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86-エイティシックス- 8巻感想

今回読んだ本はこちら

7巻までのあらすじ

長く苦しめられたレギオンとの戦争を終結できるかもしれない…
鹵獲した敵機(ゼレーネ)から情報を得たシンたちだったが
フレデリカの安全を守るため、また確実に作戦を決行するために
しばらくは通常任務をするよう伝えられる。
そんな彼らの次の任務はレグキード征海船団国群と協力し、海上のレギオンの拠点、摩天貝楼を潰すこと。
そして電磁加速砲型(通称モルフォ)を倒すことだった。
初めての海戦、そして初めて見る海に困惑するエイティシックスたちだったが
果たして彼らは任務を達成し、無事生還できるのか?

感想(ネタバレあり)

シン以外のエイティシックス(主にセオ)が自分の生きる意味を見つけるためにようやく動き出した回でした。

全てを奪われ、戦う誇りしか持たなかったシンが
戦争以外で生きる目標を見つけ、「レーナに海を見せたい」と
戦争終結後の未来を見据えて"生きるために"戦うことを決意したのに対し
セオやクレナをはじめとするエイティシックスたちは
その意義を未だ見つけられずにいた。
自分たちは全て奪われてきた、今さら求めたところでどうせそれもまた奪われる…それなら自分たちは戦う誇りさえ持って
その誇りを抱いたまま戦場で散ればいいのだと
そう言い聞かせて戦うエイティシックスたちだったが
使い捨て人形であるシリンたちの死体の山を見せられ、
誇りを持って戦ったところで自分たちの未来はこの死体の山の一部に
なってしまうことなのだと思い知らされる。
可視化された自分の未来に恐れ戦いたエイティシックスたちは
自分たちの未来について考える…。

そういった心情を丁寧に描いてきたこの作品。
序盤ではそんな彼らの転換の兆しを各々スポットを当てて説明していくのですが
変わろうとするシンやライデンやリトに対し、
戦争以外の経験がなさすぎるあまり、どうすればいいのかわからない
クレナやセオはそんな彼らの変化を察しながら
置いて行かれるのではないかという寂しさや焦りを抱えている。

だって自分は何も、変わっていない。
進めていないと思うのに、
八六区を出てそれきり何も変わってはいないのに、
見たことのない景色へと来るだけは来てしまった。
それが何だが、ひどく虚しい。

己と仲間だけを頼りに、戦場に生きる。
それはつまり、己以外によりどころがないということだ。

寄るべなんかなくて、居場所なんかこの世のどこにもなくて、
それでもシンは救いと未来を得ることができたけれど、
じゃあ自分はどうすればいいのかわからない。
救いなんてそう容易く、だって何が自分にとっては希望とか未来なのかもわからないのに得られるとも思えなくて、
でも、得られないならそれこそどうしていいのかなんてわからない。
怖い。

そんな思いを抱えながら戦場に立つセオとクレナが目の当たりにしたのは
シンの退場。
セオは動けた、でもクレナは全く動けなかった。
この2人の対比が非常に美しい。

セオはシンの退場により、世界の平等を思い知らされる。
どんなに夢を抱えていても、大切な人が待っていても、逆に何も持たない自分にも、平等に死は訪れる。
だからこそ、残された者というのは世界に生かされたのだと。
何も持たないからこそ、生き残ったということを理由に生きていくことを決意する。
戦死した戦隊長は最期まで正しかったのだと未来に伝えていくために。
征海士族たちが後世に話だけも残せるよう征海艦を失う覚悟をしてでも生き残ることを決意するように。
そんな積み重ねがラストスパートで一気に花開いていく、
その爽快感が気持ちいいですね。

しかしクレナはシンの隣にいること、シンと一緒に戦うことをより所にしていたため、そのシンが退場してしまったことによって完全に居場所を失ってしまう。
シンを失ったというショックもあるのだろうが、
元々アイデンティティが確立していないクレナにとってシンというより所を失うことは、自分を失うことと同義なのだ。
だから動くことができなかった。
どうすればいいのかわからないのだから。

物語全体の流れは新たに敵拠点を叩き、インフレした敵が襲ってきて
それを泥沼の戦いで退けていくのですが
とにかく心理描写がとても丁寧なんですよね。
そして説得力がある。
特にセオが生きる理由を見つけるためには
戦隊長という伏線、さらには征海艦隊を失う覚悟をする征海士族たちの決意、
シンの退場という大まかに3つの要素が複雑に絡み合っていくわけです。
それが一気に拾い上げられて開花していく。

対するクレナは最後まで見せ場がこないという徹底ぶり。
この徹底した対比が
「今まで同じ立ち位置(未来に希望が持てず宙ぶらりんなアイデンティティを抱えている)にいたセオとクレナを差別化した」のだと思います。
恐らく次の9巻ではクレナが「シンの隣にいること」以外のより所を見つけていく話になるんじゃないかなあと思います。
あとは原生海獣(クジラ)が出てきたり、量産型フォニクスが出てきたり
レールガンのモルフォが2体出てきたりソシャゲばりにインフレが一気に
進んだので次の敵は何が来るんだ!?と純粋に気になりました。
(雑兵だったレギオンが一気に羊飼いになったときもめちゃインフレした…!となりました)
(原生海獣(クジラ)はもう出てこないってあとがきで説明してたところは笑いました)


あとこれは自分も創作をするのでメタ的な視点になってしまうのですが
セオを今後も活躍させたいなと思うと
ここで生きる理由を見つけ、心理的な安定を得てしまうと
おそらく今後出番がなくなるんですよね。
セオは1巻の時から感情を一番わかりやすく表現してくれるキャラなので
ここで安定してしまうと今後活躍させにくくなってしまうから
最後ああいう展開にしたのかなと思いました。
ああいう展開にすることによって
今後も恐らく不安定な気持ちを抱えることは間違いないので
セオくんの心理にスポットが当たる余地が残ったことは嬉しいですね。(ゲス顔)(セオくんが好きなので…)


ひとつの作品を読むと3~4時間くらいかかるのに
それだけの時間をかけて一つの作品と向き合っておきながら
「面白かった~」で済ますのはちょっともったいない。
自分のその時に感じた感性をメモする気持ちで文字に残しておけば
自分が創作で何か行き詰った時に参考になる…はず…の気持ちで
今後も何かコンテンツを履修したら感想を残したいですね…。

おしまい。


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