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テオ・ヤンセン展 /千葉県立美術館

 なにとは形容しがたいが……動物の姿を模したらしい、多くのパーツから組み上げられた大きな構造物。

《アニマリス・ブラウデンス・ヴェーラ》(2013年)

 これは、動く。全身のパーツというパーツを連動させて、ゆっくりと歩みを進めていくのだ。
 しかも動力源は「風」で、エンジンやモーターなど機械の類をいっさい搭載していない、電気すら使わないと聞けば、誰もが驚くだろう。

 この複雑怪奇な構造物、名を「ストランドビースト」(以下「ビースト」)といい、「風車の国」オランダのテオ・ヤンセン(1948~)によって生み出された。
 ヤンセンはビーストを、1990年から制作。それぞれのビーストは生物学上の命名規則にならったラテン語の学名をもち、進化の系統樹や編年まで存在する。
 初期作から近作まで、ヤンセンのビースト14体が集まる展示を観に、千葉県立美術館へ行ってきた。

 ※会場のようす、そしてビーストの躍動が捉えられた動画。

 とくに日本美術のファンにとって千葉美術館はおなじみの存在だが、千葉県立美術館となると、訪れたことのある人はぐんと減ってしまうかと思う。
 同じ千葉市内の県立美術館は、京葉線とモノレールが停まる「千葉みなと」駅が最寄りで、海の近くにある。
 この立地を活かし、屋外で潮風を受けつつビーストを走行させてみようというイベントが、去る12月3日に開催された。
 よい機会と思ってこの日にうかがったところ、開催前からすでに黒山の人だかりができていた。どうやら、みな考えることは一緒らしい……

抽選で選ばれた方が、衆人環視のなか、乳母車を押す要領でビーストを手押し

 人だかりはそのまま美術館の入館待機列に流れ、たちまち長蛇の列をなした。どこで終わるのかすら、まったく見えない状況。入場制限やむなし……
 こりゃたまらんと出直し、会期終了間際の平日に再訪。

《アニマリス・ミミクラエ》(2019年)
《アニマリス・ムルス》(2017年)は、体長13メートル!
《アニマリス・オムニア・セグンダ》(2018年)。先端に、砂浜に杭を打ち込む槌がついている

 この《アニマリス・オムニア・セグンダ》や冒頭に挙げた《アニマリス・ブラウデンス・ヴェーラ》、それにもう1体は、「リ・アニメーション」と称して、会場内で定期的にデモンストレーションがおこなわれていた。

 繊細に、規則正しく、ちょっとカワイイ……そんなビーストの動きが、風圧だけを源として繰り出されているのだという事実に、神秘的なものすら感じた。
  「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」とはアーサー・C・クラークの言葉だが、ビーストはまさにそういったものだと思った。

 反面、間近でディテールをみれば、あまりの「手作り感」にびっくりしてしまう。
 プラスチックやウレタンのチューブを折り曲げて組み合わせ、ホームセンターで買える白い結束バンドや紐で留め、空気は炭酸水のペットボトルに溜めている。
 この意外な親近感も、ビーストの魅力。

 12月に海辺を走っていた《アニマリス・オルディス》(2006年)は、展示室の限られた範囲ではあるが、自由に押すことができた。
 ちょっとのひと押しでビーストの機構が作動し、ゆっくりと動きだす。楽しい。

 その他のビーストに関しては、動いているところを直接は観られなかったけれど、動画でフォローされていたし、なにより静止している姿は、どの角度からみても間違いなく美しいのであった。

 ——12月に来たとき、品切れを危惧して購入しておいた「ミニビースト」は、未開封のまま。
 そろそろ、組み立ててみようかしら……



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