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検証記事: IR noteマガジンは投資家の行動にどのような影響を与える?

こんにちは、Figurout 代表の中村です。
上場企業の株価や時価総額といった指標をウォッチし、IR活動の影響度を分析するIRダッシュボードツールを提供するなど、「IRのDX」を手掛けています。
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今回、note社と共同で、2023年3月に立ち上がった「IR note マガジン」について、株価や出来高に対してどのような効果があったのかの検証プロジェクトを行いましたので、その内容をご報告させていただきます!

note 社のリリース記事はこちら


IR note マガジンについて

まず、 IR note マガジンについてです。

こちらは、ツクルバIR担当の重松さん(当時)が発起人となり、note 公式がマガジン化した記事シリーズです。8月31日現在、51社の上場企業が参加し、340本を超える記事がマガジンとして公開されています。もともと発起人の重松さんが所属していたツクルバ社はじめ、「note でIRの発信を行う」という取り組みを行う企業は数社ありましたが、「マガジン化した方が投資家の注目も集まり、IR側が発信するメリットも大きくなり、note における投資家/IR双方のコミュニティも活性化するのでは」という趣旨でマガジン化が行われたと聞いています。
IR note マガジンの発足は 2023年3月23日で、この取り組みは日経新聞にも取り上げられるなど、中小型株のIR界隈では話題になりました。


今回の効果検証の方法について

続いて、今回どのような形で分析を行ったのかを簡単に紹介したいと思います。

対象期間:2023年3月23日~2023年7月19日

こちら、株価や出来高の分析、比較対象機関についてはIR note マガジンが始まった日を基準とし、分析に着手するタイミング(7/19)までの約4か月間のデータを分析対象としています。


対象企業:IR note マガジンに 3/23に参画した31社の上場企業とそのベンチマーク

今回、「IR note マガジンの効果を分析する」というお題でしたので、IR note マガジン発足時に参画した31社を対象とし、それ以降に参画した企業のデータは対象としておりません。
また、競合ベンチマーク企業については、恣意性を排除するため、企業分析ツール・バフェットコード(https://www.buffett-code.com/ ) が提供されている類似企業比較機能から、参画各社に対して時価総額が上下2社(合計4社)を抽出して平均値をベンチマーク指数として用いました。(一部、対象企業が上下4社取れない企業は上下2社のみを対象としました)


IR note マガジン参画企業各社に対して、競合とみなせる企業のうち時価総額が上下2社ずつの平均値をベンチマーク指数として用いた
引用: https://www.buffett-code.com/company/5243/

分析結果

分析結果① 株価に対する分析

株価については、マガジンを立ち上げた3月23日を基準としてその後のパフォーマンスを比較しました。
今回の検証の結果、 IR note マガジンの参画企業は、各社競合ベンチマーク企業に対して、4か月間で平均4.9% ほど株価がアウトパフォームしている、という結果となりました。対グロース指数でみると6.7% とさらに乖離が大きくなっています。


グラフを見ていただくとわかる通り、青(参画企業)と赤(その競合)のチャートは全体として日々かなり近い動きをする中で、じわじわと青のラインはその乖離幅を増やしています。
3/23 のリリース直後は日経新聞で取り上げられたことなどから一時的に株価が上がりましたが、その後一時は揺り戻しによりベンチマークよりも下方水準で推移しました。しばらくは同水準で推移していましたが、時間が経つごとにベンチマークとの乖離が大きくなっています。
株価についてはマガジン参画企業は競合に対して有意なアウトパフォームを見せた、と結論づけてもよさそうです。

分析結果② 出来高に対する分析

Figurout では、HoooldersAnalytics というIR分析ダッシュボードサービスで、適時開示やプレスリリースなどが株価や出来高にどう影響を与えたのかをウォッチする機能を提供しています。
https://lp.hooolders.com/
これらの取り組みの中では経験上、「ニュースやリリースは、株価よりも出来高に対して直接の因果を生みやすい」と感じていました。
株価は水物で、様々な要因により動きます。上方修正が出たのに「期待したほどではない」と逆方向に値下がりすることもあるなど、分析もなかなか一筋縄ではいきません。
一方、出来高については、開示やニュースが大きければ大きく動き、インパクトがなければ無風である、という点から、ニュースやリリースのインパクトを評価するうえでは株価より出来高の方が現実的ではないか、と考えていました。
その経験を踏まえて、今回の IR note マガジンについても、出来高に対する影響度を分析してみました。
1.マガジン開始以前と開始以後の90日(四半期)の平均出来高比較
出来高については決算や開示情報などで日々大きく変動します。まずは、対象企業もベンチマーク企業も基本決算時期を含むよう、90日ずつを比較対象として、マガジン開始以前と以後での出来高の伸び率を、ベンチマーク企業と比較しました。


IR note マガジン参画以前と以後の一定期間(四半期)の平均出来高伸び率

IR note マガジン参画以前と以後の一定期間(四半期)の平均出来高伸び率
IR note マガジンの参画企業の出来高伸びの中央値は約1.5倍 と全体として伸びている一方、ベンチマーク企業もほぼ同じ水準の値となっており、タイミングとして市場全体として活性化しただけでマガジン参画企業の出来高が伸びた、ということはデータからは言えなさそうです。

2.PVの大きさと出来高の伸び率の比較
次に、「PVが大きい記事が出た日は、出来高も大きく動いているだろう、という仮説のもと、横軸に各記事の投稿日とその翌日のPV、縦軸にその記事が出た日の前日と翌日の出来高の伸び率を各記事でプロットしてみる、という分析を行いました。(下図)


IR note マガジンの記事におけるPVと出来高への影響度の相関分析

こちらの結果についても、PVが多いと出来高の伸びが大きくなるかというとそうでもなく、マガジンが出来高に対して有意なインパクトを与える、という示唆は得られませんでした。

結果に対する考察

今回の分析の結果、IR note マガジンにおける情報発信の株式市場に対する影響度は

  1. 株価に対しては大きく有意な影響を与えている

  2. 出来高に対しては有意な影響を与えていない

という結果となりました。
これはどのようなことを示唆するのでしょうか。私の出した結論は、

  1. 業績やIRへの取り組みにより株価が好調になる要素を持った企業が多く参画している。

  2. 因果としては、何かのきっかけでその会社の株式購入を想起して企業を調べている投資家が、noteでの情報発信に接しその企業の魅力をより深く知ることにより、購買意欲の向上や妥当株価目線の向上に繋がり、購買に至る歩留まりを高める影響を与えている

ということが起こっているのでは、というものです。
投資家が株を買うまでの投資行動をモデル化すると、下記のような形で表現することができます。


投資家の購買行動プロセスモデル/Figurout 中村作成

投資家の購買行動プロセスモデル/Figurout 中村作成
認知:投資家は、何かのきっかけでその企業を投資対象の可能性として認知する
詳細調査:認知し興味を持った銘柄に対して、投資家は各々の視点で調査を行い、投資対象とすべきかどうかの判断を行う
リストイン:株については「いくらで買うか」が重要なので、「●●という条件になったら購入を判断する銘柄」という形で各投資家の検討リストに入れられる
購入:それぞれのトリガーとなる事象があった際に、投資家が購入行動を行う
IRコミュニケーションの影響度を判断するうえで難しいのは、通常のマーケティングと異なり「リストイン」という形で潜在顧客がプールされ、それぞれのトリガータイミングで購買していく、という独特の行動様式にあります。
決算発表などは、「リストインユーザーが一斉に動くタイミング」のため、株価と出来高に対して大きな影響を与えます。
また、インパクトの大きい開示やニュースは、それをきっかけに多くの投資家が認知し、「ポジティブニュースはその後株価がしばらく上がるため認知したときが買い時」という性質から直接的に出来高が動きます。
一方、説明会やメディアでの発信などは、「リストインユーザーを増やす」という取り組みのため、株価や出来高のチャートからダイレクトに影響が読み取りにくいです。
また、情報の性質により、「短期/長期」「値上がり/利回り」といったどのような条件を重視する投資家の行動に影響を与えるかも異なってきます。
今回の分析では、IR note マガジンは主に「長期投資家のリストイン率/妥当株価目線」に対してポジティブな影響を与える取り組みとなったため、出来高には有意な影響がなく、株価に対してのみ有意な効果が得られているのではないかと考えています。
(投資家にインタビューをしていても、「note とかログミーなどのわかりやすい媒体を用いて、投資家に対してオープンな姿勢をとっている会社には好感が持て、もうちょっと調べてみようかなと感じる」とおっしゃる方が複数いらっしゃいました)


今回の分析を通じて感じたこと

今回の分析を通じて、個人的に感じたことは以下の2点です。

  1. やはりベンチマーク企業数社の平均と自社の比較は有効な分析手段

  2. 「"翌日"など日付を区切った短期的な株価や出来高へのインパクト」はわかりやすいが、投資家の行動の一面しか読み取れないので注意が必要

1.の競合平均との比較については、手法としては以前から検討していたもののサービスには実装できていませんでしたが、今回の検証を通じて「なるべく早く実装せねば!」との意識を強くしましたので、次の機能アップデートでは実装与件に組み込む予定です!
2.についてはすぐにアクションは難しいですが、今後も今回のような分析事例を通して、投資家の行動をデータでひも解く解像度を高めていきたいと思います!

まとめ

IRの取り組みとして、投資家向け説明会やメディアでの情報発信、IRサイトや資料の充実が大事である、ということは当たり前のことですが、そういった施策が「定量的にどのように企業の評価に影響を与えたのか」については検証が難しく、あまり評価や分析の事例は公開されていません。
IRの方にとっても、普段行っている投資家コミュニケーションが投資家の行動(≒ひいては企業価値)に対してどのように影響を与えているのか、本記事が参考になるところがありましたら幸いです!

告知

Figurout では、今回の分析のようにIR施策の効果検証を行い、自社と競合の株価・出来高の状況をウォッチするIR分析・ダッシュボードツール Hooolders Analyticsを提供しています。
無料トライアルも提供しておりますので、ぜひお試しください!


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