「編曲」を続けさせてくれた、全ての人達へ。
「編曲(アレンジ)」という営みが好きだ。
原曲を聴き込む。歌詞を読み込みイメージをふくらませる。楽譜作成ソフトに音符を並べる。再生してイメージと齟齬がないか確かめる。何度も作っては消し作っては消しを繰り返しを繰り返し、一歩一歩形を作っていく。
昼に作業を始め、気づいたら日付を超えていた、などということは何度もあった。
それでも、僕にとって編曲と向き合う時間は至福のもので。
かれこれ15年続けていくなかで、「編曲ができる」ということは音楽における自分のアイデンティティになっていた。
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初めて取り組んだのは高校二年生の春。
当時所属していた合唱部では、年に一度の定期演奏会で「自分たちで編曲したJPOPやアニソンを歌うコーナー」があった。
そこで披露した『めざせポケモンマスター』が、僕の初めての編曲だった。
大学サークルで始めたアカペラは、そもそも市販譜がほとんどないため、「編曲ができる」ことは大きな武器になった。
自分の所属するグループのアレンジは率先して引き受けたし、「このメンバーとこの曲をこんなふうに歌いたい」という思いを形にするのは気分がよかった。
社会人になってからもアカペラは続け、知り合いづてでオーダーメイドのアカペラ編曲を請け負うようにもなった。
仕事で心がめちゃくちゃになっても、編曲に没頭することが、自分自身を保たせてくれた部分は大いにあった。
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様々なアーティスト・ジャンルの編曲を行う一方で、「アカペラの編曲」という範囲を出たことがないことに、どこか物足りなさを感じていた。
転機が訪れたのは2019年。
たまたまSNSで流れてきた動画で、編曲の新たな可能性に出会うことになる。
それは、『めざせポケモンマスター』をaikoっぽくアレンジして弾き語りで歌う、というややマニアックな芸人のネタだった。
他の人なら「くすっ」と笑って忘れてしまうのかもしれない。
しかし、自分が初めて編曲した『めざせポケモンマスター』が、自分が狂ったように好きなaiko風になっているアレンジの妙技に、僕は釘付けになった。
※なお、aiko愛の狂い度合いに関しては下記のnoteを参照されたし。
そしておこがましいことに、謎の自己効力感の高さから「これ、自分にもできるんでは?」と思ってしまった。
それからというもの、「もしもアレンジ」ネタを思いついては作って、SNSに投稿する日々が続く。
作るほど「もっとクオリティを上げたい」というこだわりが出始め、編曲のツールは無料の楽譜作成ソフト「MuseScore」から、プロ御用達の本格的な楽曲作成ソフト「Logic」へと移行していった。
友人の間でも「面白いことやっているね」と小さな話題になり、当時の僕はやや天狗になっていた。
ただ、それでもやはり満たされない部分があった。
結局は自分のオリジナルではなく、二番煎じ。
誰かが作ったものをさも「他の誰かが作った」かのように、面白おかしくかけ合わせただけ。
結局のところ、「巨人の肩に乗っていた」にすぎないことに気づいてからは、アカペラの編曲でも「いかに原曲と違う面白いことができるか」だけでなく、「いかに原曲のよさを引き出せるか」という意識が芽生えていった。
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その結果、友人の所属するアカペラグループから受けた依頼で、自分史上一番好きな編曲ができた。
なぜかこの編曲に取り組んでいるときは、自分でも試したことのない手法が次々に降りてきて、「自分の編曲した音源に感動して、作業しながら涙を流す」という、自画自賛極まりない体験をした。
(もちろん、原曲がめちゃくちゃ好きだから、というのはあるが笑)
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そして2021年、一大チャレンジに乗り出すことになる。
オンラインで行われるプロ編曲家養成ゼミの受講だ。
そのゼミでは第一線で活躍するミュージシャンが講師となり、出されたお題に沿って楽曲を作り提出する。
ゼミを受講して講師からの認定を受けた先では、作家団体の一員となり、「プロ」として活動する道が約束されていた。
作詞作曲も自前で用意する必要があったため、様々な方の協力を得ながら必死に楽曲制作に明け暮れた。
(ゼミの開催期間が休職と重なったのは本当にラッキーだった)
しかし、講座の最後に講師からもらったフィードバックはなかなか辛辣だった。
正直、凹んだ。
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考えてみれば当たり前のことだ。
プロとして編曲を請け負う以上、「自分が100点だと思うものを作る」ことに意味は無い。
自分のアウトプットを採点するのは、フィーを払うクライアントである。
裏を返せば、「自分が50点だと思ってもクライアントが100点をつければ100点」の世界なのだ。
これがきっかけで、自分の中にうっすらあった「編曲を仕事にする」という気持ちは、音楽への情熱とともに徐々に冷めていってしまった。
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それから、さらに月日は流れ。
シンガーソングライターをやっている同僚の弾き語りライブに行ったことで、僕の中の編曲愛に再び火が灯ることになる。
どのオリジナル曲も素敵だったが、とりわけ1曲、心に刺さったものがあった。
終演後、「あんなにいい曲を配信リリースしないのはもったいない!」と声をかけた。
そう聞いた瞬間。
気がついたら口から言葉が飛び出していた。
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それからは、忙しい合間を縫いながらリリースに向けた準備をともに進めている。
原曲を聴き込む。歌詞を読み込みイメージをふくらませる。なれない手で鍵盤を叩き、ピアノ、ベース、ドラム、オーケストラの音源を打ち込む。再生してイメージと齟齬がないか確かめる。何度も作っては消し作っては消しを繰り返し、一歩一歩形を作っていく。さらにそこから、各パートの音量や音色を調節し、バランスを整えていく。
制作を進める中で、僕の編曲に対して「曲になっているかわからなかったものを、綺麗に箱に入れてリボンかけてもらっているみたい」という、とっても素敵な感謝の言葉をもらった。
でも、一度は忘れていた編曲への情熱を再び取り戻せたのは、その曲があったからこそできたことで。
こちらこそお礼を言いたいくらいだよ、と思うと同時に、大好きな曲の一節が脳内に流れた。
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「編曲」を始め、ここまで続けてこれたのは、僕ひとりの力だけではない。
家族、学校の音楽の先生、音楽を通じて出会った仲間、SNSのフォロワー、アーティスト、作詞者、作曲者、原曲のアレンジャー、スタジオミュージシャン、レコーディングエンジニア、制作の指揮をとるディレクター、楽曲を世に出すプロデューサー、アートワークやジャケットのデザイナー、サブスクのプラットフォーマー、CDショップの店員さん…。
もっともっと、たくさんの人がいるのだろう。
何処の誰かも知らない人も含め、本当に多くの人の存在があって、確かな生き甲斐を持てているということに感謝したい。
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