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持続可能な豊かさを生みだす5つの仕掛け——共創プロジェクト「豊かな町のはじめかた」(2)

こんにちは、KOEL 田中友美子です。

前回、長崎県雲仙市小浜町と秋田県南秋田郡五城目町で実施したフィールドワークでは、理想の暮らしを実践されている方々のお話を伺い、「地域」に「豊かさ」に変化が生まれた時のキッカケを見つけ、それが豊かな町をはじめる「仕掛け」になるのではないか、というところまでをお話しました。

私たちが見つけた、5つの「仕掛け」

インタビューで聞いたお話や、フィールドでみたものから、私たちが見つけた豊かさを生み出す「仕掛け」は、5つあります。

仕掛け1: 会話が生まれる場所をつくる
仕掛け2: “企み”の場所をつくる
仕掛け3: 地域のみんなが使える共有物をつくる
仕掛け4: 歴史から引き継ぐものをつくる
仕掛け5: 都会人の憧れをつくる

仕掛け1. 会話が生まれる場所をつくる

人口減少が進む地域では、人手が足りず、社会生活に必要なサービスが行き届かないことも多く、その不具合を解消するのが「地域の人との繋がり」と、「スキルの交換」です。誰が、どんな得意技を持っているのか。より多くの人と、より頻繁に会話ができると、困った時に支え合える仲間や、新しいことを始める時の味方を見つけることができ、それが、豊かさに繋がります。

「会話の生まれる場所」の特性
・「誰が居て、何をしているのか」が外からよく見える
・誰でも出入りしてよく、出入りしやすい
・日常生活に溶け込み、近くに行くことが多い場所にある

小浜町:景色喫茶室 小浜の中心にあるお洒落なカフェ。全面ガラス張りで、遠くからでも店内の様子がよくわかる。そのため「近くまで来たから立ち寄った」「中に人がいたから話しかけた」などのコミュニケーションが生まれやすい。

仕掛け2. ”企み”の場所をつくる

いつ行ってもいい場所、いつ行っても誰かいる場所があると、「何かをやってみよう」を後押しする環境になります。それは課題を解決したり、何かを改善したりするだけではなく、新しいコトが始まるきっかけにもなり、地域を停滞させず前に押し進める力になる。「面白そう」「やってみるといいかも」という、思い付きをエンジンにして動き出した活動は、仲間を惹きつけ、”企み”が始まる。それが、いつ行っても、誰かいる場所で起こると、実現までの道のりの後押しになります。

「企みの場所」の特性
仲間を募れる、仲間で集える
・維持費が安い
・使う人が、手を入れることを許されている

五城目町:ただのあそび場ゴジョーメ まちの遊休不動産を地元住民がリノベーションして、地域の誰もが「ただで」遊びに来れる自由空間としてゆるく運営している。子どもも大人も誰でも使えるこの場所では、時には一緒に遊んだり、時には相談してみたり。何かが生まれるきっかけになっている。

仕掛け3. 地域のみんなが使える共有物をつくる

湧水や作物のような食を支えるものや、足湯や公共施設のような場所、傘や自転車のような道具など、皆が利用する共有物を手軽に使えるようにすることで、生活コストが下がり生きることの不安材料が少なくなります。生活を支えてくれるライフラインがあることの安心感は、大きな豊かさや、新しい挑戦に向き合う力になります。

「地域のみんなが使える共有資産」の特性
・地域の人が、管理・運営している
・地域の人が、手軽に安価に恩恵を受けられる
・適切に手が入ることで循環・継続している

小浜町:105°Cの温泉と蒸気蒸し 湧き出た温泉は小浜の町を通り、海に流れ出る。その蒸気を利用した無料の蒸気蒸し釜は、食材さえあれば観光客でも誰でも利用できる。温泉を利用した共同浴場は150円で利用でき、老若男女の日常を支えている。

仕掛け4. 歴史から引き継ぐものをつくる

古くから人が住み、暮らし続けてきた地域には、気候条件や地域の特色に合った歴史と文化があります。こうして伝承されてきた文化を、今担っているのが自分たちであり、何百年も前からの先人の営みの先に今の自分たちの生活があると思うことが、地域で暮らす人々の誇りと愛着を生み出します。日々の暮らしの中に受け継がれてきた歴史を感じることは、豊かさに繋がります。

「歴史から引き継いだもの」の特性
・地域の歴史に根付いている
・地域の資源で作られている
・地域の気候環境に合っている

五城目町:朝市と朝市 plus+ 室町時代から約500年以上も続く「五城目朝市」。その形態を残しながら、新たに朝市の未来を拓く場として2015年から開催している「ごじょうめ朝市 plus+」。歴史ある街の中で、新旧2つの朝市が開かれることによって、新たな歴史が紡がれている。

仕掛け5. 都会人の憧れをつくる

地方の人が都会に憧れるところがあるように、都会の人も地方に憧れます。畑と食卓の近さ、釣りができる環境など、自然資源に関わる営みや地産のものの消費は、資源がない都会で実現するのは難しいものです。
こうした「都会人の憧れ」は、地域からみると当たり前すぎて、それが特別なことだと気付くためには外からの視点が必要です。「地域の視点」と「都会の視点」を併せ持った移住者やUターンの目線を通して掘り出されたもの、その価値を言語化したものが、「都会人の憧れ」になります。地域に住む人たちだけでは気がつかなかった土地の魅力を再発見・再認識できると、自分たちの町に誇りを抱くようになり、地域に暮らしていることの豊かさに気が付きます。

「都会人の憧れ」の特性
・季節、風土や、自然との関わりを感じられる
・人の手を介した仕事が感じられる
・効率重視ではない、人との繋がりを感じられる

小浜町:雲仙市千々石町にある、オーガニック野菜専門の直売所。近隣の多品種・小規模な農家さんが育てた新鮮な無農薬・無化学肥料の農産物が店内に並ぶ。生産者に近い直売所は、きっと都会ではできない。美味しい野菜を求め、遠方からもお客さんがやってくる。

「豊かさ」を仕掛ける理由

必ずしも5つの「仕掛け」が全部揃っている必要はありませんが、この要素が多いと「地域ならでは」の「豊かさ」が生まれやすいと考えました。それには、いくつかの理由があります。

まず、コミュニティーが生まれやすいこと。
人口が減った社会では、リソースの不足から、サービスが行き届かないことも多く、自分たちで補完していく部分が、どうしても出てくると思います。その時に、相談できる人、一緒に解決してくれる人、力を貸してくれる人がいると、日々の生活品質が向上します。

次に、何か新しいことを始められること。
何事も "ずっと同じ" を守りすぎると、周囲の変化に取り残されて時代遅れになってしまう時がきます。新しいことが起こり、アップデートが繰り返される事は、町の活気に繋がります。地方では、施策と人の距離が近く、やったことがすぐに影響となって体感できることが多い気がします。こうして、誰かがやってみたことが、町を良くしているという実感、自分も何かやれば町を良いところにできるのだという感覚、こうした動きが、町の豊かさを保つのにとても大事な要素に思えます。

加えて大事なのは、町を誇れること。
自分たちの町の、歴史・文化や資源、自分たちの地域の素晴らしさを知っていること、語れることがとても大事なことだったりします。
こうした気持ちがあることで、文化を継承していくことにも、暮らしを向上することにも、前向きな関わりができるようになります。

こうした要素が町に揃ってくると、外の人の参与に期待しすぎない持続可能な地域の豊かさが、地域の人々を介して、未来へと繋がっていくのではないかと思いました。

豊かな町シナリオ

豊かな町の仕掛けをすることで、町の豊かさがどう広がっていくのかを、シナリオで考えてみると、いくつかの暮らし方がみえてきました。

これからもっと人口減少と高齢化が進んでいく日本で、フィールドワークから見えた新たな視点を生かし、地域の魅力、地域の力、地域の人の繋がりを意識して、豊かな暮らしを実現できる、豊かな町をつくっていけるような、インフラのデザインに取り組んでいきたいと思います。

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