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Walmart Connect:自社EC起点の広告内製化プラットフォーム

 今回は、米国におけるリテールメディアでNo.2のポジションにあり、現在、No.1のAmazonAdsを急追する、ウォルマートの広告事業であるウォルマートコネクト(Walmart Connect)を取り上げ、この事業モデルから、米国型リテールメディアの特徴を整理していきます。

 2021年1月末に、ウォルマートは、デジタルマーケティングの内製化を企図し、デジタル広告を扱う部門を「Walmart Connect」として再編。それ以降、デジタル広告ビジネスを成長させるため、さまざまな取組みを、足早に投入しています。

 現在、Walmart Connectは、ウォルマートのデジタル広告を扱う部門の名称であり、ウォルマート名義の広告メディアやプラットフォームの総称として利用されています。


1.米国型リテールメディアの出自を読み解く

 ウォルマートは米国50州に約4,700のスーパーセンターやディスカウントストアを運営する米国最大のスーパーマーケットチェーンですが、ECの取扱高もAmazonに次ぐ全米第2位の事業者であり、米国内のEC市場のシェアを8.2%持っており、2023年1月期の決算によると、その売上規模は前年比12%増の530億ドルに達しています。

出典 ジェトロ デジタル貿易 図表Ⅰ-64 主要国のEC市場における動向

 EC市場では米国で第2位にランクされているウォルマートですが、食料品を中心とした商品(グロッサリー)に限ると、2020年以降、一貫してAmazonを上回る取扱い高であり、米国No.1の食料雑貨ECサイトの地位を確立しています。

出典:Walmart’s retail media network: What advertisers need to know

 ウォルマートのECの特徴は、Amazonと異なり、全米に張り巡らされた店舗網を活かしたクリック&コレクトに強みを持つ点にあります。生鮮三品については、宅配よりもクリック&コレクトが好まれる傾向があり、ウォルマートの実店舗で引き取る、カーブサイドピックアップサービスは完全に市民権を得ており、2022年にクリック&コレクトの年商は230億ドルを超える規模まで成長しています。

出典:Walmart’s retail media network: What advertisers need to know

 また、ユーロモニターインターナショナルの調査を見ると、ウォルマートは2022年米国の食品ECのカテゴリで、乳製品・代替品の31%、調味料・調理済み食品の21%、主食類の32%のシェアを獲得していることがわかります。

出所:ユーロモニターインターナショナル

 このように、米国の食品雑貨のECにおいて、ウォルマートとAmazonは圧倒的な存在となっており、両サイトは米国最大級の商品売り場であるとともに、多数の顧客が訪れ商品を検索する巨大な検索エンジンであり、購買時点と近い距離で顧客の購買行動に直接影響を与えることができる強力なメディアであることがわかります。

ウォルマートのECサイト「walmart.com」

 ウォルマートについては、現在、米国の食品雑貨EC市場におけるNo.1リテーラーであり、前述したユーロモニターインターナショナルの調査では、生鮮食品を除いても、同社のシェアは2023年第1四半期時点で28%に上るようです。

 FMCG(Fast Moving Consumer Goodsの略:消費者向けの低価格の製品)領域で、多額の広告宣伝費を持つナショナルブランド企業は、ウォルマートの物理拠点に対する期待もさることながら、米国No.1の食品雑貨ECサイトである「walmart.com」のメディア力を評価し、Walmart Connectへの広告出稿額を増やしてると考えられ、米国型リテールメディアは、物販系ECプラットフォームに立脚した広告だと言えるのではないでしょうか。

2.Walmart Connectとは何か

 ウォルマートの広告事業は、どのリテールメディアもそうであったように、当初は、広告代理店を介した、自社オウンドメディア(Web、EC、アプリ等)の予約型商品の販売からスタートしています。
 その後、2019年頃からデジタルマーケティング系スタートアップに対するM&Aや、アドテク領域の企業との提携を進め、システム開発や広告運用の内製化を進めており、現在では、広告営業、管理、運用の実行部隊を含め、かなり広い範囲を自社でハンドリングする広告内製化プラットフォームに進化していると考えられます。

 Walmart Connectの広告プラットフォームの機能と広告メニューの特徴は、以下の通りです。

【自社メディアを束ねるSSP】
ウォルマートのオンサイトメディアへアクセスした利用者に対する最適な広告出稿を司る自社メディアの一括運用プラットフォーム

【主な広告プロダクト】
・検索型スポンサープロダクト広告
・検索型スポンサーブランド広告
・運用型のディスプレイ広告

・セルフサービスのディスプレイ 広告(DSS)
広告主が代理店を介さず、セルフで広告を出稿できるプラットフォームを提供するため「Thunder Industries」を買収

・ウォルマートDSP(オフサイト)
広告主がウォルマートのオーディエンスデータを活用して、オフサイトのメディアへ広告配信する取引先の広告枠の買付けを自動化するDSPを「The Trade Desk」との提携によって実現

・イノベーションパートナーへの配信
TikTok/Snap/Firework/TalkShopLive、Rokuなど、SNSのインフィードや動画広告、ライブコマースのプログラムに対し、ウォルマートの1stPartyデータを活用した広告配信や効果測定が可能になる連携サービスを開始

 Walmart Connectは、ウォルマートを利用するお客さまとデジタルで繋がった顧客IDと購買履歴やメディア接触(検索含む)データといった大量の行動履歴を管理するDMPを持ち、自社メディアを束ねたSSPとDSP、セルフ出稿の機能を備え、さらには、オフサイトのソーシャル、ライブコマース、コネクテッドTVのメディア等、ウォルマートを介して出稿可能な在庫面の拡張を進める等、Amazon Adsを猛追しています。

 ここまで見てきたとおり、Walmart Connectは、強力な集客と販売力を持つ全米No.1の食品雑貨ECサイトである「walmart.com」を起点とし、通常、広告代理店やデジマの各種機能毎に提供されるデマンド側、サプライ側のアドテク機能を含むアドネットワークの一連を分断なく自社で提供する(内製化の範囲が極めて大きい自社名義の)広告プラットフォームであり、その内製範囲が広さから、費用の外部流出が少なく、利益を内部に留保可能な高利益率のメディア事業であると言えそうです。

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