LineとYahoo!なぜ統合へ?
こんにちは。
マーケティング視点で読解力を高めるノートでは8回にわたり、アフターデジタルの社会とOMOについて読み解いたことをおすそ分け致しました。今回は番外編として、「LineとYahoo!なぜ統合へ?」をお届けします。
アフターデジタル社会とOMOを読解するノート
-なんでこのタイミングでQRコード決済-
1.LINEとYahoo! JAPANの経営統合を検討している
マーケティングで読解力を高めるノートでは、2019年11月前半に、なぜこのタイミングでQRコード決済、というテーマを置き、OMOを志向する大手プラットフォーマーがQRコード決済に参入し、苛烈な競争を繰り広げているのか、という疑問を解消するため、ソフトバンク、Yahoo!、ドコモ、KDDI、メルカリ、そしてLINEを含め、各社の思惑や、還元原資を負担せざるを得ない事情、そしてQRコード決済事業の先で、どのような未来(マネタイズ)を描こうとしているのかを、中国のAlipayモデル(アリババ)を下絵として、8回にわたって読み解くノートをお届けしてまいりました。
本ノートをマガジン化し、このテーマは一件落着としたところ、この業界の
時間の流れは速く、環境変化が大きいものだ、と実感した大きなニュースが
飛び込んでまいりました。それが、LINEとヤフーの経営統合(協議中)です。皆さんも、かなり驚かれたのではないでしょうか?
13日夜、「LINEとYahoo! JAPANの経営統合を検討している」と日経新聞などが報道したわけですが、14日朝、両当事者が「検討しているのは事実」と報道を認める声明を発表し、本日16日(土)には、経営統合に合意することが
分かったとして、上記の記事内では。20年中の統合完了を目指す、とあります。経営統合により、利用者が1億人規模に上る国内トップのインターネットサービス企業が誕生することが確定的になったことがわかります。
LineとYahoo!の経営統合件は、私が13日(水)に会食をしている際、別の企業に勤める友人からのメッセージで知りました。ちょうど、マーケティング視点で読解力を高めるノートを通じ、8回にわたってOMOを目指すプラットフォーマーについて整理してきた私にとって、「ど真ん中案件」でしたので、このビッグニュースに対し、大変興味を持ちました。
そこで、14日、15日の二日間、今回の経営統合協議の裏側にある背景や、そこに至る経営者の視点や、Lineがどのように内外環境を捉えていたのか、統合協議に至る事業戦略上の課題感や論理展開について読み解いてみたいと考え、この度-なんでこのタイミングでQRコード決済-の番外編として、「LineがYahoo!なぜ統合へ」をお届けすることにしました。
本件読解の前提として、OMOを志向するプラットフォーマーが目指す一つのゴールであるAlipayモデル(アリババ)に近づくための必要十分条件をチェックポイントとし、収益性を高める可能性や本件統合効果が、どの程度見込めるのか、その効果のほどを、検証してみたいと思います。
次章では、なぜ、このタイミングでLineはYahoo!との統合を検討することになったのか、読み解いた結果をお裾分けいたします。
2.OMO事業モデルからLineの現況と近い将来の着地を考える
Lineがソフトバンク、Yahoo!との経営統合協議を受け入れた背景にはどのような理由や事情があったのでしょうか?私は、Lineの事業の成否を大きく左右するだろうと考えられる3つのポイントから、経営統合協議に至った理由を整理いたしました。
Line株式会社の2019年12月第3四半期決算から、Lineは事業セグメントを
コア事業と戦略事業に分け、コア事業では「コミュニケーション、コンテンツ」と「広告事業」、戦略事業には「O2O」や「LinePay」「Fintech/Ai/コマース」という分類で説明をしています。
この中で私が着目したのは「コア事業」の中の「広告事業」と、戦略事業の中の「LinePay」そして「Fintech」の中に含まれていると考えられる「Lineほけん」の収益費用および獲得件数や今後の見通しです。
No.4 誰もが目指す一つのゴールAlipayモデル、でご紹介したAlipayモデルに置き換えて考えると、有効なIDを取得し、加盟店を広げるというSTEP1の役割が「LinePay」に与えられているものです。また、OMO事業者が目指す
マネタイズ領域であるSTEP3には、「広告」や「金融」があり、Lineの「広告事業」、「Fintech」の現況を見ることで、将来の見通し、事業成長の確度が見えてきそうです。
それでは、具体的に、Lineの現況と将来の見通しについてチェックしてまいりましょう。まずは、Lineの広告事業、LinePay事業、そしてFintech事業の数字と現況を簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。
まず、Alipayモデルに向かうSTEP1、有効なIDを取得するための事業「LinePay事業」を見てみます。図表の真ん中にある、LinePay事業ですが、第2四半期には97億円の販促費をはたき、利用者への還元キャンペーンを行い、500万人弱の利用者を確保したものの、第3四半期はLine全体の大幅な営業赤字が見込まれていたこともあり、緊縮財政へ移行したことがわかります。
ユーザー還元を8億円規模まで絞り込んだところ、もともと利用者価値が低いQRコード決済であり、利用者は、複数のQRコード決済、〇〇Payを還元の大きさ、お得さによって使い分けを行うため、他のQRコード決済、例えばPayPay等に流出してしまい、一気に200万人のMAUを失うことになりました。
これは、Lineにとって3つの残酷な事実を突きつけました。一つ目は、この金額規模で販促費をはたかない限り、自然体ではLinePayの利用者を確保することが叶わない、というQRコード決済の商品性の乏しさ。そして、QRコード決済を通じて、将来のマネタイズに資する礎としての有効なIDを再取得することは、Lineの体力だと叶わない、ということです。さらに、ソフトバンクグループのPayPayが稼いでいる有効なIDの分母との差も、取り返しのつかない規模になりつつあります。
PayPayは既に1900万人の利用者(MAUではなく情報登録者)を抱えていることを発表しておりますが、上記の新聞記事内の比較表にあるLinePayの利用者は、グローバルの利用者をカウントしており、実際の国内情報登録者は500万人に留まることがわかっています。
Lineが統合協議に臨まんとする理由の1つ目は、有効なIDを取得する戦いで、
No.1の座を獲得することが難しく、有効なIDベースも、2千万ID、3千万IDという規模感に育てようとすれば、事業継続が危うくなるほどの規模感で費用をかけ続けないといけないが、その体力を備えていない、という事実を突き付けられたからだと考えられます。
確かにLineは国内で8千万人超の利用者を有していますが、この先のマネタイズで必要なIDは、必要要件を満たした有効なIDです。現在私の見立てではLineが有するOMO時代に必要な有効なIDは500万人規模、ということになり、このIDの上に積み上げていく広告や金融の土台としては、面積が足りず、ひ弱な事業基盤になってしまいます。
この有効なIDを取得する、祖業のIDでは足りない部分を補うための競争で、Lineは大きく後れを取り、挽回が難しい状況に陥った、と経営側は既に判断しているのではないでしょうか?
続いて、戦略事業の中の「広告事業」です。Lineはユーザー分母をが8200万に到達したSNS、コミュニケーションサービスで日本最大のプラットフォームですが、基本的には無料で使えるサービスであり、この分母を生かした広告事業で、この先、大きな成長が見込めるのか、という視点で決算を眺めてみると、国内のネット/デジタル広告費の成長速度に合わせて、収益を拡大していけると思いますが、その成長角度は緩やかであり、数年後に2倍の規模、3倍の規模になるかと問われると、はなはだ疑問が湧いてきます。
Lineの四半期ごとの広告事業、特にディスプレイ広告事業の成長は、横ばいとまでは申し上げませんが、前四半期に対し、大きく伸長しているわけではないことが見て取れます。18年度第3四半期が139億円の売上のところ、19年度第3四半期が151億円。季節要因もあると思いますが、19年度第2四半期の実績が156億円ですから、それほど大きな成長を見せている事業ではないことが見えてきました。
Lineは8200万人に情報を届けるツール、メディア、媒体を有しておりますが、何らかの大きなブレイクスルーがない限り、これだけのIDを持っていても、広告事業を倍々ゲームで伸ばしていくことは、困難であると、経営側は
理解しているのではないでしょうか?
そして、ブレイクスルーを起こすために必要な機能が2つあり、その一つである、有効なIDの取得は、自らの資金と事業リソースだけでは足りないとジャッジがされた状態です。そして、もう一つのパーツについては、次章でご説明を差し上げます。
3つ目が、戦略事業の中の「Fintech」、事業名で申し上げると「Lineほけん」が与えた衝撃です。本件については、ダイヤモンド編集部がまとめた以下の記事を拝見し、数字感をまとめたものです。
こちらの記事の中で、Lineほけんの足元の現状が理解できます。まず、LINEほけんのお友達登録をしてくださった方が930万人、そのなかで2019年10月現在の契約者が26万人、そして、その7割にあたる方が一部商品の期間限定無料契約であり、真水の有料会員は7万人、お友達登録者に対する契約率は0.8%に留まっている、というのが現況の説明になります。
OMOを志向する事業者の最終ゴール、収益化の方法論として最も期待されている銀行業、金融業での収入確保の可能性を考えた場合、Lineほけんの低調さの理由についても、有効なIDの分母の数量から説明できる部分がありそうです。
まず、8200万IDはOMOプラットフォーム事業のために有効なIDとは呼べません。その内数のお友達登録の930万IDも同様です。このIDに欠けている機能は、「支払口座」です。「スマホ保険」や「自転車保険」「ゴルフ保険」など、保険料が数百円といった小口の損害保険をいくらご案内しても、支払い用の銀行口座やクレジットが事前に紐づいていていないと、そこから会員情報を入力し、本人性の確認を行い、必要な手続きに進む過程において、相当数の利用者が、「メゲて」離脱してしまいます。
従って、現状のLineほけんが低調な理由は、保険業界を取り巻く環境からも、複数の事業説明が行うことができますが、OMOを志向するプラットフォーマーが下絵にするAlipayモデル(アリババ)をチェックポイントとすると、有効なID分母が十分にない状態で、STEP3の事業を積み上げようとしたため、有効に作用しなかった、と説明できるのではないかと思います。
3.経営統合で解決すること、しないこと
この項ではLineとYahoo!が経営統合することで解決すること、しないことを
考えてみたいと思います。
本件統合の効果と、統合後も解決しないことを、簡単にまとめましたので、
以下の図表をご覧ください。解決しないことは、前項の広告事業でご紹介したブレイクスルーを起こすために必要なパーツにあたるため、あわせてご説明差し上げたいと思います。
1つ目に、本件経営統合によって、Yahoo!およびLineが獲得するものとして最も大きな成果は、上記の図表の左手に記載した、OMOを志向するプラットフォーマーが将来のマネタイズの為に欠かせない「有効なID」の分母を、現時点でも日本で最大規模に拡張することができることです。
Lineから見れば、前項で申し上げた「Lineほけん」で、収益化を目論むとすれば、「正確な個人情報」、「確実な同意許諾」、何より「支払い口座」を持つ、有効なIDに対してアプローチすることで、保険成約のコンバージョンを高め、事業成立に必要な契約者分母を獲得できる、可能性が大きく高まります。
一方で、LineとYahoo!が事業を統合しても、例えば広告事業でブレイクスルーを果たすためのパーツを埋めることができないことがあります。それが、上記の図表の右手に書いた、LinePayとPayPayはQRコード決済のため、分母をいくら大きくし、日本全国で加盟企業、加盟店を200万拠点獲得したとしても、得られる情報は「決済履歴」であり、利用者のオフラインの行動理解に繋がる「購買データ」を得ることができません。
No.7 OMOプラットフォームの必要十分条件、でAlipayモデル(アリババ)を成立させる6つの条件をご紹介していますが、広告事業やO2Oの販促事業などでマネタイズしていく際に、Alipay(アリババ)が高度に活用しているのは、「オンオフ360度の行動理解」と「単品情報(商品情報)」でした。
オンライン、オフラインの購買データを、有効なIDで紐づけることで日常の消費行動を見渡し、どの商品を、どこのチャネルで購入したのか、どの程度の頻度とサイクルで、分量はどれくらい購入しているのか、といった購買データやWEBサイトのアクセス履歴、検索履歴、アプリの利用ログやTV番組やCMの視聴ログといったメディア接触データを含めた幅広いデータの取得と整備があって、生活者を360度から理解することができるようになります。
広告事業のブレイクスルーは、「購買データ」を活用した最適な顧客体験の設計や、360度の行動理解に基づくレコメンデーション、商品情報を含めたブランドマネジメントや広告出稿の最適化といったマーケティングソシューションを提供できるようになった先で、はじめて起こせるものだ、と言えそうです。
QRコード決済事業者であるLineもYahoo!も、加盟企業、加盟店から、購買明細データを預かることができないため、LineとYahoo!が事業を統合しても、「何を買ったのか」が分からない状態が継続してしまいます。
オフラインの流通小売から、利用者のIDに紐づく購買データをお預かりする方策を別に講じないと、この事業統合によって、いくらAlipay(アリババ)を目指すと宣言しても、本質的には近づくことができず、広告事業の領域でブレイクスルーを起こすことは難しいのではないでしょうか。
本件経営統合の効果を読み解かせていただいた結果、銀行業や金融事業をスケールさせるために必要な「有効なID」の分母を広げていく、という観点では、大きな成果が得られそうだという点、「広告事業」のブレイクスルーは本件統合だけでは起こすことが難しく、Alipay(アリババ)のようにオフラインの「購買データ」を入手し、有効なIDをもって、オンとオフの垣根なくシームレスに繋ぎ、360度の行動理解を行うための、別の座組の構築や、方策の検討が求められる、つまりストレートに課題解消につながらない、という点を、ご説明できたかと思います。
キャッシュレス、OMOプラットフォーム周りは、世の中の変化もそうですが、各プレーヤーが大きな経営判断を行い、ダイナミックに動いていますので、またこのような、OMOを志向するプラットフォーマーによる大きなアクションやアナウンスがありましたら、番外編として、読み解きを行い、Noteとしてお届けしたいと思います。
ご一読ありがとうございました。
宜しければ、-なんでこのタイミングでQRコード決済-
No.8 マーケティング視点でOMOを読解した結果、も併せてご覧ください。
ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。
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