見出し画像

(特集)パレスチナを想う 熊本で、京都で、東京で、学内で……起つ人々

 昨年10月7日以来、イスラエル軍によるパレスチナへの攻撃が続いている。ガザ地区犠牲者数は約3万5000人(5月12日時点)に達し、100万人以上が軍の攻撃で避難させられている南部のラファに対してもイスラエル軍は攻撃の構えを強めている。
 停戦交渉が成立せず犠牲者が増え続ける中、アメリカでは学内で抗議する学生が強制排除された。日本でもパレスチナ人へのジェノサイドを糾弾する活動が実施されている。熊本をはじめ、各大学の動きを取材した。(取材班)

雨の中、通町筋に立つ「パレスチナを想う心は場所に関係ない」


 熊本市中央区の通町筋では今年はじめから「パレスチナを想うくまもと市民の会」が主催したスタンディングが行なわれている。外部団体から一切の支援を受けず、完全に有志の手弁当で企画運営までを行なっている。未明から雨が降り続く5月12日にも、青年層をはじめ幅広い層の約10人が参加した。

雨の中スタンディングを行う「想う会」の人々。活動を聞いて初めて参加する人もいた=5月12日、熊本市中央区


 スタンディングでは「パレスチナで起こっていることはイスラム教徒とユダヤ教徒の問題ではない。できごとは10月7日に始まったわけではない」として、「即時停戦」「虐殺を止めよ」「パレスチナに自由を」などとプラカードを掲げた。
雨天の中でも日曜の通町筋には多くの人が行き交っており、通りがかった人がパレスチナ問題を解説するチラシを受け取ったり、女性が「皆さんと志は同じです」と自らカンパを申し出る姿も見られた。
 参加した30代女性は「(パレスチナの問題は)もう普通の状態ではない。状況がどんどんエスカレートしていっている」と危機感を示した上で、スタンディングを知ってくれている人も増えてきている、と5ヶ月以上の活動の手応えも語った。
今回初めて参加したという30歳の男性は、「熊本でも何かやれないかと思ってい たところ、スタンディングを知った。パレスチナとの連帯はどうしても福岡などの都会で展開されるイメージだが、パレスチナを想う心は場所に関係ない」と力を込めた。
 「想う会」ではInstagramやTwitterなどでビジュアルを重視したバナーを用いた広報や、英語を用いて国境を超えた多言語連帯などを企図しており、今後もスタンディングなどの活動を継続していく。
 熊本大では現在のところ連帯キャンプ設営などの抗議活動は行なわれていないが、学内の掲示板に「虐殺やめろ」などのスローガンが掲示されることもあり、教職員・学生を中心に「イスラエルはやりすぎだ」との感情が高まっている。
 小川久雄学長は4月4日の入学式で「パレスチナの紛争も収束の兆しが見えない」と国際情勢の緊迫に言及した他、パレスチナ問題に関するオープンセミナーが開催されるなどしている。

東京大、早稲田大 虐殺と「ダブルスタンダード」に抗議


東京大学では4月末から駒場キャンパスの図書館前に連帯キャンプが設営され、学生らが泊まり込みで講義を行なっている。学生、教職員などの支援を受けつつ、他大学の学生とも交流を深めている。東大はロシアのウクライナへの侵略に対しては抗議声明を出しているが、学生らは「パレスチナへの虐殺に抗議しないのはダブルスタンダードだ」と指摘している。同大では3月18日に当局に対してガザ侵攻に対して即時停戦を求める声明を発するように求める学生・教職員の署名が提出されている(東京大学新聞2024年3月18日)。
 早稲田大学ではキャンパスの大隈銅像前で抗議集会が開かれ、特にイスラエルの兵器が「実戦で能力を証明済み」としている点、すなわちパレスチナ人を虐殺することで性能を高めており、こうした兵器を日本政府が導入しようとしていることを指摘し、「ジェノサイドへの加担だ」と批判した。他にも都内・関東圏では青山学院大学、上智大学、多摩美術大学、筑波大学などでも継続的/単発的に連帯キャンプなどの行動が実施されている。

京都大「学問をする場が暴力で支配されている。学生として意思表示を」


 京都大学ではパレスチナ人民と連帯する京大有志の会(KUVASP)が主導し、吉田キャンパスのシンボル・時計台のすぐ近くで連帯キャンプを設営している。本紙の京都大学内の協力記者が参加している同大学院人間・環境学研究科博士課程の川野さん(以下 K)と、農学部の三浦さん(以下 M)に話を聞いた。

キャンプのタテカン前で=5月12日、京都大学吉田キャンパス(京都大学内協力記者撮影)


——なぜこうした連帯キャンプを始めようと思ったのですか
K「かねてからアピールはずっとしてきたわけですけど、アメリカ・コロンビア大学で、 パレスチナ連帯キャンプ運動が始まって、それが全米各地にどんどん波及していく中で、 アメリカ当局は潰しに来てるっていうような状況になっている。アメリカ国内で、こういった連帯キャンプが非常に難しくなってきている中で、アメリカの外、世界的にアメリカの学生、それからもちろんパレスチナに連帯して、連帯キャンプを張ることをしないといけないと思い、かなり見切り発車だけど始めました」
——このキャンプは組織として運営しているのですか
K「運営委員会という形で運営されていますが、現在の非常に残虐な、イスラエル軍による虐殺に問題を持った人たちが集まってきたっていう、有志としての集まりに近いです」
なぜ日本の大学で行動するのか
——アメリカの場合は、軍事産業やイスラエル資本が大学と割と直接的な関係性があって、学生たちがそういうデモに走るっていうのは、 かなり分かりやすい。けど、日本の場合はそんなに見えるような形でそういうものがあるわけではないと思います。わざわざ日本の大学のキャンパスでやる理由っていうのはあるんでしょうか
K「理由は色々ありますけど、まず、パレスチナの大学や学術機関というのが、イスラエル軍の攻撃で壊滅的な打撃を受けてしまったと。その学問・研究する場っていうのが武力・暴力によって、支配されるっていうことが起きてる中で、同じその学術機関に属する者として、意思表現をしないといけないと思っているからです。そしてもう1つは、 日本もこのイスラエルの攻撃に関わってないわけじゃないか、と。非常に見えづらいのですが、例えば、京大なんかはテルアビブ大学と協定を結んでいて研究に関して連携してるわけですよね、だから研究したウイルスが、イスラエル軍の攻撃に利用されるとかっていうことも当然あり得るし、実際されてるかもしれない。特に情報学研究かなんかは以前から米軍の予算で研究したりしてるわけですから、そういうものに対しては、ちゃんとその脳みを突きつけていかないといけないという風に私は考えてます。
 なぜ京大の中でやってるっていうのは、SNSやインターネットを用いて特にコロンビア大とかハーバード大とか、運動する世界の学生とかとも繋がっていて、お互いに情報共有しながら、こういう運動っていうのを、広げていこうっていうという流れにある種、乗ってるというところがあります。世界的にみんなで同じことをするっていうのは、やはり大事なんです。それだけ運動が広がってるっていうのが、すぐ一目でわかるじゃないですか。特に京大の場合はシンボリックな時計台っていうのがあって、そこで京大の学生が連帯してやってるっていうことを、社会的に発信する必要があると思います」
——なるほど
K「だから、こんなとこでやってどうするんだ、こういうとこでやってても意味ないよとか言われるんですが、情報発信したら、アメリカの学生も見てるし、反応とかメッセージが送られてくるんです」
——三浦さんはどうして参加しようと思ったのですか
M「私がこのキャンプを知ったのは、それこそTwitterで流れてるの見て知ってからですね。日本でもこういうことをしてるっていう東大の運動だと思ってて、京大でもあればいいなぐらいに思っていたら、実際始まっていて、自分ができることって、やっぱり中東の向こうでこういう問題が起こっているんですよ、という広報にもなるし、連帯する運動が世界で起こっていて、私もそれこそ全然専門とは関係ない分野ですけど…そういう人も賛同するべきだし、色々関わってくるべきだと思って参加する運びになりました」
学内外の反応
——実際これをやってみて、市民とか教員とか学生からの反応はどういうものがありましたか
K「思っていた以上にみんな関心あるんだなと思いましたね。多くの人が来るし、教員からも、テント用の物資とかいただいて、 学生に作業手伝ってもらったり。物品カンパとか頂いたり、本当にありがたいです。社会問題に関わっていこうとした時、こう、腰を据えて語れる場みたいなのがなかなかないんですよ。インターネットとか見ていたら、凄惨な状況がいっぱい流れてきますけど、そういうのを見て悶々としてる状態で、それを語れる仲間がいない人たちが、色々話ができ
るっていうので、非常に喜んでいる感じで、そういう意味でも場所を作ってよかったのかなと思います」
——何かトラブルとかは起きてないのですか
K「トラブルと言っていいのかわかんないけど、相手とのかなり意見が違うなっていうのが改めて浮き彫りになるっていうか、話が通じないことはちょっとありますけど。それが確認できただけでもいいのかなって思いますね。あるいは、当局にしたらやっぱり邪魔なはずだから…」
イスラエル人の死をどう捉えるか、という問題
——例えば意見として、 10月7日、イスラエルに対する攻撃があったということで、確かにイスラエルでもいろんな人が死んだのは事実で、だから彼らを追悼するようなことをやらないとフェアではないんじゃないかっていう意見もありますが、それに対してはどう思いますか
K「(イスラエルの人々の死)それ自体は当然痛ましいことだし、追悼しないといけない。けれど、今私たちがやってる、抗議のキャンプっていうのは、現在起こっているパレスチナ人への虐殺に対して抗議する場所なんですよ。だから、それがまず終わらない時には、イスラエル人の追悼だとかっていうこともまずできないわけです。今まさに、その数字がどんどん増えてるわけだから、それをまず止めないといけないっていうような思いでやっています。当然、イスラエル人で殺された人もいるわけだから、その人たちを追悼することは必要だと思いますけど、まずは戦闘が終わらなければということです」
——それでは、これから活動を続ける上で課題はどういうものがあると認識されているんですか
K「確かに始めた初日に比べるとテントは多分増えてるような気がするんですけど、維持が大変なんです。こればっかりやってるわけにもいかないから、シフト組んだり、あとはトラブルがないように、あるいは、当局が動いた時にちゃんと対応できるように気をつけています。ここら辺は学生たちがいろんな課外活動とかやる場所ではあるから、 こういうことに興味ない学生、なんとなく知ってるみたいな学生とかも参加してくれれば嬉しいんですけどね。どう呼びかけていいかなと悩んでいます。こういう運動はある種京大特有だから、色々と問題とかもあったりして難しいなっていう。来た人にはもちろん説明しているけれど…」
パレスチナ内部の問題にも目を向ける
——5月19日に、京大でワリード・アル・シアム駐日パレスチナ大使を招いて講演会を開催するという話を伺いましたが、どういうことを目的としてるんですか
K「何より、まず日本にいる当事者から話を聞くべきだと。同時に、現在のヨルダン川西岸地区に対する対応っていうのが、果たして十分なのか、とか批判的に問い直すためです。自治政府というのがまともに機能してないし、イスラエルの手先みたいな形で、特に西岸地区で、パレスチナ人を拘束したりとか、イスラエル側に引き渡したりとかもしてるわけですよね。そういうところを批判的に見る機会になればいいと思います」
——この問題はいろんなジャーナリストや研究者の人が指摘されてますね
K「そうです。だからパレスチナだからみんな正しいってわけじゃなくて、やっぱ色々と(政治的な)派閥があるわけだから、問題がってあるっていうことを、きちんと話としてしていただきたい。そういうする機会になれば良いと思っている。
本来気軽に来て欲しいんだけど、気軽な問題じゃないんですね、やっぱり。 いろんな勢力があって、特定勢力のなんかこう、手先にならないようにしないといけなくて、そのためには、その勢力間の関係性とか、パワーバランスとか、色々ちゃんと理解しておかないといけない。今、パレスチナ問題で「虐殺やめろ」っていうのは、言いやすいし、入りやすいんだけど、ちゃんとやるなら、もうちょっと現地情勢とか知識つけなきゃいけないんと思うんです。我々にとっての学習の機会としても位置づけられれば良いと思います」
——インタビューの最後に何か仰りたいことなどはありますか
M「結構関わりにくいというか、あまり普段政治活動とかやらない人とかがほとんどだと思うんですけど、 こうした問題に『関わることから関わっていけばいい』と思うので、気軽に…気軽にはさすがにできないかもしれないですけど、 『フリー・パレスチナ』のテントの中に入ってみてどういうことやってるかって聞くぐらいは、全然気軽にやっていいと思うのです。そういう運動を作って、参加することはできなくても、多くの人に周縁部で自分なりに関与してもらえたらと思います」
K「もっとこう色々できるんだっていうことに気づいてほしい、自覚してほしいなっていうのはありますね、この世界的な動きに」
(記事・写真ともに=熊本大学新聞社 京都大学協力記者)


(注1)熊本大学新聞社は各大学や学外の取材体制の充実のために、OBOGや読者、賛同者などに外部での取材を一部協力してもらう「協力記者」制度を導入しています。
(注2)イスラエル軍の攻撃により、4月25日時点でガザ地区内の全ての大学を含む8割の教育施設・機関が破壊、13の公共図書館や200ヵ所近くの歴史的遺産も破壊され、1万5000人近くの学生・教職員が殺傷されている。22日に国連の人権専門家により「スコラスティサイド」(学術ジェノサイド)として憂慮が表明された。
(注2)5月19日の14時より、京都大学吉田キャンパス時計台記念館大ホールで駐日パレスチナ常駐総代表部のワリード・アリ・シアム大使を招いた講演会が実施される。主催は講演会実行委員会、共催はアムネスティ・インターナショナル日本 京都四条グループ/パレスチナ人民と連帯する京大有志の会。

(注3)パレスチナにおける自治政府の統治に関する問題に関しては、本紙第222号のジョシュア・リカード熊本大学特任准教授のインタビューが参考となる。
(2024年5月12日)

【参考記事】

#熊本 #熊本大学 #熊大 #パレスチナ #イスラエル #ガザ #ラファ #キャンプ #連帯 #ジェノサイド #スタンディング #大学生 #社会問題

【パレスチナを想うくまもと市民の会のTwitter、Instagramアカウント】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?