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リテールメディア市場への参入スタイルと立ち位置の考察

 2022年~2023年にかけ、自らの屋号名称を冠したメディアビジネスの事業化を目指す小売業者に加え、小売業のメディアビジネスの確立や事業実装、基盤開発を支援する周辺の事業者、そして、自らが事業主体(パブリッシャー)として自社名義のメディアを取扱い、メーカーが持つマーケティング費用や、その他、ノンエンデミック領域(小売と直接取引を持たないクライアント)の広告宣伝費を確保しようとする事業者による、市場参入の検討が進んでいます。

 今回は、リテールメディア市場の事業環境を調査・分析した上で、自社の持っている資産や強みを生かし、リテールデジタルメディア事業への参入を現在進行形で検討中の企業や事業者の中でも、小売以外の事業者に着目し、リテールデジタルメディア事業領域を分解した上で、参入時の制約や課題、前提条件を確認するとともに、小売以外の事業者が手掛けるメディアビジネスのポジショニング(立ち位置、軸足)を整理し、参入のパターンやオプションついて、見ていきたいと思います。


1.小売以外の事業者による参入領域の形態:事業主体が小売(支援型)

(1)オンサイト

【提供機能】
小売業のオウンドアプリ制作や運用プラットフォームを提供する法人が、支援先のアプリを繋ぎ、アプリ画面の一部スペースにキャンペーンや広告の掲載枠を設置するとともに、キャンペーン設計から運用までを提供するメディアビジネスの支援事業形態
(Yappli/D&Sソリューションズ/MGRe/DearOne 等)

【制約等】
小売業のオウンドアプリのダウンロード数やMAUが少ないため、単体だと広告出稿を集めることが困難化。一つ一つは小粒で媒体力が弱い小売業の複数アプリを束ね、流通横断でメディア力を拡張するアプローチを採ろうとしているように見受けられます。
ただ、小売毎に会員(利用者)とデータ管理が行われているため、ID、メディア接触履歴、購買履歴を流通横断でトータルに活用することが難しい、という制約があります。

(2)オフサイト

【提供機能】
リテールメディア事業の実装指南やコンサルテーションができ、他のインターネット広告やデジタルメディアとの組合せ外販に長けている広告代理店や、DMP、DSP、CDP等、データ活用基盤の開発し、OEM(基盤提供)で提供する法人が、複数の支援先名義のメディアを束ね、同時出稿を実現できるようにするタイプの支援事業形態
(広告代理店:電通グループ、博報堂DYグループ 等)
(アドテクベンダー:アドインテ、フリークアウト、マイクロアド 等)

【制約等】
複数の小売が取扱うメディアへ同時出稿した際の効果測定ができ、さらに、その出稿効果は、その他のインターネット広告とも横並びで比較可能なものとし、メーカーの広告宣伝予算の投下先が検討される際、1つのメニューとして認知されるようにするためのアプローチを採ろうとしています。
ただ、そもそも、リテールメディアを運営する小売業同士が、互いに競合関係にあることもあり、出稿時のフォーマットや、出稿効果を計る評価指標の物差しやレポート内容の標準化などが、円滑に進むか、不透明な状況にあります。

2.小売以外の事業者による参入領域の形態:事業主体が小売以外(自社名義)

(1)オンサイト

【メディアや商材】
B2C向けのサービスを展開しており、オウンドのWEBサイトやアプリ等を、広告や販促、キャンペーン等を案内する出面として利用できる企業が自社名義のメディアを外販する事業形態

小売業との距離が近いところで言えば、デジタル会員証、共通ポイント、QRコード決済のアプリ、レシート登録型の販促サービス、電子チラシ、特売情報、レシピやレシピ動画、商品口コミ等の機能を持つデジタルメディア上での、予約型広告、オンサイトへのディスプレイ広告、デジタルクーポン等が広告商材やメニューになる

【制約等】
自社のオウンドメディアやオンサイトへの広告出稿を確保するため、本業であるB2Cサービス自体の魅力を高め、日常利用のメディアへ育てる必要がある

※メディアとしての媒体力
・利用者の分母の多さ×アクティブ率の高さ
・利用回数の多さ×メディア接触時間の長さ

広告主(クライアント)が期待するリーチ数やインプレッション、フリークエンシー等の指標を達成するため、最低でも、4桁万人のデジタルID数(ダウンロード数ではなく登録者数)を確保し、数百万人単位でMAUを持つメディアとならない限り、媒体単価が低いままで、出稿を広く受けるに至らず、苦戦する可能性が高い、という制約があります。

(2)オフサイト

【メディアや商材】
自社運営のオウンドメディアや、B2Cサービスの提供を通じ、取得したデジタル化された顧客IDや識別子とDBを起点とし、配信対象者のターゲティングを行うとともに、連携する外部メディアに対する配信と合わせ、小売からお預かりしたPOS(購買履歴)を用いて広告出稿、配信効果を立証する事業形態。
(ロイヤリティマーケティング、フェズ、True Data 等)

【制約等】
iOSやAndroid端末の広告IDや、オウンドメディアへのアクセス者から取得したcookie(クッキー)、登録されたメールアドレスをハッシュ化したデータ等を用いて、外部のプラットフォームと接続し、広告配信と効果測定を行う場合、以下の問題が発生します。

・デジタル化されたID数の分母が少ない場合、配信可能な対象者数が限定的
・ターゲットと近い特徴を持つ人を選定し、配信対象者の分母を拡張する場合、最終購買に繋がったか否かを確認しづらい(広告接触の事実と来店や購買の相関が不明確)
・購買履歴をお預かりする小売の数が少ない場合、出稿効果を計る履歴のカバレッジに欠け、エリアを特定した形での分析も難しい
・配信可能なID数やお預かりする履歴のデータ量が少ない場合、商品分類のカテゴリを細かくする場合、商圏を指定する場合、特定の競合商品から広告対象商品のチャーンイン(ブランドスイッチ)を見るようなケースでは、対象のn(数)が出現しないことがある

従って、オフサイトの広告配信で収益化を図ろうとする場合、外部の連携メディア側が持つIDとsyncするデジタル化されたIDや識別子を、少なくとも数百万人単位で持つ必要がある他、購買履歴をお預かりする場合、複数の業態の小売業と連携し、全国を広くカバレッジできるよう、いわば、協力小売のシンジゲートを組む必要があります。

(3)店頭(インストア)

【メディアや商材】
店舗へ入店してから商品を選択し、決済を終え、退店するまでの導線上に置かれたレシピ動画、棚前の商品紹介動画、セルフPOSのスクリーンや、決済後にプリントされるPOSクーポン等、小売業の店頭環境や機器を活用する広告を外販する事業形態
(インテージ、エブリー、クックパッドTV、カタリナマーケティング 等)

【制約等】
リテールフロントメディア型の商品は、広告視聴者の個人認証(特定)の仕組みを、物理的に作りようがない機器がある他、小売側が持つデジタルIDを利用しないと認証が難しいという制約があります。これにより、小売業以外の事業者が自社の顧客IDを使用して店頭に設置されたメディアを運用する難易度が高くなっています。

上記の制約から、デジタル化された顧客ID単位での広告出稿効果の検証は難しく、さらに、リテールフロントメディアを設置した小売店内に配荷がない商品や在庫がない商品に関する広告や販促情報を配信してしまうと、店頭では、即苦情に繋がってしまいます。

また、広告や販促対象の商品と、店頭のスクリーン等に投影されるコンテンツとの間で同期を取るには、小売業の商品部との連携が不可欠になるため、取組みの自由度が低まる点にも留意する必要があります。

3.メディアビジネスとしての立ち位置の整理

(1)軸の説明

 ここでは、小売以外の事業者によるメディアビジネスの立ち位置について、整理をしていきたいと思います。

 まず、メディアビジネスに取組む事業者については、自社に帰属するデジタルID・データ、メディア、ハード、ソフト、人的資源をもって、自社名義でメディア事業へ参入する事業主体者と、取引先である小売業のメディア事業を支援する立場で、ハード、ソフト、人やスキルなど、小売業の機能の過不足を補う支援者、という立場に大きく分けることができそうです。

 加えて、情報接触ポイントを、購買ファネルの導線上のどこに設置するかによって、二分することができます。一つは、情報接触ポイントを売場の中に設置するリテールフロントメディア、もう一つが、来店前と来店後のタッチポイントを売場外、とくにオンライン上に設定するメディア、という分け方をすることができます。

(2)立ち位置×タッチポイント

事業展開時のドメイン・立ち位置に関するマトリクス

①左上の領域:設備投資型ビジネス
自らメディア/スクリーンを持つハードを設置。配信制御の仕組みとコンテンツ編纂の権利を持ち、自社名義のメディア上の広告枠を、設置小売と取引のあるメーカーやその他のクライアントへ外販する(※設置小売業へは場所代見合いの費用を支払う)

②右上の領域:仕組み提供型ビジネス
小売業によるリテールインストアメディアビジネスの実現を支援。スクリーン付き機器の外販、ハードへの広告配信を制御する仕組みやCMS(コンテンツマネジメントシステム)、アドシステムの開発、外販営業やインストアメディアの運用支援、広告出稿効果のレポーティング等、小売業の機能過不足を補う(※小売業から対価の支払いを得る)

③左下の領域:自社のB2Cサービス活用型
自らC向けのサービスを開発、提供することで会員化を推進。自社メディアへの広告受入れ(オンサイト)と、会員の同意の下で、デジタル化された顧客IDや識別子を用いる外部メディアへの配信と広告出稿を証明可能な商材を外販(※直接広告主や広告代理店から出稿費を収受する)

④右下の領域:機能提供または接続型
自ら開発したC向けサービスの機能をAPIで供与したりOEM型で展開(ホワイトラベル)する。または、自社が提供するC向けサービスのメディアに設置する広告枠を、小売に帰属するIDやDBを活用した配信が可能な提携メディアとして開放する(※小売業から機能提供の対価を得る)

 本note記事をご覧いただいている皆様が所属する企業の業種業態や、業務内容、メディアビジネスに対する取組みのステータスは、様々だと思いますが、それぞれのお立場から、現在、既に展開中のメディアビジネスや商材、メニューが、どこのポジションに位置づけられるか、あるいは、今後の事業構想化や参入に向けた調査やフィージビリティの検証を行う際の点検等、皆様の業務における用途や目的と照らし、前述した事業展開時のドメイン・立ち位置に関するマトリクスを、ご活用いただければ、幸いです。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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