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「しおり」作成から見えるKOELのものづくりカルチャー—共創ワークショップ「みらいのしごと after 50」(2)

こんにちは、KOELの稲生です。2021年5月に新卒のUXデザイナーとしてKOELにジョインしました。

山口県にある山口情報芸術センター[YCAM]にて、11月6日(土)、7日(日)の2日間に渡って開催したワークショップ「みらいのしごとAfter 50 〜50代以降の働き方、生き方を、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する〜」についての記事の第2弾をお届けします。

このワークショップは、KOEL・RE:PUBLIC・山口情報芸術センター[YCAM]が共同で開催しました。ワークショップの背景や進み方については前回の記事をご覧ください。

今回のワークショップでは事前準備の段階で、進行を円滑に進めるために60ページにも及ぶ「しおり」を作成しました。スケジュールだけでなく、テーマに関する事例をまとめたページや書き込みのできるワークシート、インタビューのポイントなど、ワークショップのあらゆる内容を網羅した”一大巨編”です。中身からデザイン、製本まで全てKOELで内製していきました。

今回の記事では、そんなしおり制作での試行錯誤の過程を通して、KOELのものづくりのカルチャーをお伝えしようと思います。

準備期間は2週間。ワークショップ成功に欠かせない「しおり」を作る

今回のワークショップは、KOELメンバーや共催パートナーに加えて、初対面の学生さんや山口市職員のみなさんが参加してくださることになっていました。また、共催パートナーとはオンラインで打ち合わせを行っているため、直接会うのはワークショップ当日が初めてという状況でした。
そんな中、スムーズにワークショップを進めるために、当日のスケジュールや、ワークの詳細を伝えることのできるしおりは必要不可欠でした。

プロジェクトが始まったのは10月初め。しおりを製本することも考えて、残された時間は2週間程度のみ。早速制作に取り掛かりました。

みんなで知恵を出し合って、KOELで自製する

とことん創る

まずはしおりの構成を考え、必要な情報を集めていくところからでした。短い期間だったので役割分担をし、それぞれの担当箇所をつくっていきました。

特にこだわって入れたのは、今回のテーマに関連している事例を集めたページです。このページは、参加者にフィールドワークの視点を提供するために作成しました。

テーマが「50代以降の働き方、生き方を構想する」ということで、特に高齢者の働き方や暮らし方に関する先端事例を探していきました。新聞社の取材記事やWebマガジン、官公庁の資料など幅広く調べました。

しかし集めた事例を見てみると、高齢者が働いている事例ではあるけれど、テーマにはいまいちピッタリ合っていないと感じました。そこで、チームメンバーがテーマから具体的にどんな「みらいの働き方、暮らし方」をイメージしているのか、考えをチーム内で共有することで、事例探しの軸が定まり、リサーチのしやすさが格段にアップしました。
テーマをしっかり理解しているつもりでも、お互いの解釈が少し違った、なんてこともあり改めて考えを共有し合えたのはとてもよかったと思います。

結果、新たな事例探しの軸として大きく3つを置きました。

  • 高齢者による高齢者のための仕事

  • 高齢者なりの仕事への関わり方、新しい働き方のモデルを作っている

  • 地域に絡んでいる仕事

特に3つ目は、ワークショップが行われるフィールドに絡んでいる話を事例とした方が、より参加者にワークショップでの視点を提供できるのではないか、ということで軸として設定しました。

ワークショップ中も、この事例からヒントを得て議論が展開されることが多くあり、こだわったぶんの価値を持ったいいページにすることができました。

フィールドノートもこだわりのページです。参加者がフィールドワーク中にメモを取れるようにと作成しました。
このノートはただ聞いたことを書き込むだけでなく、フィールドで見たり聞いたりしたことに対して観察すべきポイントが詰まったものになるように、工夫がいくつもされています。

フィールドワークでは3箇所を訪問しました。複数インタビューを行う際、それぞれの違いなどを考えず、とりあえずで行ってしまいがちです。せっかく3箇所いくのだから、一番欲しい情報が得られるように、視点を整理していくことはとても重要。そのために、3箇所の比較ポイントや、フィールド先で聞いてみることをしおりに入れました。こうすることで、参加者がいきなりフィールドワークに行っても、何を見聞きすればいいか理解できる状態を目指しました。

さらに後のワークショップで使える素材が、インタビューの中できちんと聞き出せるかどうかも意識しながら質問項目を組み立てました。こうして、短いフィールドワークの時間で、必要な情報を最大限掴みに行くためのポイントがいくつも入った、こだわりのフィールドノートが完成しました。

このように、読み物のようなページから、フィールドワークで役立つノートまで必要な情報をしおりにぎゅっと詰め込むため、全員がとことんコミットしていきました。

質にこだわる

内容はもちろん、ビジュアルのきれいさとわかりやすさも欠かせません。
特にビジュアルの部分では、せっかくのワークショップの機会なので、皆さんのクリエイティビティを刺激できるクオリティでお見せしたい、という思いと、KOEL内でのアウトプットの事例として、他のプロジェクトでも参考にしてほしいという思いがありました。

完成したデザインはクオリティはもちろん、細部にまで考えがはりめぐらされたものになりました。デザインを担当したKOEL UIデザイナー小田中さんにこだわりポイントを聞いてみました。

こだわりポイントその1:しおりを手に取った人がワクワクするデザイン
今回の参加者はリサーチャー、デザイナー、学生、日頃展示を作られている方など多彩なメンバーで、クリエイティビティ満載の人ばかりでした。ワークショップ内容も「みらいのしごと」についてと、これまたクリエイティブ。そんなクリエイティブさを刺激するようなビジュアルやカラーリングにしました。
また、ワークショップはみんなで作るもの。シンプルな図形を組み合わせてアイコンなどを表現することで、一緒に作るワクワク感を出していきました。

こだわりポイントその2:飽きさせない
しおりには必要な情報をぎゅっと詰め込んだので、全60ページのなかなか読み応えのある内容となっていました。そのため、途中で飽きさせず最後まで読んでもらえる工夫をしました。デザインの基本としてページ間で統一したルールをしっかり守りつつも、単調にならないよう、ところどころに遊びの要素を入れたり、同じフォーマットは繰り返さず変化をつけることで飽きさせないデザインを心がけました。

こだわりポイントその3:取っておきたいと思えるようなデザイン
せっかく情熱を注ぎ込んで作ったしおりが、ワークショップが終了後に捨てられてしまっては悲しい、参加者にこのしおりを取っておきたいと思ってもらいたい。その思いで細部までデザインをしていきました。

小田中さんはしおりの内容を隅々まで読み込んで、内容にピッタリあったデザインをしてくださいました。どの部分をとっても一つ一つ考え抜いて作られたしおりだと感じていただけると嬉しいです。

みんなで作る

内容がまとまり、デザインも完成したらいよいよ待ちに待った印刷です。ここでも全員が知恵を出し合うことで、完成まで駆け抜けました。

印刷前の最後のマージンの微修正では、5mmを削るこだわりよう。これもメンバーの一人が編集ソフトを駆使し、何度も試し刷りして最後まで手を抜かずに修正を行いました。

印刷は複合機メーカー出身のメンバーが大活躍!プリンターでホッチキス留めして製本までできることを知らなかった他メンバーは、出来上がったしおりに大興奮でした。

実際にしおりを手にとった時のワクワク感は、想像の何倍も大きいものでした。

ワークショップ当日、しおりは大活躍。肌身離さず持ち歩き、何か疑問があればすぐにしおりを開きました。また、フィールドワーク中に参加者全員でしおりに書き込んでいる姿は、グッとくるものがありました。
KOEL内でも好評で、メンバー用に印刷したしおりは、希望者が多く増刷したほどでした。

ワークショップ中にしおりが活躍している場面を見て、このしおりがあることでフィールドワークが滞りなく進んだり、ワークショップで初対面の人たちが同じ方向を向いて話し合えていることを、改めて感じました。しおりの存在がワークショップ成功の理由の一つであったと実感することができ、とても達成感がありました。

苦労することもたくさんありましたが、その度に全員で知恵を寄せ合い、妥協することなくこだわり続けてきました。
このしおりを2週間という短期間で自製できたのは、メンバーそれぞれが知恵を寄せ合ってものづくりをしていく、KOELのものづくりのカルチャーがあったからです。

KOELのものづくりカルチャー

KOELは大企業のインハウスデザイン組織であるため、ものづくりに対する姿勢はどうなのか、気になっている方がいるかもしれません。しかし、KOELには、KOELだからこそのものづくりカルチャーがあります。
私自身、このプロジェクトを通して、カルチャーを実感することができました。ワークショップのために1度しか使われないしおりでも、考え抜いてデザインする。プロジェクトの担当でない小田中さんがデザインを快く引き受け、全力を注いでくれたり、内容の議論から最後の印刷に至るまで、ああでもないこうでもないと言いながらみんなでものづくりをしていく姿を見て、KOELのものづくりへの真摯な姿勢と、何よりデザインが大好きな人ばかりであることを感じました。

多彩なメンバーが集まるKOELでは、それぞれの知恵を出し合ってものづくりをしています。いいものを作りたい、そのためにとことん作りぬく人たちが集まっているのです。

今回紹介したプロジェクト以外でも、KOELの全てのプロジェクトを通じて質のいいアウトプットをつくることを意識してものづくりをしています。本noteでその姿勢が少しでも伝われば嬉しいです。

次回、第3回目はKOEL デザインリサーチャーの山本さんがフィールドワークをおこなう上での心得を書いていただいています。お楽しみに!

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