KnightsofOdessa

東欧/旧ユーゴ/カフカス/中央アジア映画研究家。好きな女優は必ず寡作。筋金入りの非線形…

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東欧/旧ユーゴ/カフカス/中央アジア映画研究家。好きな女優は必ず寡作。筋金入りの非線形天邪鬼。2024年はエストニア/モンテネグロ/韓国を中心的に。2020年代はカンヌ映画祭のコンペ作品をコンプするぞ! 依頼等はknightsofodessa0715 at gmail まで!

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  • 世界の(未)公開映画

    東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。

  • 新作映画2024

    2024年の新作ベスト選考に関わる作品をまとめています。新作の定義は、今年も2022/2023/2024年製作の作品で自分が未見の作品です。

  • ベルリン国際映画祭コンペ選出作品たち

    カンヌ映画祭のコンペ制覇にあわせて、ベルリン映画祭のコンペもゆるゆると書いていきます。2020年から始まったエンカウンターズ部門の記事も入れます。

  • カンヌ国際映画祭コンペ選出作品たち

    2020年代の目標は"カンヌ国際映画祭コンペ選出作品をコンプリートすること"に決まりました。多分無理です。1800本近くある上、毎年20本ほど更新される地獄のリストですがのんびりやっていこうと思います。

  • オールタイムベスト

    オールタイムベストの記事を掲載しています。

記事一覧

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ハンガリー映画史① 黎明期(1896~1910)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年…

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モハマド・ラスロフ『グッドバイ』イラン、"国内で疎外されるなら国外で疎外される方がマシ"

モハマド・ラスロフ長編6作目。テヘランで出国ビザを求める若き弁護士ヌーラの物語。ジャーナリストである夫のことも含めて、ヌーラは当局によって弁護士資格の停止、唐突…

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17時間前
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モハマド・ラスロフ『Iron Island』イラン、沈みゆく船、沈みゆく国家

傑作。モハマド・ラスロフ長編二作目。ペルシャ湾に浮かぶ朽ちかけた石油タンカーで暮らす不法占拠者たちの物語。タンカーはネマト船長(ネモ船長への目配せか?)と呼ばれる…

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モハマド・ラスロフ『The White Meadows』涙を集める男が見たイランの寓話

傑作。モハマド・ラスロフ長編五作目。編集にはジャファル・パナヒ。主人公ラフマットは小さな島々を小舟で回りながら、冠婚葬祭から雨乞いみたいな儀式まで様々な行事に参…

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ロバン・カンピヨ『Red Island』ある少年のマダガスカル駐在記

ロバン・カンピヨ長編四作目。カンヌにもヴェネツィアにも行かず、カンヌ終了後にフランス公開後、サンセバスチャン映画祭のコンペに選出されるなどの謎ムーヴで昨年の私を…

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ヴァレリー・ドンゼッリ『Just the Two of Us』モラハラの解剖学

ヴァレリー・ドンゼッリ長編七作目。エリック・ライナートによる同名小説の映画化作品で、監督との共同脚本にオードレイ・ディワンも参加している。物語はブランシュという…

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João Canijo『Living Bad』ポルトガル、子供を支配したい毒親三部作

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ジョアン・カニホ(João Canijo)長編最新作二部作。同じ映画祭のコンペ部門に出品された『Bad Living』と対になってお…

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12日前
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ジョルジョ・ディリッティ『ルボ』子供たちを探す父親の20年

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ジョルジョ・ディリッティ長編五作目。1939年スイス、家族で大道芸人をしながら国中を渡り歩くイェニッシュの家長であるルボ…

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2週間前
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マルコ・ベロッキオ『甘き人生』落下と家と死への無意識的な執着

傑作。マルコ・ベロッキオ長編23作目。マッシモ・グラメッリーニによる同名小説の映画化作品。子供時代に母親を亡くした主人公マッシモは大人になっても母親の幻影に縛られ…

KnightsofOdessa
2週間前
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アラン・タネール『白い町で』ブルーノ・ガンツ、リスボンの町を歩き回る

傑作。1983年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アラン・タネール長編八作目。今回はスイス人海洋整備士ポールが、航海中に立ち寄ったリスボンに留まって、何もしないまま…

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2週間前
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アラン・タネール『Messidor』スイスに降り立った二人のアナーキー女神

大傑作。1979年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アラン・タネール長編六作目。試験前の休暇で都市部の家を出た学生ジャンヌとローザンヌにいる父親を尋ねるマリーは、偶…

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2週間前
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ジャック・オーディアール『つつましき詐欺師』"最上の人生とは作られたものだ"

1996年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ジャック・オーディアール長編2作目。ジャン=フランソワ・ドニオーによる同名小説の映画化作品。物語は現在のアルベールやその関…

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3週間前
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ゼルナー兄弟『Sasquatch Sunset』ウホウホなサスカッチたちの春夏秋冬

ゼルナー兄弟共作長編二作目、兄デヴィッドは単独監督作も含めると長編七作目。サンダンス映画祭でプレミア上映された際は多くの観客が途中退場したらしい。ロッキー山脈一…

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3週間前
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マルコ・ベロッキオ『マルクスは待ってくれる』ベロッキオ、双子の弟に向き合う

マルコ・ベロッキオが自身の家族を撮ったドキュメンタリー。彼が29歳のときに亡くした双子の弟カミッロについて、生き残った家族たちが思い返すという内容。才能に溢れる兄…

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3週間前
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マッテオ・ガローネ『僕はキャプテン』少年たちの過酷な移民旅

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞イタリア代表。マッテオ・ガローネ長編11作目。セネガルからサハラ砂漠と地中海を超えてイタ…

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3週間前
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マルコ・ベロッキオ『蝶の夢』会話を止めた舞台俳優とその家族たち

傑作。マルコ・ベロッキオ長編13作目。若き舞台俳優マッシモは14歳の頃から日常会話を拒否し、舞台上でのみ台詞を話す生活を続けていた。ある日、彼の舞台を観て感動した演…

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4週間前
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ハンガリー映画史① 黎明期(1896~1910)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 ハンガリーと世界映画史の関わりは一見謎に包まれている。ハンガリー映画で有名な作品は何かと言われると、ファーブリ・ゾルタンやヤンチョー・ミクロシュなどが挙げられるが、日本ではイマイチ知られていない。しかし、20世紀フォックスの創設者ウィリアム・フォックスも、パラマウン

モハマド・ラスロフ『グッドバイ』イラン、"国内で疎外されるなら国外で疎外される方がマシ"

モハマド・ラスロフ長編6作目。テヘランで出国ビザを求める若き弁護士ヌーラの物語。ジャーナリストである夫のことも含めて、ヌーラは当局によって弁護士資格の停止、唐突な家宅捜索など様々な嫌がらせを受けている。仕事がないので生活費を切り詰め(部屋の中は基本的に真っ暗)、箱を作る内職をしながら宝飾品などを売ってブローカーへの支払いに当てていた。おまけに彼女は妊娠中だが、自らが望んだとはいえ今ではポジティブに捉えられていない。すべてが真っ暗な状況でヌーラは、出国に向けてたった一人で準備を

モハマド・ラスロフ『Iron Island』イラン、沈みゆく船、沈みゆく国家

傑作。モハマド・ラスロフ長編二作目。ペルシャ湾に浮かぶ朽ちかけた石油タンカーで暮らす不法占拠者たちの物語。タンカーはネマト船長(ネモ船長への目配せか?)と呼ばれる老人によって支配されている。彼は毎日のように船内を巡回して住民たちの悩みを聞き、女たちの内職や男たちの船解体を指揮し、外部との交渉も行い、なんなら娘の結婚まで斡旋し、子供たちへの教育も整備するというように、表向きは"慈悲深き"指導者である。一方で、自分の定めたルールに従わない者には容赦しないという一面もある。つまり、

モハマド・ラスロフ『The White Meadows』涙を集める男が見たイランの寓話

傑作。モハマド・ラスロフ長編五作目。編集にはジャファル・パナヒ。主人公ラフマットは小さな島々を小舟で回りながら、冠婚葬祭から雨乞いみたいな儀式まで様々な行事に参加して人々の涙を集めている。どこまでも白い海辺の陸地、青から時に紫にまで変化する空、何も語らぬ静かな海という情景の美しさと相反して、そこに暮らす人々は伝統を重んじた生活と儀式の効能を信じており、宗教的過激主義、教条主義、女性差別、芸術や創造性の分野における重大な不正義によって息苦しさすら感じさせる。ラフマットは傍観者/

ロバン・カンピヨ『Red Island』ある少年のマダガスカル駐在記

ロバン・カンピヨ長編四作目。カンヌにもヴェネツィアにも行かず、カンヌ終了後にフランス公開後、サンセバスチャン映画祭のコンペに選出されるなどの謎ムーヴで昨年の私を大いに困惑させた一作。時は1971年、フランス軍が撤退する前夜のマダガスカルにて、主人公のトマ少年は人気YAシリーズ『Fantômette』の世界を夢想しながら過ごしていた。物語は彼の窃視的な目線から、マダガスカルを去る直前のフランス軍人一家の生活を観察していく。トマの父親ロベールはアルジェリアやチャドなどを転々として

ヴァレリー・ドンゼッリ『Just the Two of Us』モラハラの解剖学

ヴァレリー・ドンゼッリ長編七作目。エリック・ライナートによる同名小説の映画化作品で、監督との共同脚本にオードレイ・ディワンも参加している。物語はブランシュというローズという双子の姉妹を主人公としている。我らがヴィルジニー・エフィラが二人を演じており、引っ込み思案なブランシュをセンター分けエフィラさんが、パリピなローズを前髪ありエフィラさんが担当している。物語はローズの開いたパーティで、ブランシュがグレゴワールという銀行員の男に出会うところから始まる。二人は恋に落ち、グレゴワー

João Canijo『Living Bad』ポルトガル、子供を支配したい毒親三部作

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ジョアン・カニホ(João Canijo)長編最新作二部作。同じ映画祭のコンペ部門に出品された『Bad Living』と対になっており、同作ではホテル経営をする親子三代、本作品ではそのホテルにやって来た客の目線で同じ時間の出来事を描いている。本作品は似たような境遇にある三組の客を三部構成で描いており、客同士の直接的な関わりはないものの、同じシーンを別の視点で見ることが出来るという点で『Bad Living』を別視点で3回見

ジョルジョ・ディリッティ『ルボ』子供たちを探す父親の20年

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ジョルジョ・ディリッティ長編五作目。1939年スイス、家族で大道芸人をしながら国中を渡り歩くイェニッシュの家長であるルボは、いきなり道端で呼び止められて徴兵される。そして、嫌々ながら国境を警備していたある日、再教育という名目で子供たちが連れ去られ、妻が殺されたことを知る。ルボは怪しげな密輸業者の男ライターを殺害してなりすまし、子供たちの行方を追っていく…のだが、いくら大道芸人だからっていきなり素人が山道を運転できるようになったり

マルコ・ベロッキオ『甘き人生』落下と家と死への無意識的な執着

傑作。マルコ・ベロッキオ長編23作目。マッシモ・グラメッリーニによる同名小説の映画化作品。子供時代に母親を亡くした主人公マッシモは大人になっても母親の幻影に縛られ続けている、という話。母親が飛び降り自殺したことは知らされず、劇中でも母親の遺体は全く映されなかったはずなのに、知ってか知らずか映画は序盤から落下と死に執着し続ける(あと、異様な数のナポレオンの胸像にも)。それが高低差に結びつかないのは落下と死の直接的な関係性を知らないからだろう。1992年の実業家自殺、1993年の

アラン・タネール『白い町で』ブルーノ・ガンツ、リスボンの町を歩き回る

傑作。1983年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アラン・タネール長編八作目。今回はスイス人海洋整備士ポールが、航海中に立ち寄ったリスボンに留まって、何もしないままただリスボンの街を歩き回る映画。このある種の不条理さ、リタ・アゼヴェード・ゴメス『The Sound of the Shaking Earth』を思い出した。どっちもDPがアカシオ・デ・アルメイダだったということを後から知って感動している。不条理さというと、冒頭で秒針が逆向きに進む時計が登場しており、観客の時間が正

アラン・タネール『Messidor』スイスに降り立った二人のアナーキー女神

大傑作。1979年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アラン・タネール長編六作目。試験前の休暇で都市部の家を出た学生ジャンヌとローザンヌにいる父親を尋ねるマリーは、偶然同じ道でヒッチハイクしていたことで知り合う。二人の初登場シーンから強烈だ。交通量の多い道路の騒音に悩むジャンヌは、見晴らしの良いベランダに背を向けながら旅に出る決意を語る。ローザンヌ行きの切符を無くしたマリーはそのままホームの階段を降りていく。様々な移動手段が登場する本作品の中で、後に飛行機に向けて発砲しているこ

ジャック・オーディアール『つつましき詐欺師』"最上の人生とは作られたものだ"

1996年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ジャック・オーディアール長編2作目。ジャン=フランソワ・ドニオーによる同名小説の映画化作品。物語は現在のアルベールやその関係者へのインタビューと当時の再現映像を往来するモキュメンタリー的な構成で展開する。1930年代、英雄小説を読んで英雄に憧れるアルベール少年は、一次大戦で戦死したと言われてきた父親がただの肝硬変で死んだアル中男だったと知り失望する。二次大戦は戦争未亡人の一人息子ということで徴兵を免れ、そこでイヴェットという女性と結婚

ゼルナー兄弟『Sasquatch Sunset』ウホウホなサスカッチたちの春夏秋冬

ゼルナー兄弟共作長編二作目、兄デヴィッドは単独監督作も含めると長編七作目。サンダンス映画祭でプレミア上映された際は多くの観客が途中退場したらしい。ロッキー山脈一帯で目撃されるUMAサスカッチの一団の春夏秋冬を追った一作。台詞はウホウホ音のみ。真っ昼間から森のど真ん中でセックスしてる冒頭から中盤までは、セックスにウンコにゲロにチンコに云々という下品なコメディで、正直自分の好みとは正反対だったが、エピソード単位ではしょーもなすぎて笑えるものも多かった。特に、初めて道路見て盛り上が

マルコ・ベロッキオ『マルクスは待ってくれる』ベロッキオ、双子の弟に向き合う

マルコ・ベロッキオが自身の家族を撮ったドキュメンタリー。彼が29歳のときに亡くした双子の弟カミッロについて、生き残った家族たちが思い返すという内容。才能に溢れる兄ピエルジョルジョと優秀すぎる双子の兄マルコに対して、平凡なカミッロは人生を迷い続けたことが明かされる。兄妹はてんでバラバラの方向を向いてそれぞれが独立して生きていたと語られる通り、ベロッキオ家のメンバーの記憶はだいぶざっくりしていて、カミッロの当時の恋人の妹という距離感の女性が推測ではない生身のカミッロを一番覚えてい

マッテオ・ガローネ『僕はキャプテン』少年たちの過酷な移民旅

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞イタリア代表。マッテオ・ガローネ長編11作目。セネガルからサハラ砂漠と地中海を超えてイタリアを目指す二人の少年セイドゥとムサの物語。漠然とした目的を抱えたままイタリア行きを決意した二人は、家族に伝えることなく過酷な旅に出る…くらいまでは良かったんだが、砂漠を超えるシーンの砂漠の美しい撮り方なんかはジャンフランコ・ロージ『国境の夜想曲』に似ていて、まさにヴェネツィア映画祭を意識したのかなぁと感じて

マルコ・ベロッキオ『蝶の夢』会話を止めた舞台俳優とその家族たち

傑作。マルコ・ベロッキオ長編13作目。若き舞台俳優マッシモは14歳の頃から日常会話を拒否し、舞台上でのみ台詞を話す生活を続けていた。ある日、彼の舞台を観て感動した演出家がその事情を知り、彼の人生を舞台化するべく彼の母親に脚本執筆を依頼した。それをきっかけに、考古学者の父親、詩人の母親、物理学者の兄、愛に迷うその妻アンナはマッシモと向き合い、それぞれのアプローチで彼をどうにかして喋らせようと苦心する。しかし、マッシモは彼らには口も心も開かず、森の小屋に暮らす少女にだけ心を開いて