映像化だった事になる。このハイペース方針は後ほど記載するが、とても良い英断となっている。

幻の0話

完全な余談である。

五等分の花嫁には第0話というものが存在する事を知っている人も多いと思う。この作品は読み切りとしてマガジンに掲載された作品であり、五等分の花嫁の第1話の元となった作品である。

0話での一花、二乃、四葉は1話と殆どかわらない容姿をしているが、三玖はヘッドフォンはしておらず、左右のおさげ姿で少し虚ろげ目をしたキャラだだったし、五月は腰までの超ロングヘアだった。

この事から考察するに、連載を開始するにあたって三玖そして五月は、設定の練り直しが入ったものと思われる。

原作評価

本題に入る前に、情報のインプットを続けたい。

以下は自分が考える五等分の花嫁のターニングポイントと、アニメ化の対比である。

1期
・結びの伝説編

2期
・勤労感謝編
・七つのサヨナラ編
・最後の試験編
・スクランブルエッグ編
・シスターズウォー編

映画
・分枝編
・学園祭編

このターニングポイントで良いか?は賛否両論あろうとは思うが、原作のシスターズウォー編以降、つまり2期のラストの部分以降、一部の原作ファンの間では「原作漫画がつまらなくなった」との声がかなり上がっていたという事実があった。

※楽しんでいたという方もおられると思うので、その点については申し訳ありませんと書かせてください。ただ上のような声が大きくあった事も事実なのです。

今になって原作論評を展開する事は本意ではないので深堀はしないが、仮説としてもし87話から122話をテレビアニメ3期として放送した場合、1話あたり2.9話換算の分量になり、1期レベルの丁寧なアニメ化をしなければならないという現実が見えてくる。

言い換えれば、原作でネガティブな声が大きくなっていた学園祭編を丁寧にアニメ化しなければならず、絶賛の声が出る一方で、必ずネガティブな声が出てしまったであろう事が容易に想像できるという事実もあった。

アニメ化は何を生み出したのか

まず最初にマイナスと感じた点からとなるが、どこぞのいち個人である当方が、偉そうに大上段から書かせてもらうと以下となる。

1つ目。1期のアニメハウスの選定ミスである。五等分の花嫁のポイントに「かわいい姉妹」という点がある。つまりは作画については絶対に失敗できない状態があったにもかかわらず、1期の作画は残念と言わざるを得ないレベルであった。それでも1期が乗り切れたのは、この当時はまだ原作漫画が終わっておらず原作の牽引力があった事、更に2019年はコロナ影響もなく、女性声優陣の露出も多く、その人気が大きくプラスに働いていたという事があると思う。そういう意味ではラッキー要素が相当重なっていた。

2つ目。配給会社をポニーキャニオンにしたという事。具体例を上げると、1期のステージイベント。大人気声優であるにもかかわらず1000席程度の超小さなキャパでイベント開催を決定し、申込みに必要なシリアル目的で円盤を多数買わせ散々積ませた後、結局ライブビューイングが発表され、更に集金された事は鮮明に覚えている。それ以外にも、今回映画化の目玉特典である14.5巻は、ファンであれば喉から手が出る程ほしい作品であったが、たったの3日で配布を打ち切ったと思えば、6月に入って再配布を決定した。つまりは、この特典がほしければ再度来場せよ、である。

ポニーキャニオンは総じて拝金主義のビジネススタイルのため、個人にとってはポジティブな感情を抱けない事も多い。

そんなマイナス面もあるアニメ化ではあったが、もちろん良い面も多数あった。というか、もっと言えば良い面の方がずっと大きかった。

1つ目。1期の作画を酷評しておいて掌返しかもしれないが、伊藤美来さんという素晴らしい声優の才能を開花させたという点は特筆すべきポイントである。伊藤美来さんといえば、2014年に「普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。」で水瀬いのりさんと共演を果たしているが、その後は大きな役柄は取れず能力が活かしきれていない状況が続いていた。

そんな中掴んだ中野三玖役で、大先輩である花澤香菜さん、竹達彩奈さん、佐倉綾音さん、水瀬いのりさんと同じブースでアフレコをした学びから(コロナ前は良かったですね・・・)、1期終了後に一気に声優としての能力を開花させ、2020年のプリンセスコネクト!Re:Dive、安達としまむらを皮切りに、2021年以後も大躍進を続けている。もはや伊藤美来さんは立派なトップ声優の一人であろう。

2つ目。2期以降アニメのペースをハイペース化をした事だ。もし1期と同じペースでアニメ化をしていれば、2期でアニメ化した部分は2クールが必要で、2022年にやっと後編、最後の分枝編と学園祭編をやると更に1クールが必要で、どんなに急いでも2023年までかかったはずである。

確かに五等分の花嫁は強いコンテンツではあるものの、はたして2023年までひっぱった時でも、今のような話題性があったか?はかなり疑問が残る。

例として、Re:ゼロという作品をあげてみる。この作品は2期冒頭で事実上のヒロインであるレムがゴニョゴニョしたという事はあったにせよ、視聴していた人の間でも、ほぼ空気状態だった事は記憶に新しい。

1期は大盛り上がりの作品だったが、何故ここまで空気作品になってしまったのか。

それはRe:ゼロという作品の訴求力を過大評価したためと考えている。

1期は2016年、そして2期は2020年と大きく間があいたが、途中にOVAアニメはあったものの、原作はどんどん書き進められ、原作組の関心はアニメと大きく乖離をしてしまったし、事実上のヒロインであるレムの行く末についても、ネット上で情報が行き渡ってしまった。

結果、アニメ化という意味でのRe:ゼロという作品の旬は、完全に失われてしまった。

そんな今、アニメRe:ゼロ3期を望む声がどの位あるだろうか。残念ながら殆どそういった声は耳に入ってこない。

さて五等分の花嫁に目を向けると、2期の時点では既に原作は完結をしている作品であり、当然花嫁も確定していたという事実がある。

そして2期のアニメ化の時点では、タイミング的にも読者の記憶から五等分の花嫁の関心は薄れ初めていたし、声優を絡めたプロモーションでつなぎ続ける事にも限界があったように思う。

つまり、2期以降のアニメ化に求められていた事は、作品の旬を失わないようにハイペースでポンポンと物語を書きすすめ、視聴者の記憶から作品が消えない状態を作り続ける事だった。

一方、この漫画は考察要素や人間関係の難しい感情の揺れが多くある作品だけに、間違った箇所をカットすると酷評されてしまうリスクもあった。

そんな難しいチャレンジをアニメスタッフはしっかりやりとげてくれたし、その仕事っぷりは本当に素晴らしい内容だった。

※偉そうに書いてしまいましたが、素晴らしい丁寧な仕事には本当に感謝しかございません。

3つ目。冒頭に述べた通り、最後をアニメ映画でしめくくったという事である。つまりたったの1日で最後まで見る事ができるという形で、さっくりとまとめた事がとても素晴らしかった。

ここは繰り返しの記載となるが、今回映像化された学園祭編は原作時代に賛否両論があった内容だけに、丁寧に時間をかけてTVアニメ化をしていれば、必ずネガティブな意見が出る事は目に見えていた。

結果、つまらぬ論争が巻き起こったり、人気声優の評判に多少なりとも影響を与える危惧もあったと思う。

だからこそ、たかだか6話分の尺に原作35話分を詰め込むというチャレンジによって、映画はどうなってしまうのだろう?というドキドキ感があったのだが、実際に映画をみてそんな不安はいっきに吹き飛んだ。

その理由は「恋愛模様」の色合いを薄め、「家族愛」を中心にアニメ化されていた為だ。

これにはやられたし、正直驚いた。

つまりラブコメでありながら、ラブコメよりも家族愛の色合いを強めてアニメ化していたのである。

この大英断によって「誰が勝った負けた争い」の関心は見事に薄れ、姉妹愛、風太郎との絆、そういった物だけが印象に残る内容に仕上がっていた。

そんな風に描かれていたアニメだったからこそ、「どうせこの先読み切りがあっても、四葉と風太郎のラブラブ生活でしょ?」という感覚にはならず、「大人五つ子たちの未来が(読み切りかもしれないが)もう1度、2度、3度、読めるかも」という期待感すら生み出していた。

つまり、アニメ化を展開するタイミング、内容、手法、スピード感全てが綿密に計算されていて、その結果、五等分の花嫁という作品が「いつまでも良いイメージとして胸に残る作品」に仕上がっていた。

大好きな作品が、大好きなまま、きれいな印象で残る。

これ以上ファンにとって嬉しい事は無いわけで、スタッフの皆様には改めて感謝感謝なのである。

そんな素敵な映画の内容は、是非、劇場で自分の目で確かめてほしい。

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