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会社員&週末ピアニストに聞く 「自分らしい音楽との付き合い方」

大学生の誰もが思い悩むであろう卒業後の進路。音楽を心から愛し、日々練習に打ち込む音大生も将来に対する漠然とした不安を抱いているはず。これからの長い人生、もちろん音楽を続けたい。でもどうやって?
同志社女子大学学芸学部音楽学科演奏専攻鍵盤楽器コースをピアノ専攻で卒業され、現在は会社員&週末ピアニストとして活動している今倉希望さん。多忙な日々を送る彼女だが、その笑顔はとても眩しかった。音大生の先輩、社会人の先輩として私たちの少し先を歩く今倉さんの言葉から、きっとあなたも未来へのヒントを見つけるはず。

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就活を始めたのは4回生!?

――現在の会社では、どのようなお仕事をされていますか?

ベンチャー企業で音楽プロジェクトの運営に携わっています。プロジェクトでは著名アーティストを手掛けるプロデューサーによる個人面談をはじめ、オリジナル楽曲の提供やアーティスト写真撮影、さらにはLIVE出演など、様々な“チャン ス“と”武器“を提供しています。私は主にお客様とプロデューサーとの個人面談、オリジナル楽曲制作の部分を担当しており、面談にマネージャーとして同席して音楽の専門知識を活かしながらお客様の想いを形にするサポートをしています。なので、一応肩書きとしては「マネージャー」です。様々な相談に乗る機会が多く、“お客様への伴走“を日々心がけてお仕事をしています。

――大学入学時はどのような進路を考えていましたか?

やはり音大に入ったので漠然と「音楽に携わる仕事」がしたくて、楽器店のピアノ講師になろうかな、などといろいろ考えていました。でもやっぱり留学したい気持ちもあって、3回生になる直前にウィーンへ短期留学。しかし現地で習った先生が大学で教えていない方だったので、留学先の学校についても改めて考えないといけないと思い、4回生の夏休みにもう一度ウィーンに行きました。その時に「やっぱり留学するのは違うな...」と。帰国後進路を考えなおし、10月頃から就活を始めました。

――ほとんどの人が2、3月から就職活動を始める中で、今倉さんは10月スタート。周りとは違う独自の道を走られていたと思うのですが、戸惑いは?

就活の知識も全く無いのに、はじめは「いけるやろ~」という根拠のない自信がありました。時期的に周りの友達は入社式を迎える人が多く、そんな中で私スーツ買うところから始まり(笑)。
とにかく時間が無かったので、体当たりで臨みましたね。とはいえ、はじめは一般企業系を色々受けて、20社くらい落とされて。新卒だけではなく中途募集にも応募しました。そもそも募集していない会社にもたくさん履歴書を送っていました。

今考えたらありえないと思いますが、選考に落ちたのが納得いかなくて同じ会社に二回応募したこともあります。
自分の中で「いける!」と思った面接に落ちたときはかなりマイナス思考になりました。選考結果の連絡が来ず、1日中泣いていたことも。それに加えて両親からは「今の時期からで間に合うの?」「年越したら就職させてもらえるところないで?」と色々言われて、かなり辛い時期もありました。
就活を始めるときに、当時の彼氏(今の旦那さん)がかなり手助けをしてくれようとしていました。というのも前職が人事関係だったので、履歴書の書き方、面接についても詳しく、教えてもらえる環境だったのですが、どうしても自力で就活したくて。でもさすがに20社くらい落ちた時は履歴書の訂正をお願いしました(笑)。
どんなに辛くてもやるしかないし、自分で決めた事なので根性で突き進みました。

――辛い就職活動を辞めて音楽だけの進路に変更することは考えましたか?

楽器店のピアノ講師なども考えてみたのですが、音楽だけになった場合自立できないと思ったんです。
私は両親がどちらも音楽関係の仕事をしていないということもあって、小さい頃からかなり厳しく育てられてきたんです。だから大学卒業後はしっかり自立したいと思っていました。生活費や奨学金の返済も全部自分で賄いたいと思った時に音楽の仕事だけではそれができないと思い、「絶対に就活は成功させるぞ」という気持ちでした。 
それに、何か新しい事を始めたいとか、色んな所に行きたいとか、そういうのも全部自由に出来るようにしたいなと。自由欲しさに就職したというのもありますね。

あと、わたしは興味があることには何でも挑戦したいと思っています。実は昔からお花屋さんで働きたいという夢があって、知り合いの雑貨屋さんの植物を販売する仕事のお手伝いもたまにしているんです(笑)。会社員と週末ピアニストと雑貨屋さん。お花じゃないけど植物を売る、ある意味夢を叶えることが出来ました。


演奏する人を支える側に 「人を認めることで自分を認める。」

――演奏をする側から支える側になったことで、今倉さん自身の演奏活動において何か意識や考え方の変化はありましたか?

留学の道を選んだ「音楽に没頭している」友人を見ると、羨ましく思うこともあります。「自分もその道を選んでいたら、人生どうなっていたのかな」って。かつては演奏をして、指導者として教えて…という演奏家になる未来を思い描いていたからこそ、まだそこに少しの憧れがあるんです。だからはじめは会社員とピアニストの兼業をすることに対して、少し後ろめたい気持ちもありました。でも、会社で携わっているアーティストも、兼業している方が多くて。あるとき、そんな方々の存在を自然と認められている自分に気づいたんです。そこでようやく、自分のことも認められた。だから、後ろめたさが消えて気持ちが楽になった気がします。「これでいいやん」って思えるようになったかな。


会社員とピアニストの2足のわらじ  「今1番欲しいのは体力」


――現在ピアニストとしてどのような場で活動されていますか?

レストランや、岩盤浴に併設しているホテルで演奏することが多いです。レストランは、大学生のときにアルバイトとして働いていたところです。アップライトピアノを置いていて、月に1度、生演奏のイベントをしているお店です。
私はホールスタッフもしながら、「演奏もさせてほしいです!」とお願いしました。誕生日や記念日などのお祝い事で来られるお客さんが多かったのでサプライズでハッピーバースデーやお祝いに合わせた曲を弾いたりしていました。
とはいえ、私はホールの仕事に関してはポンコツだったと思います(笑)。それでも「のんちゃんはピアノ弾けるから!」と言ってくださった周りの方々に本当に助けられていましたね。

2020年9月の演奏会

――ホテルの方は?

そこは松井山手にある施設で、グランドピアノが置いてあるんです。自動演奏しているのを見つけて、「これ生演奏しないともったいなくない?」と思い、InstagramのDMを送りました(笑)。ヴァイオリンの友達も連れて、ホテルまで話をしに行くと、「じゃあちょっと試しに弾いてもらえますか」と。弾いたらOKをもらいました。
そのホテルの運営会社は、元々レコード会社だったそう。他の温泉やホテルがやっていないことしたい、ということでグランドピアノを置き始めたらしいです。演奏することに関して大歓迎だったので、ラッキーでした。

――演奏活動のお仕事を見つけるのは、やはり演奏家にとっても課題の一つですよね。

友達からも「そういう演奏の仕事、どうやって見つけてるの?」とか「紹介して!」とか言われるんですよね。
私は「自分で探したらいっぱいあるやん!」「まず自分で探さないと」ってめっちゃ思います。だって、InstagramのDMを送るのはタダですし(笑)。                

受け身の状態だったら、仕事はありません。でも、自分から「やりたいです」というガッツがあれば、誰かが助けてくれると思うんです。見てくれている人は絶対います。

――ピアニストとしてのお仕事ではどのような曲を演奏されますか?

実際に演奏する場所にもよりますね。私が今弾いているホテルやレストランに関しては、クラシックをたくさん弾くとウケが良いかと言えば全然そうではない気がします。
逆に最近流行りのYOASOBIさんや、『千本桜』とか『紅蓮華』などの流行曲を弾いた方が、断然チップも多いです。中には、ブラームスとかベートーヴェンなどの本格的なクラシック曲を弾かれても...という方もいる。お客さんからのニーズに応じた演奏をしたいと思っています。


――学生時代まで音楽一筋で進んできたのに対して、今は会社員とピアノストの二足のわらじ。実際働いていて、どうですか?

もっと体力が欲しい!毎日仕事から帰って30分だけでも練習しようと思うのですが、結構帰ってきたらポックリ...という日も。かと思えばめっちゃパワーがみなぎっているときもあるんです。
でも例えば今、クラシックだけの演奏会をしてくださいと依頼されたらしんどいかな、少し厳しいかもしれないです...。クラシックは練習時間をかなり要しますし。レストランで弾くようなBGMなら、クラシックでもポップスでも譜読みも割と楽。簡単にアレンジしても雰囲気に合っていたら何も言われません。
今のスタイルが、わたしの生活に合っているなと感じます。お客さんのニーズに応え、尚且つ自分が好きだと思うものしか弾いてないんです。
それに、音楽が好きっていう気持ちや、この曲素敵だよっていうのを伝えたい気持ちが今の演奏活動のモチベーションになっていると思います。


「音楽を辞める」という概念へ抱く違和感

――大学を出て就職するとなると、音楽を辞めてしまう人が多いですよね。

そうですよね。大学時代に「卒業後どうする?」という話になると、「音楽を仕事にできないから、辞めようと思う」という人が多くて、寂しい気持ちになります。就活をしている中で、そういった友達の声を沢山聞いて違和感を感じていましたが、今の会社に勤めてより強く思うようになりました。スポーツ選手にならなくても大人がサークルに入ってスポーツを続けるように、音楽だってプロでなくても続けたらいいのに、と思うんです。

――音楽の捉え方とかにもよるのかもしれないですね。

仕事以外の趣味や娯楽として音楽をする、ということに割り切れない人がとても多いのではないかと思っています。音楽大学を出ていると、それまで積み重ねてきたレッスンや練習量、高い学費、それにどうしても自分のプライドなど、たくさんのことが付随してくるので...…。
 大学時代に音楽以外を専攻していて、趣味で演奏をしていた人は、卒業後も続けていることが多そうですね。他の専門を勉強していて、「好き」という気持ちで音楽していた人だから。

――最後に進路や将来について悩んでいる音大生にメッセージをお願いします。

自分らしい音楽との付き合い方はそれぞれです。例えば就職した場合、一年目は仕事が大変で演奏活動できない時もあると思うし、女性の場合は今後、結婚や出産などもあると思いますし、本当にさまざま。                                      

だからこそ、必ずしも「音楽をプロで」というわけでなくてもいい、そういう節目で音楽をしなくなってもいい、と思うのです。でもどこかのタイミングで再開したいと思えば、形にこだわらなければ絶対にできます。音楽を学ぶ音大での4年間のご縁がこれからの人生に繋がるということも沢山あります。「音楽が好きという気持ち」や「今までの音大生活で学んだこと」を大切にして、自分らしい音楽との付き合い方を見つけてほしいです。

――ありがとうございました!

文責:神林 優美

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