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博物館に初もうで 謹賀辰年 -年の初めの龍づくし- /東京国立博物館

 トーハクの新年恒例、干支の特集展示である。例年と同じく1室のみ・35点という小規模でも、展示室は大盛況。
 おめでたい乾隆帝の御筆・縦2メートル超の《龍飛鳳舞》に続いて、「ぬっ」と現れたのは……こんな顔だった。

ぬっ……

  「って、虎じゃん!
 というリアクションを発するとともに、既視感が襲う。2年前・寅年の干支特集の際にも、同じ部屋の同じ位置に、この虎の屏風が出ていたのだ。毎年来ていると、こういうこともある。
 もちろんこの虎は2年前と違い、今回は脇役。主役は、右隻の龍のほうだ。

 個人の感想としては、虎のなんともクセのある面構えと身体・毛並みのうねりを観てしまうと、龍はなんだかふつう……虎が龍を喰ってしまった感があった。
 もっとも、寅年生まれの猫飼い(しかもキジトラ)がいうことだから、なんのあてにもならないけれど。

 ※曽我直庵《龍虎図屏風》(桃山~江戸時代・17世紀)


 辰=龍といえば、中国美術に頻出のモチーフ。本展でも、中国の歴代王朝・王室ゆかりの文物が選りすぐり。
 東博の中国陶磁としては最もメジャーな作といえる《三彩貼花龍耳瓶》(唐時代・8世紀  重文)。龍は……瓶の口から、中の液体をガブ飲みしようとしている。

 昨年末、早稲田の博物館で、唐白磁の龍耳瓶をちょうど観たところだった。そのときに改めて気づかされたのが「龍耳瓶の龍、カワイイ!」ということ。
 一生懸命に、水を呑もうとしている……その必死さが、いい。こうして東博でも拝見できて、よかった。

 万暦赤絵の《五彩龍涛文長方合子》(明時代・16~17世紀)。かぶせ蓋になっており、A4の書類がぴったり入りそうなサイズ感だ。

 釉色のつややかさ・上がりのよさと、万暦らしい脱力系のやわらかい絵付は魅力たっぷり。色のはみ出しや塗りムラなんて、気にしない。
 かぱっと、自分の手で開けてみたくなる蓋物だった。

 同じくらいにカラフルな《十二神将立像(辰神)》(鎌倉時代・13世紀  重文)。彩色や截金(きりかね)が、きわめてよく残存している。
 各方位の守護を司る十二神将は、干支を頂いた図像で表される。本作の頭頂部からも、龍がニョキっと顔をのぞかせる。

緊張感みなぎる。そして、掛け値なしにカッコいい。みな、カメラを向けていた
飛天御剣流の抜刀術っぽい
辰のアップ

 本作は、京都(といってもほぼ奈良)の浄瑠璃寺に近代まで伝来した十二神将立像のひとつで、東博に5体、静嘉堂文庫に7体が分蔵。昨春の奈良国立博物館「聖地・南山城」展では、御本尊の阿弥陀如来のもとで久々に一同に会したにもかかわらず、拝見の機会を逸していた。苦い記憶が蘇る……
 さておき、浄瑠璃寺伝来の作品には、かの《吉祥天立像》(重文。なぜ国宝じゃないのか)をはじめ、極彩色がよく残った保存状態のよい作が多い。この十二神将は好例で、間近で拝見でき、たいへん見応えがあった。
 そういえば……最近もうひとつ、浄瑠璃寺伝来の「龍」を観ていたのだった。早稲田の博物館所蔵の《龍頭》(平安時代・12世紀)である。

早稲田大学 會津八一記念博物館所蔵の《龍頭》。竿の先端に差し、ひもを引っ掛けて飾り布を垂らすための仏具

 こちらの《龍頭》も、彩色が鮮やかだ(後補もあるか?)。
 東博の《十二神将立像(辰神)》のほうがやや下るものの、同じ伝来をもつ、カラフルな龍だ。上の写真をスマホから探して、その場で比較。おもしろい出逢いだった。

 最後は、小品の珍品をひとつ。

《鯉水滴(魚跳龍門)》(江戸時代・18~19世紀)

  「人面魚」ならぬ「龍面魚」。ツチノコのようでもある……いずれにしても、異形というより他ない。
 鯉が滝のぼりをして龍に姿を変えるという「登竜門」の故事にちなんだ文房具。「いままさに龍に変身しかけている」、いわば「変身シーン」で一時停止してしまった結果、顔だけ龍の状態になっている。
 この水滴で勉学やデスクワークに励み、立身出世を目指そうぜ!といった意味合いが込められているのだろうが、それよりも、一風変わった意匠で見る人の度肝を抜きたいという、作り手や使い手の粋(いき)のほうが強く感じられる品だと思う。
 ちなみに「小品」といえど、全長は20センチ弱もあって、そこそこ大きい。
 誰もが思わず、ギョッとしてしまうはずだ。魚だけに……

 ——今年の「初もうで」も、無事に完遂。いい一年に、なりますように。


上野公園内の清水観音堂に参拝してから、東博へ向かった


 ※《龍頭》が出ている早稲田大学 會津八一記念博物館「恭賀新正 -新年を寿く縁起物-」も、まだまだ開催中。



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