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“アオサギは頸を曲げて飛ぶ”という図鑑説明に疑問を抱いた

サギ類日本最大なのに
身近すぎる巨鳥


 私が日常的に目にする野鳥のなかで、もっとも大きな鳥は? と考えると、やっぱりサギ類日本最大のアオサギ(Ardea cinerea)になります。あれほど大きな鳥なのに、河川から砂浜、あるときは人が集まるような大きな噴水のある公園でみかけたこともあり、街でも自然のなかでも、水辺の至るところで出合う鳥だと感じます。

砂浜を優雅に飛ぶアオサギ

 ぎゃー、ぎゃー、と古代の王者である恐竜を彷彿とさせる鳴き声なのに、ふぁさ……と開翼して飛び立つ瞬間をみると、優雅で美しく、その鳥影はまるでツルのようです。
 ツルのような姿のアオサギ。たとえば私が、タンチョウ(Grus japonensis)がよく観察される地域に住んでいたとして、このどこにでもいるアオサギと、タンチョウを遠目からでもきちんと見分けられるでしょうか。……子どもの頃から鳥が好きで、北海道で野生のタンチョウも間近でみたこともある私ですが(写真は例に漏れず撮れていないです……)、正直いうと、遠目からではアオサギとタンチョウを見分けられる自信はありません。もっといえば、タンチョウ、アオサギ、コウノトリ(Ciconia boyciana)、の3種類はもう、ほぼ同じシルエットだと感じます。

各図鑑に共通している
ツル類などとの見分け方法


 見分けの難しい鳥に関しては、図鑑を開けば解決♪ そう思って図書館に行き、さまざまな図鑑を開いてアオサギについて調べてみました。すると、多くの図鑑である指摘がされていることに気づきました。

・ツルと間違えることがあるが、頸(くび)を曲げて飛ぶことで見分けられる
・長距離を飛ぶときは頸を曲げる
・日本最大のサギで、ツルと見まちがえることもある。飛ぶときに首を曲げるので区別できる
・飛翔時はシラサギ類と同じで頸をS字形に曲げて飛ぶ。ツルの仲間やトキの仲間などは頭を伸ばした状態で飛ぶので、これらとは飛んでいるときの印象がかなりちがう

 記載の仕方は多少異なりますが、要するに「アオサギはツルなど異なり、首を曲げて飛ぶ」ということのようです。

 しかし、私は見分けポイントについて、少々疑問を抱きます。というのも私、みたんです。アオサギが首を曲げずに飛んでいるところを! そのサイズ感といい、飛んでいる際の威風といい、ツルやコウノトリとあまりにも酷似していました。これはどういうことなのでしょう。

首を伸ばして飛んでいるアオサギ
飛翔するコウノトリ。
その鳥影はアオサギと酷似する

 かつて鳥類観察をされている方から、「アオサギは首を前に伸ばして飛ぶと、重心が前に偏ってしまうので飛行が安定しない」といったことを教えてもらったことがあります。つまり、飛翔がなんらかの理由で安定している時は首を伸ばして飛ぶ、という考え方です。しかし、書籍をあさってみても、そうした記述をみつけることはできませんでした。鳥類の骨格標本を紹介した書籍も開いてみましたが、「首や脚の長さに比べて胴体がコンパクトであり、これは飛翔時に発生するコストを最小化してるのではないか」といった感じの記述を拾えた程度で終わってしまいました。

重心の問題とは限らない
首の構造からみた視点


 本を読んでわからないことは、直接専門の人に聞いてみるのがいいと、博物館にメールで「アオサギがどうして首を曲げて飛ぶのか」を問い合わせてみました。鳥類が専門という方からいただいた返信によると、

・ツル類も首を伸ばして飛ぶが、サギ類と同様に首が長いため、首を伸ばして飛ぶと重心が前寄りになる
・ヨシゴイやゴイサギなどはサギ類でも比較的首が短い方だが、首を曲げて飛ぶ
・アオサギも時には首を伸ばして飛んでることがあるが、さほど不都合はなさそうに見える

 「こうした点から、重心の位置が関係ないとは限りませんが、他の理由もあると考えられます」とのこと。そして、「S字状に曲がるサギ類の首は、曲がる場所が決まっていて、骨の構造から曲がりやすくなっています。これは首を曲げて待機し、獲物を見つけたら、素早く伸ばして捕食するという採食行動と関連しているのでしょう。そのため、サギ類の首はそもそもS字に曲げた状態が安定しているのかもしれません」といった回答をいただいております。確かに、首の短いサギ類が首を曲げて飛んでいる姿を私も観察したことがあるので、重心の安定性を保つために首を曲げる、という考えは薄いかもしれません。

 またツル類について「ツル類の首の骨は、細かい針状の構造が頸椎と頸椎をつないでおり、真っ直ぐに伸ばした状態で安定するような感じになっています。ツル類の首はあまり曲がりませんし、一つずつの頸椎を切り離すのに苦労します。サギ類とツル類の首を曲げて飛ぶかどうかの比較では、こうした頸椎の構造の影響が大きく、楽な姿勢をとってるだけではないかと思います」といった回答をいただきました。これまで、ツル類とサギ類の骨格標本の写真を撮影したことがないため、機会があれば撮影して、よく観察してみたいところです。

 野鳥が好きでたくさん観察してきたつもりではありますが、身近な鳥ですら、まだまだわからないことがたくさんあります。今後も自然と触れ合いながら、たくさんの「なぜ?」に向き合って、記事にまとめていきたいと思います。

参考文献
・永井真人(著)、茂田良光(監修)『♪鳥くんの比べて識別! 野鳥図鑑670 第3班』文一総合出版 2019年
・桐原政志(解説)、山形則男・吉野俊幸(写真)『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版 2009年
・秋山幸也『見つける 見分ける 鳥の本 身近な野鳥のヒミツがわかる!』成美堂出版 2020年
・叶内拓哉『くらべてわかる野鳥』山と渓谷社 2015年
・川上和人(著)、中村利和(写真)『鳥の骨格標本図鑑』文一総合出版 2019年


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