熱を入れすぎたことに気付き我に返る(主要事業者の今後のアクション)
こんにちは。マーケティング視点で読解力を高めるノートです。
今回は、QRコード決済のサービスが勃興し、開始から約5年が経過した現在地と、大手事業者による短期のアクションについて考えて(想定)みたいと思います。
QRコード決済市場の現在地ですが、キャッシュレス推進協議会が公表している「コード決済利用動向調査」によると、22年12月時点の店舗利用金額は約10.8兆円、月次で6千万人が利用するサービスの規模となっております。
また、2023年7月7日に発表された1月から3月の店舗利用金額の平均値を元に、2023年の事業規模を試算してみると、1月から12月までの1年間で、少なくとも13兆円を超える規模に成長すると推定されます。
事業者単位で見ても、PayPayの登録ユーザーは23年6月末時点で約5,837万人(ZHD:23年度第1四半期決算発表)、d払いの登録ユーザーは23年3月末時点で5,199万人(NTTドコモ:23年4月25日発表)と、大手の事業者はすでに数千万人規模のサービス登録者を確保したとみられています。
加盟店に目を移すと、楽天ペイの約600万か所を筆頭に、PayPayが410万か所等、d払い、auPayも含め、各社が400万か所以上の利用拠点の確保に成功したことがわかります。
ここまでの先行投資により、大手の事業者は、数千万人単位のサービス登録者、数百万か所の加盟店などの事業基盤を確保することができたため、今後は、事業としての採算性を高め、収益化を目指すフェーズへ移行することが予想されます。
1.売上確保を目指す動き
(1)クレジット利用者を確保
PayPayは、2023年5月1日にPayPayカード以外の他社クレジットカードの支払いを停止する方針を発表しました(その後、6月22日に同方針を撤回、2025年1月まで適用開始時期を延期すると発表)
この方針転換は、PayPay利用者を自社が発行するクレジットカード(PayPayカード)へ誘導し、2023年3月期に営業収益613億6500万円、営業利益60億8900万円、最終損失89億9300万円にとどまっているクレジットカード事業の事業規模や収益の拡大を企図した動きだと考えられます。
今後、大手事業者は、キャッシュレス市場において、自社グループが提供するクレジットカードを事業の中心に据え、QRコード決済の利用者を自社クレジットカードへ誘導するための戦略、施策を展開することが予想されます。
(2)加盟店からの収入を増やす
PayPayは「PayPayマイストア」、ドコモは「スーパー販促プログラム」といった有料の加盟店向けサービスを提供を開始しています。
これらのサービスを利用することで、加盟店はQRコード決済の利用者向けアプリ上でクーポンやスタンプカードなどを発行したり、店舗独自の情報を配信したりすることができます。こうした集客や販促支援のプログラムを通じ、加盟店手数料以外の追加収益の確保に向けた動きが、さらに加速すると考えられます。
2.費用削減
(1)事業原価の削減
QRコード決済を利用する際のチャージ方法として、他社クレジットを排除し、自社が発行するクレジットカードに一本化する(あるいは、締め出すという手段ではなく、誘導する)という方針は、他社クレジットカードから残高へチャージされる際に、クレジットカード会社へ支払う加盟店手数料の負担が大きいことを意味しており、QRコード決済事業の構造をサスティナブルなものに変えていくために必要な取組みだと考えられます。
(2)販促費の削減
毎月のカード支払い額の1%(端数は切り捨て)から、毎回の支払いごとに、1%(同)のポイントを付与する形に変更。(毎回の買い物ごとに100円未満の端数が切り捨てられる)
変更前は消費税がポイント付与対象金額に含まれていたが、変更後、消費税の分はポイント付与の対象外へ
au PAYカードでau PAY残高へチャージをする際、変更前は1%ポイント還元だったものが、変更後は付与対象外となり0%へ
上記の事例は、競合の水準を横目で見ながら行われており、自社カードへの集中策や、ポイント付与額の「税込価格」から「税抜価格」への変更、クレジットカードとQRコード決済を紐づけてチャージする際のポイントの二重取りの終了等、各社一様に(横並びで)ポイント販促費の絞り込みを図っており、一度の決済で顧客に還元されるポイントの総量は、1社だけでなく、業界全体として減少していきそうです。
キャッシュレス周りの動きにご興味がある方は、電子書籍「ID・データ保有者による経済圏競争の半歩先の未来」も、あわせてご覧いただければと思います。ここまで、ご一読いただき、ありがとうございました。
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