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同業他社がどうするか見てから決めますという横並び思考と就職協定

(はじめに)


 
 私は前期高齢者となって、今の日本人の横並び思考について、少し、心配しています。今の日本人は、全員ではありませんが、大方の人が、子供だけでなく大人も自分の頭でよく考えていません。そのため、自分個人の意見や自社の独自の方針を持たず、自分から進んで最初に何か言おうとしない傾向があります。人の話を聞いてから決めるという態度です。
 私は大学教員を定年退職する前に、大学の就職委員を2009年度から2019年度の足掛け11年、そしてその間に、その委員長を2期6年間勤めました。その就職委員の時に、本当にたくさんの会社の人事担当者とお会いさせて頂きました。1000人は超えると思います。その得難い経験から、横並び思考を、何度も目の当たりにして、大いに困惑したものです。そして、日本人の「自分の意見を云わず他者に合わせて行動する」という横並び思考の蔓延が、日本の会社や社会の発展を阻害しているかなり大きな原因になっていると感じました。以下、就職協定からそのことについて考えてみます。
 

1、2017年前後は、就職協定が目まぐるしく変わった時期


 

1-1. 大学の就職委員の対応


 
 私が、大学の就職委員長を2期6年間やっていた時期の2017年前後は、就職協定が目まぐるしく変わった時期でした。2年ごと、いや1年ごとに、就職協定が目まぐるしく変わり、そのたびに、日本全国の学生や、企業の採用担当者は、そのスケジュール変更に振り回されていました。就職協定が変わると、それに対応して、大学も企業も、そのために1年近く前から、スケジュールを変更して、それに対応しなければなりません。それがとても大変でした。
 たとえば、4年前には、「2017年以降は、それまでの就活スケジュールとは異なり、3年生の3月1日が、『採用情報の広報解禁』日に変更。」となりました。例年、「広報解禁」と云いながら、実際は、企業はその解禁日から学生と直接会って面接・選考を始めますので、実質この広報解禁日が就職活動採用選考の開始日です。そして、一応表向き、4年生の6月1日が「選考解禁」日となっていますが、実際は違います。それまでに3月から選考は開始されており、4年生の6月から7月ごろには、大多数の学生に内内定が出ます。また、表向きは、「4年生の10月1日以降が内定の正式な解禁日」となっていましたが、実際は、10月1日には、自社の内々定者を内定式に集合させて、内諾書を取って他社へ行かないように足止めをする日となっていました。
 
 このように、表向きの就職協定と、実際の就活スケジュールとのギャップが例年あるため、大学の就職委員は、毎年変わるスケジュールに対応して、1年前から準備をしなければなりませんでした。そこで年によっては3年生の1月、また年によってはもっと早い時期の3年生の(前年の)10月に、3年生全員を集めて、表向きと実際の就活のスケジュール2つを説明し、就活ガイダンスを行います。目まぐるしく就職協定が変化しているときは1年先輩のスケジュールが参考にならないことや、年若い学生にはよく認識していない、「表向きの就職協定と実際のスケジュールが大きく乖離している」ことなどを、就職委員は、毎年適切な時期を選んで、3年生全員にガイダンスして、本学の学生が、就活に出遅れないようにしなければならないのです。4年生を卒業するまでに全員が行き先が決まるように目配りをし、それが終わり切るまでには、なんと次の年の就活スケジュールに合わせて3年生の指導もしなければなりません。さらに、その間に、年に100社を超える企業採用担当者にも会わなければなりません。そのため、就職担当委員になった教員は、学生の指導と企業採用担当者対応に1年中大変でした。
 

1-2.  企業の採用担当者の対応


 
 本学の学生を採用して頂ける企業は、本学にとっては、大変重要なお客様であり、丁寧な対応を、就職委員は取らねばなりません。
 そこで、企業の採用担当者と面談したときは、就職委員は、来年度の就活スケジュールが変わるので、御社はどうされますかと、意向をまず聞かねばなりません。会社によっては、もっと早めに内々定者を確保したいなど、本音があるからです。腹を割った綿密な事前の打ち合わせが、必要となります。これをやると就職内定が容易になり、就職率が確実にアップします。なので、就職協定が変わる時には、特に、企業の採用担当者との綿密な対応はとても重要です。
 一例をあげてみますと、4年前の2013年に就職倫理協定が変わると予告されたとき、就職委員長の私は、各企業人事担当者(年間100社ほど)に会って、毎回、状況変化を丁寧に説明し、「御社としては、来年度これにどう対処されますか?」と、各企業の採用担当者に次のようにお聞きしました。
 
「昨年度の広報解禁日は10月1日でしたが、今年度から12月1日に、そして2年後には3月1日になりますが、御社は、これにどう対処されますか?」とお聞きしました。就職協定が変わることは、経団連などからすでに発表されていますから、もちろん、各企業人事担当者ですから事前にご存知のはずです。大学の就職委員としては、各社の採用スケジュールや方針を、お聞きできると期待しているわけです。ところが、100社のうち99社までの回答は「まだ何も考えておりません。同業他社がどうするか見てから決めます。」というものでした。「なんでやねん!」と私は心の中で大変疑問に思うのでした。
 

2. 自分の頭で考えて、それを周りに説得する努力を怠っているのが、今の日本の衰退する原因


 
 上の採用担当者の例を見てわかるように、ほとんどの人が、どうするのが一番いいのか、みんな自分で考えず、みんな周りから答えが降ってくるのを待っているのです。次の年も、100社のうち99社までがこうでしたので、私はあきれてしまいました。この横並び思考は、このような企業の採用活動だけではなく、あらゆる、日本人の意思決定に現れています。これが、今の日本が衰退する原因だと、私は思いました。日本人は大の大人までが、人が決めたルールには、世界が称賛するくらい守るのに、自分でルールや規格を提案できないのです。
 なぜ、自分たちで世界的な規格やルールを作って、世界に普及できないのか。それは、早くから自分の頭で考えて、それを周りに説得できるだけの努力を怠っているからです。子供の教育だけに矮小化してはいけません。日本人の大人自身の思考態度を、早急に改める必要があると私は思います。
 

(おわりに)


 
 因みに、どこかの国の新しい首相が、当初「聞く力」に優れているとアピールされていましたが、2年ほどたった今は、多くの国民が、今の首相は「自分の意見や方針がない人、外国の言いなりの人」じゃないかと思い始めています。上で述べた思考パターンの典型的な人じゃないでしょうか。
 今後、日本の将来を担う学生さんや、企業の方々、ひいては今の日本人の皆様の思考パターンの反省と改善に、本文が、少しでもお役に立てれば、大変嬉しいです。
 
 
 
平成29年(2017年)8月9日 随筆
令和5年年(2023年)9月29日 加筆
 
 
*なお、冒頭のイラストは、下記のURLのフリー画像の中のものを使用させて頂きました。
https://www.ac-illust.com/main/search_result.php?word=%E6%80%9D%E8%80%83

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