「ツツジ」斬首に似た花弁の散り方
蜜を吸いながら歩いた
帰り道に咲く花
散歩道でツツジをみかけるたび、「子どもの頃はよく帰路に咲くツツジの蜜を吸っていたわ」と、母が話していたのを思い出します。私が日常でよくみかけるツツジは、花壇で花咲かせている、だれかが大切に育てたツツジなので、その花をむしって蜜を頂戴するなんてことは残念ながらできません。ですが、こうした花の話から散歩中での遭遇まで、つくづくツツジという花は、昔から私たちの生活に密着した植物だなと感慨深く思います。
私が目にするツツジは「ヒラドツツジ」といい、長崎県の平戸市から広まったツツジの品種です。ヒラドツツジ、という名前がついたのは1952年の昭和期ですが、平戸市の武家屋敷で受け継がれてこの品種が誕生したそうです。一般的なツツジよりも花が大きいのが特徴だということで、たくさんの蜜が味わえるんだろうな、と思いながら、いつもこの花を眺めています。
見舞いにふさわしくない
ぼとり、と落ちる合弁花
さて、このツツジの花ですが、散る時には花弁がぼとり、とまるごと落ちます。こうした花はお見舞いなどでも縁起が悪いからと避けるのがマナーとして教えられますが、その様は確かに斬首された罪人の頭のようで、地に落ちた花はつい目を背けたくなるような哀しさがあります。花占いに使われるような、花弁がバラバラになっている花(「離弁花」)のほかに、ツツジのような花弁がくっついて1つになっている花もあります。これらの花は「合弁花」と呼ばれ、ツツジに加え、キク目やシソ目などの植物も含まれます。
なぜ合弁花のような花が存在するのかは定かではありませんが、合弁花は離弁花よりも進化した花の形態といいます。形態の進化は繁栄を有利にするためのものと考えられますので、ツツジの繁殖方法から、合弁花のメリットを考えてみようと思います。
チョウなどの昆虫が
運びやすい花粉
ツツジの花粉は、指で触れると糸でつながっているように伸びる特性があります。これは昆虫に多くの花粉をまとめて遠くまで運んでもらえるメリットがあると考えられています。つまり、ツツジという植物は、昆虫に頼って繁栄する植物ということになります。ツツジにはよくチョウの仲間が集まってきますが、チョウはストロー状の口吻で花の蜜を吸います。この際、たとえば花がろうと状の形をしていれば、ストロー状の口を伸ばして蜜が吸いやすくなります。もしかするとツツジのような合弁花の植物たちは、チョウたちを誘因しやすくするため、花弁を1つにくっつけた形の花を咲かせるようになったのではないでしょうか。
その仮説とは別に、合弁花であるゆえに、私たち人間たちにとってもその花をむしって蜜が吸いやすくなっているな、なんてことを思います。そう思うと、落ちたツツジの花弁も、「この落ちた根本から蜜を吸うのか……」と、吸うことのできない花の蜜に思いを馳せて、またちがった切なさがこみあげそうな気がしてきます。いつか山辺に咲いたツツジの蜜を吸ってみたいなぁ。あ、でも、自生したツツジの花をむしるもの、ほんとうはよくないのか……。この先どこかで、ツツジの蜜が吸えたらな、と思い直します。
参考文献
・小池安比古(監修)、大地佳子(著)、亀田龍吉(写真)『色と形で見わけ散歩を楽しむ花図鑑』ナツメ社 2018年
・長谷部光泰「植物のなかま分け」『理科教室2020年3月号 No.783』化学教育研究協議会 2020年
・平戸ツツジ陽気に誘われ見頃 亀岡公園「保存園」長崎新聞 2023年4月15日
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