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変わらぬ友情

 怖い話を書くようになってから、気持ちがアンダーになることが増えた((((;゚Д゚)))))))

だから今回はゾクゾクからクスクスに変更して書いていきます!

20代の頃、担当した会社に役員をしていた長井さん(仮名)がいた。

そしてそのグループ会社には役員をしていた小島さん(仮名)がいた。

長井さんと小島さんの絆は固く、それは社内外でも有名だった。酒の席ではいつも勢いに任せて喧嘩していたけれど、だいたい最後にはどちらからともなく「悪かった!」と言って互いに謝罪して、抱擁して2人で肩を組んで帰っていく。
その光景を初めてみた時は驚き、狼狽えたけれど、慣れてくると面倒臭さい光景でしかなかった。

僕は一度、2人の友情について小島さんに聞いたことがある。

「何故、そんなにお二人の友情は固いのですか?」

小島さんは良くぞ質問してくれたと言わんばかりの様子で答えてくれた。

「長井とはもともと同期入社なんだよ!もともと仲は良かったけど、あいつは義理堅くて約束は絶対に守るし、裏切らないんだ!俺はあいつのためなら命かけられる。そのきっかけは俺の結婚式なんだ」

小島さんはグループ会社の立ち上げに関わって、事業をスケールアップさせた人。親会社の社員に聞いたら、グループでは「智将」と言われていて、その才覚にオーナーも信頼を寄せているらしい。かたや長井さんは元々暴走族で特攻隊長をしていた兄貴肌の人。義理堅いが乱暴で危なっかしく好き嫌いがハッキリしている。
智将と言われている小島さんが、「命をかけられる」なんて言わせる長井さんとどんなエピソードがあるのか気になった。

「10年くらい前、俺が結婚する時に長井にスピーチを頼んだんだ!スピーチなんて誰もやりたがらないから頼んだんだけど、あいつは快諾してくれた。しかし、結婚式当日に長井は客先でトラブルが発生して、部下に代わってその対応をしたせいで式に大遅刻したんだ。結婚式のスピーチは結局長井不在のためスルー。長井が現れたのは式の最後の嫁が両親への手紙を読んでいる最中だった。嫁が大粒の涙を流しながら手紙を読んでいて、両親も涙をハンカチで拭きながらうなずいている。会場ももらい泣きしているような雰囲気の中にあいつは現れたんだ。会場の扉が勢い良く開いて、みんなが扉の方へ視線を向けると作業着姿の長井が立っていたんだ」

しんみりした雰囲気に包まれている中で、作業着を来た長井さんの姿は異様だったろう。

「汚れた作業着を着て汗だくになった長井は、ズカズカと入っていって、司会者が嫁に向けて持っていたマイクを力任せに奪ったんだ」

小島さんはこの時のことを思い返して話していたが、その表情は嬉しそうだった。

「あいつはマイクを取り上げるなり頭を下げて言ったんだ

小島、嫁、そして嫁の親さんたちすまん、今日スピーチする予定だったけど客先トラブルに対応してたせいで間に合わなかった。もう二度とこんなことはしない、だから、だから、もう一度俺にチャンスをくれ!スピーチをさせてくれ!

それを聞いたら嫁の親が激昂して、それは離婚するということか!?こんなめでたい日になんて不謹慎なことを言うんだ!と長井を怒鳴り付けてたんだ。嫁は大声で泣くし、会場中から野次が飛んだりと散々な式になったよ」

なんてことを言うんだ!でも長井さんなら言いかねない。

「それでどうなったんですか?」

しかし、この話が友情のエピソードとなるにはちょっと弱い気がした。

「その嫁とは反りが合わなくて、2年くらいで離婚したんだ。そして5年くらい前に今の嫁と再婚したんだけど、その時に再び長井にスピーチを頼んだんだ。そしたら長井はまた快諾してくれたんだ」

「それで長井さんはスピーチできたんですか?」

「あぁスピーチしてくれたよ。今回はちゃんとした恰好で、リーゼントもピカピカにキメテきてくれたんだ。そしてスピーチのとき長井はみんなの前に立って言ったんだ

数年前、私は小島君の結婚式でスピーチを頼まれました。小島君のためならと喜んで引き受け、式に向けて小島君への想いを馳せてしたためた原稿を何度も書き直して、練習しました。しかし、結婚式当日に私は客先のトラブル対応のせいでスピーチに間に合いませんでした。この時、私は小島君に、もう一度チャンスをくれ!とお願いをしました。そうしたらなんと彼は離婚して、再び私にスピーチをするチャンスをくれたんです。夏菜子さん(仮名で小島さんの奥さん)、小島君はとても義理堅いヤツです。こんな義理堅い男はそうそういません、どうか小島君を大切にしてください

長井がそんなことを言ったもんだから、また嫁の両親が「君、不謹慎だろ!」って言って怒り出すし、隣では嫁が大声で泣くし、嫁の親族たちから野次が飛んで散々だったよ」

小島さんの義理堅さを語るエピソードが酷すぎた。相手の親が怒ったのは無理もない。

「それでどうなりました?」

「長井との約束も果たせたし、離婚してないよ。ただ、あのことがあったから、我が家では長井が出禁になってる」

そりゃそうだ。小島さんの奥さんは長井さんを許すはずがない。

後日、念のため長井さんに小島さんとの友情について聞いてみた。

やはり小島さんと同じように、嬉しそうに同じエピソードを語り、「あいつは義理堅い」と言っていた。

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