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京都 細見美術館の名品 ─琳派、若冲、ときめきの日本美術─:2 /日本橋高島屋

承前

 琳派や伊藤若冲に代表される近世絵画は、2代・細見古香庵による蒐集品。
 蒐めた人が異なれば、その内容・傾向にもおのずと異なる個性が表れる。本展の章名から借りると、初代の蒐集は「祈り」と「数寄」、2代めの蒐集は「華やぎ」であった。
 親子2代のリレーにより、古代から近世まで、日本の古美術を優品によって通覧するコレクションができあがったのである。

 本展の3章では、2代めの「華やぎ」ぶりをよく示す絢爛な近世絵画・工芸が集結。金屏風に金蒔絵、七宝、さらに北斎の美人画まである。
 近世初期風俗画からは、京の町を描いた《北野社頭図屏風》《東山四条河原遊楽図屏風》。2点ともに、細部に抜かりない。人物の描き分けや建物の破綻ないつくりが徹底された、見飽きない作例だった。


 七宝の釘隠(くぎかくし)は、細見コレクションでもよく知られた一群。
 なかでも《流水蛇籠文釘隠》は、手焙(てあぶり)の蓋に転用できるほど大きい。
 となれば、どれほど巨大な建築物の内部を飾ったのだろうかと、気になってしまうもの。聚楽第の伝来は否定されているが、規模の大きな近世城郭の御殿での使用が想定されよう。


 時代は下って、北斎《五美人図》。

 色鮮やかな反物を広げて品定めをする、きゃぴきゃぴした3人娘。その輪には加わらず、ゆったりとしたポーズの女性2人。若者の賑々しさに、かつてのみずからの姿を重ねているのだろうか。
 召物の色味は対照的。大横物の体裁に山なりの人物配置とすることで、3人と2人の対照性はさらに強化される。
 美人画を超え、絵を前にして、いろいろと考えたくなる作品である。

 4章は、まるまる琳派の作品だ。
  「琳派の美術館」というイメージの強い細見美術館。光悦、宗達、光琳から江戸琳派、近代の神坂雪佳まで、名品がひととおり出ていた。
 近世の作を含めて、先日まで全国を巡回していた「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」展のリストとほぼ重複するラインナップ。既視感は強かったけれど、こちらにしか出ていないものも数点あった。

 そのひとつが、酒井抱一《白蓮図》。
 ただならぬ、霊妙なる空気を帯びている。単なる花や植物、あるいは風物詩といった以上の存在感があろう。蓮というからには……なにか特殊な制作背景があるのかもしれない。観る者の、時間を止めてしまうかのような絵だ。
 わたしは蓮の花がすきだが、蓮の絵としては、この絵は一、二を争うほどだと思っている。

  「華やぎ」の話が、いつのまにかまたシブめの絵の話に差し替わってしまった。次回は引き続き「華やぎ」の琳派と、若冲。(つづく

レモンの実と花

 ※このあと名古屋、静岡、長野に巡回


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