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20240127

 蛙坂須美さんとスミス市松さんの主宰するモアメド・ムブガル・サール『人類の深奥に秘められた記憶』(野崎歓訳、集英社)の読書会「第四回腐茸会」に参加した。新宿にあるルノアールの貸し会議室を使って十二人が集まる読書会になった。こうした大勢の読書会は初めてで興味深い体験だった。課題図書は、二〇二一年の仏ゴングール賞受賞作で、第二次大戦前にフランスで発刊されたセネガル出身のT.C.エリマンという作家による『人でなしの迷宮』に魅せられた若手作家ジェガーヌが「黒いランボー」とまで称されたエリマンの謎に迫る物語。一読した際は、面白く読んだが、改めて読書会に向けて再読していると、驚くほどその仔細を忘れてしまっていた。リーダビリティの高さがあることに間違いないが、印象深いことも、カタルシスも、言わば引っ掛かりがないのだ。すべてが物語の流れに回収されてしまっている。スミスさんが「新幹線の車窓から景色を眺めているよう」な窮屈さを感じたということを語っていた、まさにその印象が再読で強まった。わたしは冒頭から序盤にかけてのジェガーヌの文学仲間との交流場面を描いた部分を割かし面白く読んだ。それは自分がものを書いている人間だから、あるあるとして消費していたのかもしれない。それでもそこに実存を感じた。
 後半はセネガルでの政治問題にフォーカスしていく。サールは『純粋な人間』でもムスリムが同性愛者の墓を暴くという実際に起こった事件をもとにした中篇を書いていて、自国の社会問題に対する意識は高くて、彼はそれを書きたいのだと思うが、わたし個人としては身の回りのことを書いた方が面白い気がした。本作にも引用されている村上春樹や石牟礼道子のように大きな問題に関しては、もう少し本格的に時間を掛けて(それこそ五年や十年といったライフワークとして)書けばいいのではないか。もしかしたら本人もそんなことは計算済みで、ゴングール賞を獲って好き勝手に書けるようにすべてが彼の目論見どおりに進んでいるのかもしれない。そういう話も飛び交った。読書会が終わった後は二次会で酒を飲みながら色々なことを話したり、聞いたりした。ひさしぶりに多くの人と交流したので刺激になったし、心地よい疲れもあった。

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