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「帆神」感想文

謡曲「高砂」の一節を引くとすれば、「四海 波しずか」を祈らずにいれない昨今です。健康、安全、安穏に過ごせていけるように、とひきつづき念じております。

さて、先日、新刊の案内を見て、すぐに買い求めていた本「帆神(ほしん)」を先ほど読了しました。

一言感想は、「今につながる産業技術開発の歩みに感謝」です。

実は、玉岡かおるさんが書かれたこの本、自身につながる部分を感じ、読み進めるほどに、「あ、それか」、「あ、そこか」と立ち止まりまくり、でした。感想をあれこれ考え出すときりがないといいますか、多重多層にわたってしまい、とてもまとまりそうにありません。

本には偉人の史実に基づく部分が散りばめられており、中身を少しお話ししても、ネタばれにはならないと思いますので、本の中の寓話と産業の足跡を少し紹介します。

主人公の、工楽松右衛門さんのお名前は、子どもの頃から発明家としてよく耳にしていましたが、裕福な商家の主人が道楽で発明していたものと思い込んでいました。でも、この本を読んで、そうではなかったことがわかりました。物語は、高砂の地から始まります。松右衛門"帆"を発明、普及させたことで知られる松右衛門さん、本の題名「帆神」は、もちろん帆の発明家、帆を操る船乗り、であった松右衛門さんを示すものでしょう。また、最初の方に登場する古謡の一節「高砂や この浦船に帆をあげて」にある、高砂と住吉の神々が船に帆をあげたか、空を飛ぶか、して自由に行き交った様子から、神の帆、帆の神、にもかけているのかもと読めました。


そして、物語の次の地は、今でいう和田岬のあたりです。この地には、今も守っていただけている 気 を感じる社があります。和田岬は自身生まれ育ちの苅藻・尻池のお隣の島、物語当時の海岸線(埋め立てられた地の手前が海岸線だったものと推測)を思い起こしながら読みました。


主人公の生きざまを描いているのはもちろんなのですが、産業発展の歴史、商業発展の歴史、物流発展の(物流革命といってもよいほどの)歴史、金融のしくみ(資金調達や還元)の歴史、物流都市・拠点の栄枯盛衰、が描かれていて、何重にも楽しめる内容でした。

船舶にも関係する仕事もしている自身にとって、船のしくみ(帆、帆布、巻き上げ機やクレーン)、港湾整備、海運の体制、水路の開発、などの当時の様子や変遷も大いに勉強になりました。主人公の足元にも及びませんが、こころざしをもって仕事にあたりたいとあらためて感じます。

懐かしい地名など引き込まれる箇所が多いのですが、函館に船渠をつくった場面には、馴染み深い「竜山石」も登場し、驚きました。


当時の西国の海路について触れることができましたので、陸路はどうだったのか(陸上貨物輸送は馬車とか?)にも興味がわきます。

故郷兵庫県の偉人は、この本の中に、松右衛門さんのほかにも、北風家や高田屋なども登場し、いろんな歴史が紡がれ、交差してきたことがわかります。
今、実家がある高砂市、松右衛門さんのほかにも江戸時代に船に乗っていた有名人がおられます。その人の伝記も著されてくるとよいなと思いました=歌舞伎では怪しい登場をしてくる あの人(笑) 。

  ※神戸 西尻池、1960年代の
   風景です(旧 西国街道近く)

 ※和田岬駅

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