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金を叩いても頭打ちの構図

 こんにちは。マーケティング視点で読解力を高めるノートです。

今回は、キャッシュレス推進協議会が公表している「コード決済利用動向調査」をもとに、クレジットカードとQRコード決済、そして共通ポイントを提供している主要な事業会社がそれぞれ数千億円単位で大規模なポイント還元を継続しているにも関わらず、流通取引総額、利用件数には頭打ち感がある、というQRコード決済の実態について、ご紹介します。

 コード決済利用動向調査は、四半期ごとに「店舗利用金額」、「店舗利用件数」、MAU(月間アクティブユーザー)等の数字を公表しているもので、現在では、コード決済を提供している18社の協力の下で提供された数字の集計値となっています。

 このコード決済利用動向調査の結果のなかで、年間の店舗利用金額と、MAU(各サービスの月間アクティブユーザー数の総計であり年間は各年の12月末時点の数字)をグラフ化したところ、22年12月時点の店舗利用金額は約10.8兆円、月次で6千万人が利用するサービスの規模となっており、約5年間で、大きく成長したことが見て取れます

2018年~2022年(12月)までの店舗利用金額とMAUの推移

 QRコード決済の利用金額や利用者の規模は、今後も、順調に成長していくのでしょうか?年間の集計値の推移をみれば、今後も成長が期待できそうですが、月次の集計値の推移を見る限り、そうとは言い切れないコンディションにあるのではないかと考えられます。

 以下の図表は、22年10月~23年3月の「QRコード決済店舗利用金額」と「QRコード決済店舗利用決済件数」の推移です。

直近だと2022年12月が最大値で23年3月も22年12月の水準を若干下回る規模

 2022年12月に、約1.25兆円だった店舗決済金額ですが、2023年1月と2月は、約1兆円に減少しています。同様に、店舗利用件数は、2023年12月に約8億回でしたが、2023年1月と2月は6.5億~6.6億回に減少しております。

 2023年3月には、店舗決済金額、店舗利用件数とも2022年12月の数値を若干下回るところまで持ち直していますが、この集計値を見る限り、月によって、でっこみ、ひっこみが発生しており、リニアに伸びている状態ではないと捉えることができます。

 毎年、12月や3月の利用金額、件数が伸長することは、マーケットの季節変動トレンドとして一定理解することができますが、QRコード決済の店舗利用金額や決済回数を左右する要素として、大手事業者によるポイント還元キャンペーンの規模や還元総額の影響が大きいのではないかと受け止めています。

 2023年1月や2月が、2022年12月と比べ、利用金額や利用件数が減少し、23年3月に持ち直したのは、大手事業者が23年1月と2月のポイントキャンペーンを通じて自ら叩くポイント還元額の総額を絞り込んだからではないでしょうか?

 また、この期間のMAUの推移を見ると、2022年12月(約6千万人)、2023年1月(約7千万人)と約1千万人増加しているのですが、利用金額や利用件数が減少している中で、MAUが増えている理由を考えると、お客さまは、各社のポイント還元キャンペーンの規模を意識しており、複数のコード決済サービスの登録を済ませた上で、ご自身が利用する店舗において、当月、最も還元率が高く、メリットがある決済手段を店頭支払い時に選択している、という利用シーンが透けて見えてきます。

 23年に入り、大手事業によるQRコード決済利用時の特典が少しずつ減少し、期間限定のキャンペーンの規模も縮小している傾向が見受けられます。  
 この背景には、ポイント還元の負担増をこれ以上許容できないという、この事業が抱えるビジネス構造と経済性の問題がありそうです。

 上記の記事では、PayPayが今後順調に拡大し、決済利用金額が現在の2倍である15.8兆円に成長した場合、営業黒字化する、という簡易シミュレーションを行っておりますが、その際の営業利益額は2桁億円にとどまり、ここまでの先行投資額を回収するまでの金額規模にならないという結果になっています。

 そして、何より、22年~23年にかけての月次店舗利用金額や店舗利用件数の推移を見る限り、QRコード決済市場の成長速度は鈍化しており、踊り場に差し掛かっているようにも見え、PayPayやその他のQRコード決済の事業者が、今後、2倍、3倍と、取扱い規模を増やすこと自体、非常に難しいことのように感じます。

 今回は、主要事業者が年間数千億円単位の大規模なポイント還元を継続しているにも関わらず、QRコード決済の店舗利用額、利用件数に頭打ち感があり、今後の右肩上がりの成長には疑問符が付く、という現況をご紹介しました。

 キャッシュレス周りの動きにご興味がある方は、電子書籍「ID・データ保有者による経済圏競争の半歩先の未来」も、あわせてご覧いただければと思います。ここまで、ご一読いただき、ありがとうございました。

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